健康診断や家庭での測定でよく目にする「血圧」。しかし、具体的にどの数値が正常なのか、また高血圧がなぜ問題になるのかを正しく理解している方は意外と少ないかもしれません。本コラムでは、血圧の基本から正常値の目安、そして健康を守るためのポイントについて、エビデンスに基づいた内容でわかりやすく解説します。
血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力のことを指します。測定される血圧は一般的に「収縮期血圧(上の血圧)」と「拡張期血圧(下の血圧)」の2つの値で表されます。
収縮期血圧(上の血圧):心臓が収縮して血液を送り出すときの圧力
拡張期血圧(下の血圧):心臓が拡張して血液を取り込むときの圧力
これらの数値は年齢や体調、環境などにより変動しますが、一定の範囲に保たれていることが健康の目安となります。
では、どのくらいの数値が「正常値」とされるのでしょうか?
日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2024」によると、成人における血圧の分類は以下の通りです。
分類 | 収縮期血圧(mmHg) | 拡張期血圧(mmHg) |
---|---|---|
正常血圧 | 120未満 | 80未満 |
正常高値 | 120~129 | 80未満 |
高値血圧 | 130~139 | 80~89 |
高血圧(Ⅰ度) | 140~159 | 90~99 |
高血圧(Ⅱ度) | 160~179 | 100~109 |
高血圧(Ⅲ度) | 180以上 | 110以上 |
この基準を見ると、「正常血圧」とされるのは収縮期が120未満、拡張期が80未満です。それを超えると「正常高値」や「高値血圧」と判定され、生活習慣の見直しが推奨されます。
高血圧は「沈黙の殺人者」とも呼ばれ、自覚症状がないまま進行し、脳卒中や心筋梗塞、腎不全などの重大な疾患を引き起こす可能性があります。実際に、2018年に発表された研究では、高血圧が心血管疾患による死亡リスクを大幅に高めることが示されています。
また、慢性的に高い血圧は血管に負担をかけ、動脈硬化を促進します。反対に、極端に低い血圧(低血圧)も、めまいや立ちくらみ、失神などの原因となり、日常生活に支障をきたすことがあります。
血圧は時間帯や状況によって変動するため、正確に把握するためには「朝晩、同じ時間・同じ姿勢で測定する」ことが推奨されています。
血圧測定のポイント:
・朝起きて1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前に測る
・夜は入浴・食事の後、就寝前のリラックスした状態で
・座った姿勢で1~2分安静後に測定する
・同じ腕で測る(通常は左腕)
特に家庭血圧が重要視されるようになっており、診察室での「白衣高血圧」や「仮面高血圧」といった診断の見逃しを防ぐためにも、継続的な家庭血圧測定が推奨されています。
血圧の正常化には、日常生活の改善が重要です。以下のポイントはエビデンスに基づいており、高血圧の予防・改善に有効とされています。
1. 減塩(ナトリウムの摂取を減らす)
WHOは1日あたりの食塩摂取量を5g未満にすることを推奨しています(WHO, 2020)。日本人の平均摂取量は依然として多く、減塩の工夫が必要です。
2. バランスの良い食事(DASH食など)
野菜、果物、低脂肪乳製品を中心とした「DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)」は、血圧を下げる効果が確認されています。
3. 適度な運動
有酸素運動(ウォーキング、ジョギングなど)は、血管の柔軟性を高め、血圧を下げる効果があります。
4. 禁煙・節酒
喫煙は血管を収縮させ、血圧を一時的に上昇させます。また、過度の飲酒は高血圧のリスク因子です。
5. ストレスの軽減
ストレスが続くと交感神経が活性化し、血圧が上昇しやすくなります。リラクゼーションや趣味の時間を持つことも血圧管理の一環です。
血圧は「健康のバロメーター」とも言える重要な指標です。「血圧の正常値」は数値だけでなく、その背景にある生活習慣や体調を映し出すものでもあります。正しい知識をもって血圧をチェックし、早めの対策を取ることで、将来的な病気のリスクを大きく減らすことができます。
今日からでも、自分の血圧に意識を向けてみませんか?