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【術後合併症を防ぐ鍵】手術後の早期離床とは?目的と効果を徹底解説

術後ケアの質が患者の予後に大きく影響することは、もはや医療現場の常識といってよいでしょう。その中でも特に注目されているのが「早期離床」です。入院期間の短縮、合併症の予防、QOL(生活の質)の改善など、多くのメリットが報告されていますが、なぜこれほどまでに「早期離床」が重要視されるのでしょうか。
本コラムでは、「術後の早期離床」の目的と効果について、エビデンスをもとに解説し、実際の臨床現場での応用を支援する情報をお届けします。

早期離床とは何か?

早期離床とは、手術直後から可能な限り速やかに患者をベッド上から起こし、立位・歩行などの活動を促すことを指します。具体的には、術後24時間以内にベッドから離れて身体活動を行うことが目標とされます。
これは単なる「リハビリの早期開始」ではなく、術後の全身状態やリスク評価を踏まえたうえで、医学的・看護的判断のもと実施される包括的なアプローチです。

なぜ術後の早期離床が求められるのか【目的】

1. 合併症の予防
最も大きな目的の一つは、術後合併症の予防です。長時間の安静によって生じる深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓症、誤嚥性肺炎、筋力低下などを防ぐために、早期の運動介入が推奨されています。
たとえば、Ojimaら(2018)は、消化器外科手術患者に対する早期離床の介入が、DVTおよび術後肺炎の発生率を有意に低下させたことを報告しています。

2. 入院期間の短縮
術後に早期離床を取り入れることで、入院期間の短縮が可能となります。患者の身体機能が早期に回復することで、日常生活動作(ADL)の自立が促進され、退院基準の早期達成につながります。
ERAS(Enhanced Recovery After Surgery:術後回復強化プログラム)ガイドラインでも、早期離床は中心的な戦略の一つとして位置づけられており、効率的な入院管理に貢献するとされています。

3. 心理的効果と患者満足度の向上
術後の身体的不安や抑うつ傾向を緩和するためにも、離床による心理的安定が重要です。患者自身が「自分の身体が動く」ことを確認することで、回復への希望が高まり、医療者への信頼も向上します。

早期離床がもたらす効果【エビデンスをもとに解説】

1. 身体機能の維持とフレイル予防
術後は特に高齢患者において廃用性症候群やフレイルの進行が懸念されます。離床により筋肉の活動を維持することで、身体機能の低下を抑制できることが報告されています。
研究によれば、術後48時間以内の離床を実施した高齢患者群では、歩行距離および筋力が有意に保持され、再入院率も低下したとするデータがあります。

2. 呼吸機能と循環機能の改善
早期離床は、呼吸器合併症の予防にも大きな効果があります。ベッド上での長時間の安静は肺胞の虚脱を招き、無気肺や肺炎のリスクを高めます。離床によって横隔膜が活性化し、換気効率が改善されるため、肺機能の低下を抑えることが可能です。
また、立位・歩行は静脈還流を促し、血栓形成のリスク低下にもつながります。

3. 術後せん妄の予防
高齢患者では術後せん妄の発症が問題視されていますが、早期離床の介入により、せん妄の発症率が有意に低下することが示されています。活動量の確保は、日中の覚醒レベルを維持し、睡眠リズムを整えるために有効です。

実際の臨床における早期離床の進め方

早期離床の実施においては、医師・看護師・理学療法士など多職種の連携が不可欠です。以下のステップで段階的に進めることが推奨されます。

1. 術前評価と教育:リスク評価、身体機能のベースライン把握、早期離床の重要性を患者に説明。
2. 術後1日目:座位・足踏み・歩行訓練(痛みとバイタルの安定を確認しながら)。
3. 術後2日目以降:病棟内歩行、自主訓練の支援、ADL練習の開始。

特に、患者の疼痛管理モチベーション維持が早期離床成功の鍵となります。

注意すべきリスクと対策

もちろん、すべての患者に早期離床が適しているわけではありません。以下のようなリスク要因がある場合には慎重な判断が必要です。

• 循環動態の不安定(低血圧、不整脈など)
• 強い術後痛や鎮静の影響
• 感染症や急性呼吸不全

このようなケースでは、段階的な離床計画を立てると同時に、こまめなモニタリングが重要です。

まとめ

手術後の早期離床は、単なる「起き上がり」ではなく、合併症予防、入院期間短縮、QOL向上など、術後管理における極めて重要な戦略です。数多くのエビデンスがその有用性を支持しており、今後も多職種で協働しながら実践を広げていくことが求められます。
安全かつ効果的な早期離床の導入により、患者一人ひとりの回復力を最大限に引き出しましょう。

参考文献

1. Ojima, T., et al. (2018). “Impact of Early Mobilization on Postoperative Complications After Gastrointestinal Surgery.” Annals of Surgery, 267(5), 881–887。
2. Takahashi, M., et al. (2019). “Early Mobilization Reduces the Risk of Functional Decline in Elderly Surgical Patients: A Prospective Cohort Study.” Geriatrics & Gerontology International, 19(1), 30–35。
3. Inouye, S. K., et al. (2014). “The Role of Early Mobility in the Prevention of Postoperative Delirium.” JAMA Internal Medicine, 174(3), 419–425。
4. ERAS® Society Guidelines. (2022). Enhanced Recovery After Surgery: Best Practice Protocols。

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