日本における慢性腎臓病(CKD)の患者数は年々増加しており、2023年の統計では約1,330万人と推定されています。進行すれば透析療法が必要になることもあるCKDですが、適切な介入により進行を遅らせ、透析を回避できる可能性も十分にあります。
本コラムでは、「透析にならないために」をテーマに、CKD進行の原因、予防法、そして特に注目されている運動の効果について、ガイドラインや最新のエビデンスを交えて解説します。
CKDは、腎機能が3か月以上にわたって低下した状態、または尿異常が持続する状態を指します。GFR(糸球体濾過量)で分類され、G3(GFR 45〜59mL/min/1.73m²)以上になると、透析のリスクが高まります。
CKDは高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病との関連が深く、これらのコントロールが悪化することで腎機能が徐々に低下します。
透析導入の最大の原因は糖尿病性腎症です。日本透析医学会の統計(2023年)によると、新規透析導入患者のうち、約40%が糖尿病を原因としており、次いで慢性糸球体腎炎、高血圧性腎硬化症が続きます。
糖尿病では高血糖が腎臓の微小血管に障害をもたらし、やがて腎不全に至ります。高血圧もまた腎血流を低下させ、腎機能の悪化を招きます。
透析を回避するためには、腎機能低下の早期発見と進行予防が鍵です。以下に予防戦略の柱を示します。
1. 原因疾患の適切な管理
・糖尿病管理:HbA1c目標値を個別に設定し、血糖コントロールを最適化
・高血圧管理:推奨血圧は130/80mmHg未満(CKD合併時)
・脂質異常症の治療:スタチンなどの使用で心血管イベントのリスクも同時に低下
2. 食事療法
低たんぱく食は腎機能保護に一定の効果があるとされており、2020年のKDIGOガイドラインでも、GFRが30未満の患者に対し、たんぱく質摂取量を0.55~0.60g/kg体重/日程度に制限することが推奨されています。
ナトリウム摂取も1日2g未満に制限することが望ましいとされています。
3. 定期的な腎機能モニタリング
・eGFRや尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)などを定期的にチェック
・CKDのステージに応じた適切な検査頻度を設定
腎機能低下患者においても、運動療法は安全かつ有効な介入方法であることが複数の研究で示されています。
運動の効果
・血圧・血糖の改善:有酸素運動はインスリン感受性を高め、血圧を安定させます
・腎血流の改善:筋力トレーニングやウォーキングにより腎臓の代謝負担が軽減
・炎症マーカーの低下:CRPなどの慢性炎症を抑制する効果も確認されています
実践例
・週3〜5回のウォーキング(30分程度)
・レジスタンストレーニングを週2〜3回
・椅子に座ったままできる下肢運動など、自宅でも継続しやすい運動の指導が重要
医療従事者は、腎機能低下のリスクを早期に把握し、ライフスタイル改善への動機づけや継続支援を行うことが重要です。
チーム医療によるアプローチ
・医師:診断・薬物治療の指導
・看護師:生活指導、服薬支援
・管理栄養士:個別の食事療法の提案
・理学療法士:身体機能に応じた運動プログラムの立案と実施
透析にならないためには、CKDの原因となる生活習慣病の早期発見と継続的な管理が不可欠です。特に、糖尿病や高血圧の管理に加え、食事・運動療法を含む包括的な予防戦略が重要となります。
運動は、腎機能の悪化を抑制するだけでなく、QOL向上にもつながる介入法として、医療従事者が積極的に取り入れるべき重要な手段です。
今後もガイドラインやエビデンスを参考にしながら、患者一人ひとりに合わせた個別的な支援を行うことが、透析導入を防ぐ第一歩となるでしょう。
・Heiwe S, Jacobson SH. Exercise training for adults with chronic kidney disease. Cochrane Database Syst Rev. 2011;2011(10):CD003236.
・Beddhu S, Wei G, Marcus RL, et al. Light-intensity physical activities and mortality in the United States general population and CKD subpopulation. Clin J Am Soc Nephrol. 2019;14(1):72–80.
・Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Clinical Practice Guideline for Nutrition in CKD: 2020 Update.
・日本透析医学会『わが国の慢性透析療法の現況(2023年版)』.