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透析患者は運動した方がいいの?しない方がいいの?~運動療法と運動制限の最新知見~

はじめに

慢性腎不全により透析療法を受ける患者さんに対し、「運動はした方がいいのか?それとも控えるべきなのか?」という疑問は、医療現場でもたびたび議論されるテーマです。腎機能が低下した状態での身体活動にはリスクが伴う一方で、近年では運動療法の有用性がエビデンスをもって示されつつあります。本コラムでは、透析患者に対する運動療法の効果や運動制限の適応、実際の運動指導のポイントなどを、最新の研究知見に基づいて解説します。

透析患者と運動制限の歴史

かつては、透析患者に対して「過度な運動は避けるべき」とされてきました。これは、心血管系への負荷や高カリウム血症、筋肉疲労によるリスクなどが懸念されたためです。特に高齢の透析患者や併存疾患を抱える方には、運動による事故リスクが医療者の判断に影響を与えていました。

しかし、慢性透析患者の予後改善や生活の質(QOL)向上のために、運動療法が果たす役割が注目されるようになり、近年では「適切な運動はむしろ積極的に推奨されるべきである」という考えが広がっています。

運動療法のエビデンス

1. 身体機能の改善
Johansen et al.(2006)による研究では、透析患者にレジスタンストレーニングを12週間実施した結果、下肢筋力や歩行速度が有意に改善されたと報告されています。これにより、転倒リスクの低減やADL(日常生活動作)の向上が期待されます。

2. 心肺機能とQOLの向上
Ouzouni et al.(2009)は、透析中の有酸素運動プログラムが最大酸素摂取量(VO₂max)の改善に寄与することを示しました。また、患者の自己評価によるQOLスコアも改善され、身体活動による心理的メリットも確認されました。

3. 炎症マーカー・代謝の改善
Cheema et al.(2014)は、定期的な運動がC反応性タンパク(CRP)の低下やインスリン感受性の改善をもたらすことを明らかにしており、透析患者における慢性炎症や糖代謝異常への対策としての運動療法の可能性が示唆されています。

どのような運動が適切か?

有酸素運動
ウォーキングや自転車エルゴメーターなどの軽~中強度の運動が一般的です。透析中(インターディアリティック)にも実施可能で、特にベッドサイドバイクエクササイズは人気があります。

筋力トレーニング
筋肉量の維持や筋力向上を目的として、セラバンドや自重を用いた運動、電気刺激が用いられます。特に下肢の筋力トレーニングはADL向上に寄与します。

ストレッチング
筋緊張の緩和や拘縮予防に有効です。透析前後のリラクゼーション目的でも活用できます。

運動制限が必要なケース

運動療法がすべての透析患者に適応されるわけではありません。以下のような場合には運動制限または中止が推奨されます。
・ 血圧コントロール不良(例:収縮期血圧>180mmHg)
・透析直後の低血圧状態
・著明な高カリウム血症(K>6.0mEq/L)
・心不全・不整脈の急性増悪
・活動によって呼吸困難や胸痛が出現する場合

これらの条件に該当する場合は、安全性を最優先し、医師の判断のもと運動を中止または調整する必要があります。

実践的な運動療法の導入ポイント

運動を透析患者に導入する際には、以下のようなステップで進めると効果的です。
1. 事前評価:既往歴、身体機能、血圧やカリウム値などの内科的リスクを把握。
2. 個別プログラム作成:年齢、体力レベル、目標に応じた運動計画を立てる。
3. モニタリング:バイタルや症状を観察しながら、運動中の安全を確保。
4. 多職種連携:理学療法士、看護師、栄養士、医師の連携による包括的支援が重要。

まとめ

透析患者における運動療法は、これまでの「制限すべきもの」という認識から、「積極的に取り入れるべきもの」へと変化しつつあります。エビデンスに基づくアプローチと個別性を重視した運動計画により、身体機能やQOLの向上が期待できます。一方で、急性症状や重篤な併存疾患を抱える患者には慎重な判断が必要です。安全性を確保しつつ、科学的根拠に基づいた運動支援を実践していくことが、これからの透析医療に求められる視点といえるでしょう。

参考文献

1. Johansen, K. L., Painter, P., Kent-Braun, J. A., et al. (2006). Resistance exercise improves muscle strength and function in patients undergoing hemodialysis. American Journal of Kidney Diseases, 48(3), 391–398。
2. Ouzouni, S., Kouidi, E., Sioulis, A., et al. (2009). Effects of intradialytic exercise training on health-related quality of life indices in hemodialysis patients. Clinical Rehabilitation, 23(1), 53–63。
3. Cheema, B. S., Abas, H., Smith, B. C., et al. (2014). Progressive exercise for anabolism in kidney disease (PEAK): a randomized, controlled trial of resistance training during hemodialysis. Journal of the American Society of Nephrology, 18(6), 1594–1601。

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