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見逃せない廃用症候群の実態:発症メカニズムとリハビリの重要性を解説

はじめに

超高齢社会の日本において、「廃用症候群」は医療現場で日常的に直面する課題の一つです。急性期治療が終了した後も入院や安静が長引くことで、運動機能や日常生活動作(ADL)が低下し、そのまま介護状態へと移行する高齢者は少なくありません。本コラムでは、「廃用症候群」の概要から原因、そして効果的なリハビリの考え方までを、科学的根拠に基づき医療従事者向けに解説していきます。

廃用症候群とは?その定義と背景

廃用症候群(disuse syndrome)とは、長期間の安静・活動量低下により、身体機能が低下し、複数の臓器系にわたる障害が生じる状態を指します。特に高齢者では、少しの寝たきり期間でも筋萎縮、関節拘縮、起立性低血圧、認知機能の低下などが急速に進行するため、注意が必要です。
この用語は1970年代にアメリカで提唱され、日本でも1980年代から医療・看護の現場で広く用いられるようになりました。高齢化とともにその重要性は増しており、厚生労働省の介護予防施策においても「生活不活発病(生活機能の低下)」として注意喚起がなされています。

廃用症候群の原因とは?複合的な背景に注目

廃用症候群は、単一の原因というよりも、以下のような複合的な要因により発生します。

1. 長期安静・不動状態
 骨折や手術後、急性疾患に対する治療によって安静を強いられた場合、わずか数日で筋力低下が始まります。特に高齢者では、1週間の寝たきりで10~15%の筋力低下が報告されています。

2. 加齢変化とサルコペニアの進行
 高齢になると、筋肉量が自然に減少します。これに安静が加わることで、サルコペニアが急激に悪化し、廃用が加速します。

3. 栄養不良
 入院や食欲低下によるエネルギー・タンパク質不足は、筋萎縮を助長します。特に高齢者では、低栄養がリハビリの効果を著しく低下させます。

4. 精神的要因や認知機能低下
 うつ状態や認知症などにより、活動意欲が著しく低下してしまうケースもあります。

5. 医療現場での介入の遅れ
 「治療が終わってからリハビリを開始する」という従来の考え方では、回復が間に合わず廃用症候群を招きやすくなります。早期リハビリ介入の重要性が近年強調されています。

廃用症候群により生じる症状と影響

廃用症候群によって影響を受ける主な機能は以下の通りです:
・筋骨格系:筋力低下、筋萎縮、関節拘縮、骨粗鬆症
・循環器系:起立性低血圧、血栓形成
・呼吸器系:肺活量低下、無気肺、誤嚥性肺炎のリスク増加
・消化器系:便秘、食欲低下
・泌尿器系:尿失禁、尿路感染
・神経・精神系:うつ状態、せん妄、認知機能の低下
・皮膚:褥瘡

これらは個別では軽度でも、複合的に発生することで、患者のADLやQOLを著しく損なう原因になります。

廃用症候群の予防と治療におけるリハビリの重要性

廃用症候群におけるリハビリの役割は、予防・回復の両面で極めて重要です。以下にその具体的な介入方法を紹介します。

1. 早期離床と活動量の確保
急性期の治療と並行して、可能な限り早期からベッド上リハビリや離床を促進します。歩行が難しい場合も、端座位や立位練習から開始し、活動量を意識的に確保することが求められます。

2. 運動療法の実施
・関節可動域訓練(ROM訓練)
 関節拘縮予防の基本となる訓練で、他動的または自動介助的に関節を動かします。
・筋力増強訓練(レジスタンストレーニング)
 低負荷から開始し、徐々に筋への負荷を増加させていきます。下肢の筋力維持が転倒予防にもつながります。
・有酸素運動
 呼吸・循環機能の改善を目的とした軽度の有酸素運動も廃用改善に効果的です。

3. 栄養介入との連携
低栄養状態では、どれだけ運動療法を行っても筋肉は再生されません。リハビリ栄養として、運動と並行してエネルギー・タンパク質の摂取を見直すことが重要です。

4. 多職種チームによるアプローチ
医師、理学療法士、作業療法士、看護師、管理栄養士など多職種の連携が重要です。患者個々の身体的・精神的・環境的要因を把握し、リハビリ計画をカスタマイズしていく必要があります。

医療現場に求められる意識の変革

廃用症候群は、急性期の治療と同じくらい「予防」への取り組みが重要です。特に高齢者においては、早期介入の有無が退院後の生活機能や在宅復帰率に大きく影響します。医療従事者は、「リハビリ=回復後」という従来の認識から切り替え、急性期から予防的視点で早期から介入していくことが求められています。

まとめ

廃用症候群は、高齢者のQOLや在宅復帰、さらには介護費用にも大きな影響を与える重要な問題です。原因は複合的であり、リハビリテーションを中心とした多面的アプローチが効果的です。医療従事者は、早期離床、運動療法、栄養管理、多職種連携の各要素をバランス良く取り入れ、廃用を未然に防ぐ努力が求められています。

参考文献

1. Kortebein, P., et al. (2008). “Functional impact of 10 days of bed rest in healthy older adults.” The Journals of Gerontology Series A: Biological Sciences and Medical Sciences, 63(10), 1076-1081.
2. Kondrup, J., et al. (2003). “ESPEN guidelines for nutrition screening 2002.” Clinical Nutrition, 22(4), 415-421.
3. 厚生労働省. 介護予防マニュアル(改訂版).
https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-1c_0001.pdf
4. 日本リハビリテーション医学会. 廃用症候群に対するリハビリテーションガイドライン(2020年版)

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