当サイトページは日本国内の医療関係者(医師、理学療法士、その他医療関係者)の皆様を対象に医科向け医療機器を適正にご使用いただくための情報を提供しています。
日本国外の医療関係者や、一般の方への情報提供を目的としたものではありませんので、あらかじめご了承ください。

医療関係者ですか?

YES
/
NO

NOを選択すると、
トップページに戻ります。

【2025年最新版】透析と診療報酬:「透析時運動指導等加算」の取得と実践に必要な準備とは

はじめに

慢性腎不全患者にとって、血液透析は生命維持に不可欠な治療ですが、その一方で、身体機能やQOLの低下、フレイル・サルコペニアといった二次的健康課題を引き起こす原因にもなっています。こうした課題に対応するため、2022年度の診療報酬改定で新設されたのが「透析時運動指導等加算」です。
この加算は、透析中の患者に対して運動機能評価と指導を行うことにより、一定の診療報酬が得られる制度です。本コラムでは、その概要と根拠となるエビデンス、さらに加算を算定するために必要な準備や研修制度の詳細までを解説します。

なぜ透析中に運動療法が必要なのか?

透析患者は、長時間にわたる透析治療によって座位状態が続き、身体活動量が極端に低下します。これがフレイルやサルコペニアの進行、さらには転倒・骨折、ADL(日常生活動作)の低下といった多くの問題を引き起こします。
実際、日本透析医学会の年次報告(2023年)では、透析患者の6割以上が「日常的にほとんど運動をしていない」と報告されており、医療従事者による介入が不可欠な状況です。
透析中に運動療法を取り入れることは、身体機能の維持・改善、抑うつの軽減、心血管疾患リスクの抑制に寄与することが多数の研究で報告されています。

「透析時運動指導等加算」の概要と要件

「透析時運動指導等加算」は、以下のような条件で算定可能な加算です。
・対象:維持血液透析を受けている患者
・内容:透析中またはその前後に、運動機能の評価と、それに基づいた個別の運動指導を実施
・算定回数:週1回まで
・目的:身体機能低下の防止、QOL・ADLの維持向上、医療依存度の抑制
この加算は、単に運動を行うだけでなく、患者ごとの状態に応じた評価と指導の実施体制が必要とされます。

加算算定に必要な準備

透析時運動指導等加算を算定するには、施設全体での準備が求められます。以下の4つの項目を中心に、体制構築が不可欠です。

① 多職種による運動療法実施体制の整備
加算を算定するには、医師、理学療法士、作業療法士、看護師、臨床工学技士などの多職種が連携して、透析患者に対する運動療法を支援する必要があります。チーム医療として、運動評価・指導・安全管理を一体的に提供できる体制構築が求められます。

② 運動機能評価と指導記録の管理
算定には以下の情報を診療録へ記録する必要があります。
・運動機能評価(例:SPPB、歩行速度、握力など)
・評価結果に基づく個別の運動プログラム
・実施内容(種目・時間・強度)と患者の反応
・バイタルチェックや中止基準への対応
これらを定型フォーマットで一元管理することで、監査対応にも備えることができます。

③ 安全な運動実施環境の確保
透析中に運動を行うには、以下の物理的・人的な環境整備が必要です。
・エルゴメーターやセラバンドなどの器具
・十分なスペースと患者の動線確保
・バイタルモニタリング体制
・急変時の対応マニュアルの整備
透析中の運動は循環動態に影響を与える可能性もあるため、医師の事前許可とリスク管理体制が不可欠です。

④ 必須研修の受講と資格の活用
■ 研修要件とその該当制度
厚生労働省の通達によれば、以下の条件を満たす場合に「透析時運動指導等加算」を算定可能です(参照元)。
「透析患者の運動指導に係る研修を受講した医師、理学療法士、作業療法士、または医師の具体的指示を受けた当該研修受講済の看護師が、1回の血液透析中に連続して20分以上、患者の病状および療養環境を踏まえた療養上必要な指導等を行った場合」に算定可能。
この「透析患者の運動指導に係る研修」に該当するのが、腎臓リハビリテーション学会が実施している以下の2つのプログラムです。
・腎臓リハビリテーションガイドライン講習会
 透析患者に対する運動療法を安全に、かつ効果的に実施するための知識・技能を学ぶ研修です。受講は、看護師や療法士など幅広い職種が対象です。
・腎臓リハビリテーション指導士資格認定試験
 講習会の修了を前提とした認定試験で、腎疾患患者に特化した運動指導・生活支援の専門資格です。この資格を有することで、加算の運用における信頼性と実行力が高まります。
これらの研修および資格取得は、加算算定の前提要件であると同時に、チーム医療の質向上にも大きく寄与するものです。

地方中規模病院の取り組み例

ある中規模の透析施設では、以下のようなフローで透析時運動指導等加算を導入しています。
・運動療法責任者として理学療法士を配置
・患者ごとにSPPBを実施し、歩行能力・筋力を評価
・ガイドライン講習会受講済みの看護師が、透析中にベッド上で20分間のEMSでの運動(B-SES)を指導
・指導内容、反応、バイタル変化を記録し、医師とフィードバック共有
導入から半年で、QOLスコアの改善や歩行速度の向上が認められ、加算の継続と患者満足度の向上にもつながりました。

エビデンスに基づく透析中運動療法の効果

以下に、透析中運動療法の科学的根拠となる主要研究を紹介します。
・Koufaki et al. (2004):透析中の有酸素運動により心肺機能と抑うつ症状が改善。
・Johansen et al. (2006):運動介入により身体機能の改善と死亡率の低下傾向を確認。
・Nakagawa et al. (2020):透析中運動実施群で入院率が有意に減少。
・Yoshikawa et al. (2018):透析中運動でフレイル指標が改善し、医療費削減効果も示唆。
こうしたエビデンスは、診療報酬加算の制度設計にも反映されています。

まとめ

「透析時運動指導等加算」は、透析医療においてQOLの向上と予後改善を目指す新たな制度的支援です。算定のためには、多職種による実施体制、評価・記録の徹底、安全管理、そして研修受講や資格取得といった明確な準備が必要です。
腎臓リハビリテーションガイドライン講習会や指導士資格の取得は、制度対応だけでなく、臨床現場での自信にもつながります。今後ますます注目されるこの分野に、ぜひ積極的に取り組んでいきましょう。

引用・参考文献

1. Koufaki P, Mercer TH, Naish PF. Clinical Physiol Funct Imaging. 2004;24(2):87–94.
2. Johansen KL, et al. Kidney Int. 2006;70(5):1094–1101.
3. Nakagawa T, et al. J Ren Nutr. 2020;30(1):60–68.
4. 吉川敦彦ほか. 透析療法における運動の有効性. 日本腎臓リハビリテーション学会誌. 2018.
5. 日本透析医学会. わが国の慢性透析療法の現況. 2023.
6. 厚生労働省. 令和4年度 診療報酬改定の概要.
7. 腎臓リハビリテーション学会. 「腎臓リハビリテーションガイドライン講習会」https://jsrr.smoosy.atlas.jp/ja/lecture0119
8. 腎臓リハビリテーション指導士資格制度案内. 日本腎臓リハビリテーション学会.

関連商品

記事一覧に戻る