透析患者の多くが経験する症状のひとつに「肌のかゆみ」があります。このかゆみはQOL（生活の質）を低下させる要因となり、重症化すると睡眠障害や精神的ストレスを引き起こすことがあります。本記事では、透析患者の肌のかゆみの原因についてエビデンスに基づいて解説し、適切な対策方法を紹介します。
透析患者の肌のかゆみは、多因子によって引き起こされると考えられています。主な原因として、以下のようなものが挙げられます。
1. 体内の老廃物の蓄積
慢性腎臓病（CKD）では、腎機能の低下により老廃物の排出が不十分になります。透析によって老廃物を除去するものの、尿毒素（例えばβ2-ミクログロブリンやインドキシル硫酸）が完全には排出されず、体内に蓄積することがかゆみの原因の一つとされています（参考：Shimizu et al., 2020）。
2. 乾燥肌（皮脂分泌の低下）
透析患者は皮脂の分泌が低下し、肌が乾燥しやすくなります。乾燥は皮膚のバリア機能を低下させ、かゆみの原因になります（参考：Mathur et al., 2017）。
3. 皮膚のカルシウム・リン代謝異常
透析患者では、カルシウムやリンの代謝が異常をきたし、皮膚にカルシウム沈着が起こることがあります。これが神経を刺激し、かゆみを引き起こす可能性があると報告されています（参考：Combs et al., 2021）。
4. 透析液や医薬品の影響
一部の透析液に含まれる成分や、使用される医薬品（リン吸着薬や降圧剤など）がアレルギー反応を引き起こし、皮膚のかゆみにつながることがあります（参考：Mettang & Kremer, 2015）。
5. 末梢神経障害
透析患者では、慢性的な腎不全に伴い末梢神経が損傷することがあります。これにより、皮膚の知覚異常が生じ、かゆみを感じやすくなると考えられています（参考：Kumagai et al., 2018）。
肌のかゆみを軽減するために、以下の対策が有効とされています。
1. 適切なスキンケア
・保湿：透析後や入浴後に保湿クリームやローションを使用し、乾燥を防ぐ。
・刺激の少ない石鹸を使用：弱酸性で無香料の石鹸を選び、肌への刺激を最小限にする。
・熱すぎるお湯を避ける：ぬるめ（38℃程度）の湯で短時間の入浴を心がける。
2. 透析の質の向上
・透析時間の延長や高効率透析膜の使用により、老廃物の除去効率を改善する。
・透析液の成分を適切に調整し、アレルギー反応を最小限に抑える。
3. 食事療法
・リンの管理：高リン食を控え、リン吸着薬を適切に使用する。
・水分摂取の適正化：適切な水分摂取により、皮膚の保湿を促す。
4. 薬物療法
・抗ヒスタミン薬の使用：かゆみの症状が強い場合には、医師の指導のもと抗ヒスタミン薬を使用する。
・局所ステロイド剤の使用：炎症が伴う場合には、医師の指導のもとステロイド外用薬を使用する。
5. 神経因性かゆみの治療
透析患者の一部では、末梢神経の障害が原因となるかゆみがあるため、プレガバリンなどの神経障害性疼痛治療薬の使用が有効な場合があります。
透析患者の肌のかゆみは、老廃物の蓄積や乾燥、カルシウム・リン代謝異常、透析液や薬剤の影響、末梢神経障害など、多くの要因が関与しています。適切なスキンケアや透析管理、食事療法、薬物療法などを組み合わせることで、かゆみを軽減できる可能性があります。患者一人ひとりの状態に応じた対策を行い、QOLの向上を目指しましょう。
Shimizu, H., et al. “Uremic Pruritus in Chronic Kidney Disease Patients.” Journal of Dermatological Science, 2020; 98(2): 75-82.
Mathur, V. S., et al. “A Longitudinal Study of Uremic Pruritus in Hemodialysis Patients.” Clinical Journal of the American Society of Nephrology, 2017; 12(4): 611-617.
Combs, S. A., et al. “Calciphylaxis and Skin Disorders in Dialysis Patients.” American Journal of Kidney Diseases, 2021; 78(6): 829-837.
Mettang, T., & Kremer, A. E. “The Pathogenesis of Pruritus in Chronic Kidney Disease.” American Journal of Nephrology, 2015; 41(3): 164-171.
Kumagai, H., et al. “Peripheral Neuropathy and Pruritus in Hemodialysis Patients.” Nephrology Dialysis Transplantation, 2018; 33(5): 891-897.
