慢性腎臓病(CKD)の末期に至った患者にとって、透析療法は生命維持に欠かせない治療法です。しかし、透析患者は治療そのものに伴う身体的・精神的負担や、栄養状態・身体機能の低下によるQOL(生活の質)の低下が懸念されます。特に「運動」不足と「栄養」管理の不良は、透析患者の生命予後やADL(日常生活動作)に大きく影響します。本コラムでは、透析患者に対する運動指導と栄養指導の重要性や、リハビリテーションの効果的な実践法について、エビデンスに基づきご紹介します。
透析患者は、腎機能の低下に伴う尿毒症、貧血、骨ミネラル代謝異常、心血管疾患など多くの合併症リスクを抱えています。これらの影響により、体力低下・筋力低下・栄養障害が生じやすく、運動耐容能も低下しがちです。
また、透析治療に伴う食事制限(たんぱく質、カリウム、リン、塩分、水分など)や、血液透析によるエネルギー・アミノ酸損失も栄養リスクを高めています。したがって、透析患者に対するリハビリでは、医学的リスクを十分に把握した上で、個々に合わせた運動・栄養指導が必要です。
従来、透析患者は運動を控えるべきと考えられてきましたが、近年の研究では、適切な運動が心肺機能・筋力・QOLの向上に寄与することが明らかになっています。
透析患者における運動の効果としては、
・筋力・持久力の改善
・身体機能(ADL・歩行能力)の向上
・心血管疾患リスクの低下
・抑うつ症状や不安感の軽減
などが挙げられます。特に、有酸素運動(ウォーキング、自転車エルゴメーター)やレジスタンス運動(低〜中負荷の筋力トレーニング)が推奨されています。
また、血液透析中に実施する「透析中運動」も有効とされており、安全性と継続性の観点から注目されています。
透析患者に対する運動指導は、以下のポイントを押さえて行うことが推奨されます。
1. 医療チーム(医師・看護師・理学療法士・管理栄養士)との連携による評価・プログラム作成
2. 個々の体力・合併症・運動耐容能に応じた強度・頻度・内容の設定
3. 安全管理(血圧・心拍数・透析バスキュラーアクセス部位の保護)
4. 患者教育を通じた動機付けと運動習慣の定着
具体的には、週2〜3回、1回30〜60分程度の有酸素運動と、低〜中強度のレジスタンストレーニングを組み合わせることが推奨されています。
透析患者の栄養管理は、エネルギー・たんぱく質・ビタミン・ミネラルバランスを考慮した上で、過不足のない摂取を目指すことが基本です。
透析によるアミノ酸・たんぱく質の損失を補うため、エネルギー摂取は30〜35 kcal/kg/日、たんぱく質摂取は1.0〜1.2 g/kg/日が目安とされています。
また、栄養不良はサルコペニアやフレイルの原因となるため、管理栄養士による定期的な栄養評価と食事指導が不可欠です。
透析患者への栄養指導では、以下のような実践的なアプローチが重要です。
・食事記録や食事内容の聞き取りによる現状把握
・食事制限(カリウム・リン・塩分)と十分な栄養摂取の両立
・透析前後の体重変動や血液データに基づくアドバイス
・必要に応じたサプリメントや栄養補助食品の活用
特に、透析患者の生活スタイルや嗜好に合わせた具体的なメニュー提案や、調理方法の工夫も重要な支援です。
運動と栄養は、透析患者の身体機能維持・向上において相互に補完し合う重要な要素です。運動による筋力向上や代謝促進効果は、栄養状態の改善を後押しします。
また、栄養管理によって筋肉量の維持が促進され、運動効果が高まるため、両者を統合したリハビリプログラムが効果的です。
医療従事者は、患者一人ひとりの状態を把握し、運動・栄養両面からの支援を継続的に行うことで、透析患者のQOL向上に貢献していくことが求められます。
透析患者に対するリハビリテーションは、単なる機能回復だけでなく、生活の質や生命予後に関わる重要な介入です。運動と栄養の両面から適切な指導を行うことで、患者の身体機能の維持・向上が期待でき、日常生活への自立支援にもつながります。
エビデンスに基づいた実践と、医療チームによる多職種連携を通じ、透析患者のより良い生活を支えていきましょう。
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