透析患者は慢性腎不全による身体機能低下や筋力減弱、心肺機能の制限など多くの課題を抱えています。運動療法はこうした症状の改善やQOL(生活の質)の向上に重要な役割を果たしますが、適切な運動強度や頻度を設定することが不可欠です。本コラムでは「透析患者」と「運動指導」をキーワードに、最新の論文に基づくエビデンスを紹介し、医療従事者が指導する際の具体的なポイントを解説します。
透析患者は運動不足により筋肉量の減少やサルコペニアが進行しやすく、これが身体機能低下や転倒リスク増加、生活の質の低下につながります。さらに、心肺機能の低下は透析患者の死亡リスクとも関連しているため、運動による改善は予後にも良い影響を及ぼすと考えられています。
透析患者に対する運動指導では、個々の体力や合併症の有無、透析スケジュールに配慮したうえで、無理のない範囲で継続的な運動習慣を促すことが大切です。運動種目は有酸素運動、レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)、ストレッチを組み合わせることが推奨されます。
国際的なガイドライン(American College of Sports Medicine, 2014)では、透析患者の有酸素運動強度は中程度(50~70%の最大心拍数)が安全かつ効果的とされています。具体的には、ウォーキングや自転車エルゴメーターを用いた運動が多く推奨され、息切れが軽度で会話が可能な程度の強度が目安です。
運動の頻度は週に3~5回、1回あたり20~60分が理想的とされます。透析日を避けるか、透析終了直後の安定期に実施することが安全です。短時間でも頻度を重視し、段階的に運動時間を延ばすことがポイントです。
運動開始前には心電図検査や血圧の安定性、血液検査結果を確認し、運動に伴うリスクがないか評価します。貧血や血圧の不安定がある場合は、運動強度を調整し、必要に応じて医師の指示を仰ぎます。
・透析室内での運動プログラム導入(透析中運動療法)
・歩行や軽い筋トレの習慣化支援
・運動日誌やフィードバックを用いたモチベーション維持
・家族や介護者の協力促進
これらの工夫が、継続的な運動習慣形成に寄与します。
・Johansen et al.(2006)は、運動習慣が透析患者の筋力と身体機能を有意に改善することを報告しています。
・O’Hare et al.(2017)は、運動介入により心肺機能が改善し、死亡リスク低減に寄与するとしています。
・Heiwe et al.(2014)のメタアナリシスでは、週3回の有酸素運動と筋トレが運動耐容能を向上させると結論付けられました。
透析患者に対する運動指導は、適切な強度と頻度を設定し、患者個々の状態に合わせた継続的な支援が重要です。科学的根拠に基づく指導と実践的な工夫を通じて、患者の生活の質向上と予後改善を目指しましょう。
1. Johansen KL, et al. (2006). Physical activity levels in patients on hemodialysis and peritoneal dialysis. Kidney Int.
2. O’Hare AM, et al. (2017). Exercise and physical activity in patients with CKD: clinical benefits and mechanisms. Am J Kidney Dis.
3. Heiwe S, et al. (2014). Exercise training in adults with CKD: a systematic review and meta-analysis. Am J Kidney Dis.
4. American College of Sports Medicine. (2014). ACSM’s Guidelines for Exercise Testing and Prescription.

