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腎臓リハビリテーションとは?
運動療法と最新ガイドラインに基づく実践ポイント

慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)の患者は、腎機能の低下だけでなく、心血管疾患やサルコペニア、フレイルなど多くの合併症のリスクを抱えています。そのような患者に対し、機能維持とQOL(生活の質)の向上を目指して行われるのが「腎臓リハビリテーション」です。
本コラムでは、腎臓リハビリテーションの定義から、運動療法の具体的内容、さらにガイドラインに基づいたエビデンスに触れながら、医療現場での活用ポイントについて解説します。

腎臓リハビリテーションとは?

腎臓リハビリテーションとは、慢性腎臓病患者に対して、腎機能の進行抑制や心血管疾患予防、QOLの改善を目的に、医学的管理、栄養指導、心理的支援、そして運動療法を組み合わせて実施される包括的なリハビリテーションプログラムです。
2018年に日本腎臓リハビリテーション学会が定義を発表し、以降、腎疾患に特化したリハビリテーションとして注目を集めています。

なぜ腎臓病にリハビリテーションが必要なのか?

CKDは静かに進行する疾患であり、腎機能の低下は長期にわたる身体的活動の低下と密接に関係しています。特に透析導入患者では、身体活動量の低下や筋力の低下が著しく、日常生活動作(ADL)の制限や転倒リスクの増加、うつ状態などが見られることも少なくありません。
また、CKD患者は心血管疾患のリスクが高く、運動不足がさらなるリスク増加につながることが示唆されています。そのため、運動療法を含む腎臓リハビリテーションは、疾患の進行を遅らせるだけでなく、生命予後やQOLの改善にもつながる重要な取り組みとされています。

腎臓リハビリテーションにおける運動療法の役割

腎臓リハビリテーションの中心的な要素のひとつが「運動療法」です。特に、心肺機能や筋力、バランス能力の改善を通じて、CKD患者の身体機能を全体的に向上させることが目的です。

運動の種類と内容
・有酸素運動:ウォーキング、サイクリング、踏み台昇降など
・レジスタンストレーニング:軽度〜中等度の随意、電気刺激における筋力トレーニング
・柔軟性運動:ストレッチなど

これらの運動は、患者の腎機能レベルや合併症の有無、運動耐容能に応じて個別に調整されるべきです。

ガイドラインに基づく腎臓リハビリテーションの実践

日本腎臓リハビリテーション学会の提言(2022年)
日本腎臓リハビリテーション学会が2022年に公表した「腎臓リハビリテーションガイドライン2022」では、運動療法の安全性と有効性が科学的根拠に基づき明記されています。
以下はガイドラインで推奨されている主なポイントです。

・CKDステージ3以降の患者にも運動療法は安全かつ有効である
・有酸素運動は週3日以上、1回30分以上を目安に実施
・レジスタンストレーニングは週2〜3回を目安に実施
・自覚的運動強度(Borgスケール)で「ややきつい」程度(13程度)が目安
・心血管疾患リスクの高い患者には、医師の監視下で段階的な運動導入が望ましい

このように、科学的根拠に基づいた安全な指導体制が求められています。

腎臓リハビリテーションの効果とエビデンス

複数の研究により、腎臓リハビリテーションがCKD患者に対して有益であることが示されています。

主なエビデンス
・身体機能の改善:運動介入により6分間歩行距離の改善が見られた
・QOLの向上:KDQOLスコアの改善が報告されている
・透析導入の遅延:運動介入により腎機能の進行が緩やかになる傾向がある
・心血管リスクの低減:定期的な運動により血圧や血糖、脂質代謝の改善が報告されている

これらの結果からも、腎臓リハビリテーションの導入は多方面において臨床的な価値が高いと考えられます。

医療従事者に求められる対応と今後の展望

腎臓リハビリテーションは、腎臓専門医だけでなく、リハビリテーション科医、理学療法士、看護師、栄養士など多職種が連携して取り組む必要があります。個別性に応じた介入と、継続的な評価・支援が鍵となります。
今後は、在宅透析や在宅リハビリの普及に伴い、腎臓リハビリテーションの対象はさらに広がると見込まれています。ICTを活用した遠隔リハビリテーションの開発も期待されています。

まとめ

腎臓リハビリテーションは、CKD患者のQOL向上や生命予後改善を目指すうえで重要なアプローチです。ガイドラインに沿った適切な運動療法の実践は、医療現場でのアウトカム向上に大きく貢献します。今後ますます注目されるこの分野について、エビデンスに基づいた支援を提供していきましょう。

引用・参考文献

1. Heiwe, S., & Jacobson, S. H. (2011). Exercise training for adults with chronic kidney disease. Cochrane Database of Systematic Reviews, (10).
2. Painter, P., Carlson, L., Carey, S., Paul, S. M., & Myll, J. (2000). Physical functioning and health-related quality-of-life changes with exercise training in hemodialysis patients. American Journal of Kidney Diseases, 35(3), 482–492.
3. Matsuzawa, R., Matsunaga, A., Wang, G., et al. (2014). Habitual physical activity level is associated with the progression of CKD: A prospective cohort study. Clinical and Experimental Nephrology, 18(6), 998–1006.
4. Koufaki, P., Greenwood, S. A., Painter, P., & Mercer, T. H. (2015). The BASES expert statement on exercise therapy for people with chronic kidney disease. Journal of Sports Sciences, 33(18), 1902–1907.
5. 日本腎臓リハビリテーション学会. 腎臓リハビリテーションガイドライン2022年版.

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