高齢化が進む日本では、変形性膝関節症(knee osteoarthritis:KOA)を有する患者が増加しています。特に高齢女性に多く見られ、膝の痛みや歩行障害、活動制限を引き起こす原因として臨床現場でも日常的に遭遇する疾患の一つです。本コラムでは、変形性膝関節症に対するリハビリテーションについて、その種類と方法、そして「してはいけないこと」について、最新のエビデンスを交えて解説いたします。
変形性膝関節症は、関節軟骨の変性と骨の増殖(骨棘形成)によって関節構造が破壊され、疼痛や可動域制限が進行する疾患です。主な症状としては、階段昇降時や立ち上がり動作時の膝痛、膝の腫れ、動作開始時のこわばりなどが挙げられます。進行すると関節変形を伴い、日常生活に大きな支障をきたします。
変形性膝関節症の進行には、加齢、肥満、膝の過負荷、筋力低下、O脚などのアライメント異常が関与しているとされます(Loeser RF et al., 2012)。
変形性膝関節症に対するリハビリの主な目的は、関節の疼痛軽減、可動域の維持・改善、筋力強化、姿勢や歩行パターンの正常化、QOL(生活の質)の向上です。
手術療法に至る前の保存的治療の中心として、リハビリテーションは非常に重要です。また、術後のリカバリーにもリハビリは欠かせません。理学療法士を中心に、患者の状態に応じた個別の介入が求められます。
以下に、変形性膝関節症に対する主なリハビリテーションのアプローチを紹介します。
1. 筋力強化運動
大腿四頭筋やハムストリングスを中心とした筋力トレーニングは、膝関節の安定性向上と痛みの軽減に効果的です(Petterson SC et al., 2011)。特に大腿四頭筋の強化は、関節内圧の低下と疼痛緩和に直結します。自重やゴムバンドなどを用いたトレーニングが推奨されます。
2. 有酸素運動
ウォーキングやエアロバイクは、関節への負担を抑えつつ、全身の体力を維持・向上させるのに有効です。American College of Rheumatologyのガイドラインでは、痛みが強くない範囲での有酸素運動の継続を推奨しています(Hochberg MC et al., 2012)。
3. ストレッチと可動域訓練
関節周囲筋の柔軟性を保つことは、関節拘縮の予防と姿勢・動作の改善につながります。特に腸腰筋、ハムストリングス、下腿三頭筋などのストレッチが重要です。
4. 動作訓練(立ち上がり・歩行・階段昇降)
日常生活で避けられない動作に対して、正しい動作パターンを習得することも大切です。重心移動や膝の使い方を再教育することで、痛みを避けた効率的な動作が可能になります。
5. 装具療法・物理療法の併用
膝装具や足底板の使用は、荷重のバランスを調整し疼痛軽減に寄与します。また、温熱療法や電気刺激療法も併用されることがあります。
リハビリでは適切な負荷設定が重要であり、患者の状態に合わない方法は症状を悪化させるリスクがあります。以下は代表的な「してはいけない」注意事項です。
・過剰な負荷の筋トレや有酸素運動
・深いスクワットやジャンプ動作
・痛みが強いときの運動継続
・O脚を助長する立位や歩行動作の癖
複数の研究により、変形性膝関節症に対する理学療法の有効性が示されています。
1. Fransen et al.(2015)のメタアナリシスでは、運動療法が疼痛軽減と機能改善に明らかに有効であると報告されています。
2. Petterson et al.(2011)は、理学療法により術後の疼痛スコアが有意に改善し、QOLが向上したとしています。
3. Bennell et al.(2010)は、自宅での運動指導プログラムが臨床的に意味のある改善をもたらすと述べています。
変形性膝関節症のリハビリにおいては、エビデンスに基づいた個別対応が不可欠です。理学療法士は、患者の症状やライフスタイルに応じて、最適なプログラムを立案・指導することが求められます。正しい方法を用い、リスクとなる動作を避けながら、患者のQOL向上を目指すことが重要です。
1. Fransen M, McConnell S, et al. (2015). Exercise for osteoarthritis of the knee: a Cochrane systematic review. Br J Sports Med, 49(24):1554–1557.
2. Petterson SC, et al. (2011). The efficacy of progressive quadriceps strengthening in the treatment of patellofemoral pain syndrome. J Orthop Sports Phys Ther, 41(2):67–79.
3. Hochberg MC, et al. (2012). 2012 recommendations for the management of osteoarthritis of the knee. Arthritis Care Res (Hoboken), 64(4):465–474.
4. Bennell KL, et al. (2010). Efficacy of a physiotherapist-delivered physical activity intervention in people with knee osteoarthritis: a randomized controlled trial. Arthritis Rheum, 63(5):1290–1298.
5. Loeser RF, et al. (2012). Osteoarthritis: a disease of the joint as an organ. Arthritis Rheum, 64(6):1697–1707.