透析患者は、腎機能の低下や長期的な透析治療の影響により、さまざまな皮膚トラブルを抱えることがあります。皮膚の乾燥、かゆみ、感染症、色素沈着などが一般的に報告されており、生活の質(QOL)を大きく左右する要因となります。本記事では、透析患者に見られる皮膚トラブルの主な原因と、その対策についてエビデンスに基づき解説します。
1. 皮膚の乾燥(ドライスキン)
透析患者の皮膚は、正常な皮脂分泌が低下し、乾燥しやすくなります。乾燥した皮膚はバリア機能が低下し、かゆみや炎症の原因となります。
対策
・保湿クリームやローションを使用し、肌の水分を維持する。
・ぬるめ(38℃程度)の湯で短時間の入浴を心がける。
・刺激の少ない石鹸を選び、過度な洗浄を避ける。
2. 皮膚のかゆみ(掻痒症)
慢性腎疾患関連掻痒症(CKD-aP)は、透析患者に多く見られる症状で、睡眠障害やストレスの原因となります。尿毒素の蓄積、乾燥、末梢神経障害、炎症性サイトカインの増加などが関与していると考えられています。
対策
・高効率透析膜を使用し、老廃物の除去を最適化する。
・保湿を徹底し、肌の乾燥を防ぐ。
・抗ヒスタミン薬や局所ステロイドを適切に使用する。
3. 皮膚の感染症
透析患者は免疫機能が低下しているため、細菌感染や真菌感染を引き起こしやすくなります。特に、バスキュラーアクセス部位(シャントやカテーテル周囲)に感染が起こると、全身性の合併症につながる可能性があります。
対策
・透析時の手指衛生とシャント管理を徹底する。
・皮膚の傷を放置せず、適切に消毒・保護する。
・抗菌薬や抗真菌薬を医師の指示のもと使用する。
4. 色素沈着
透析患者では、メラニンの代謝異常や鉄沈着により、皮膚が黒ずむことがあります。特に長期間透析を受けている患者に多く見られます。
対策
・日焼け対策を徹底し、紫外線による影響を抑える。
・ビタミンCや抗酸化作用のある食品を摂取する。
・皮膚科での治療を検討する。
5. カルシフィラキシス(石灰沈着性血管症)
カルシフィラキシスは、透析患者に見られる重篤な皮膚疾患で、皮膚の血管にカルシウムが沈着し、壊死を引き起こします。リン・カルシウム代謝異常が関与しており、適切な管理が必要です。
対策
・血清リン・カルシウムのバランスを管理する。
・リン吸着薬の適切な使用と、食事によるリン制限を行う。
・早期に皮膚科・腎臓内科を受診し、適切な治療を受ける。
透析患者の皮膚トラブルは、乾燥、かゆみ、感染症、色素沈着、カルシフィラキシスなど多岐にわたります。適切なスキンケア、透析管理、食事療法、薬物療法を組み合わせることで、症状の軽減が期待できます。透析患者のQOL向上のためにも、医療従事者は皮膚トラブルの早期発見と適切な対応を心がけることが重要です。
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