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免荷期間中のリハビリとは?安全で効果的なアプローチと注意点

はじめに

骨折、靭帯損傷、手術後などで「免荷」が必要とされる患者は多く存在します。免荷とは、患部に荷重(体重)をかけないように制限する処置であり、治癒過程において重要な役割を果たします。
しかし、免荷期間が長引くことで筋萎縮、関節可動域制限、心肺機能低下などの二次的な機能低下を引き起こすリスクもあるため、リハビリテーションの適切な実施が不可欠です。
本コラムでは、医療従事者が知っておくべき「免荷期間中のリハビリ方法」について、最新のエビデンスを交えて解説します。

免荷とは?その目的と期間の考え方

免荷とは、患部(主に下肢)への荷重を制限し、組織の治癒を促進するために行う処置です。適応疾患には以下のようなものがあります。
・骨折(大腿骨頸部骨折、脛骨骨折など)
・関節内手術後(例:前十字靭帯再建術、人工関節置換術)
・軟骨損傷や骨軟部腫瘍手術後
免荷の程度と期間は、骨癒合や組織修復の進行度、患者の全身状態、医師の術式や判断によって決まります。完全免荷(non-weight bearing, NWB)から部分免荷(partial weight bearing, PWB)、全荷重(full weight bearing, FWB)へと段階的に移行することが一般的です。

免荷期間中に起こる身体的変化

筋萎縮
とくに大腿四頭筋や腓腹筋などの抗重力筋は、荷重刺激の欠如によって急速に萎縮します。Hather et al.(1992)は、わずか2週間の下肢非使用で筋断面積が11~17%低下したことを報告しています。

関節可動域の制限(関節拘縮)
長期間の不動により、関節包や靭帯が硬化し、可動域の制限が起こります。特に膝関節、足関節で生じやすく、回復を妨げる要因になります。

心肺機能・バランス機能の低下
活動量の減少に伴い、全身持久力やバランス能力も低下しやすくなります。これにより、免荷解除後の転倒リスクが高まります。

免荷期間中に実施すべきリハビリの考え方

1.関節可動域訓練(ROM訓練)
・目的:関節の拘縮予防、循環促進
・方法:他動的・自動的に膝関節や足関節を可動域内でゆっくり動かします。
・注意点:患部への過度なストレスを避け、術後指示を遵守

2.筋力維持トレーニング(アイソメトリック運動)
・目的:筋萎縮予防
・方法:大腿四頭筋や殿筋に対し、関節運動を伴わずに筋収縮を促す等尺性収縮運動を行います。
・エビデンス:Deschenes et al.(2002)は、等尺性運動が短期的な筋力維持に有効であると報告しています。

3.体幹・上肢トレーニング
・目的:全身持久力の維持、姿勢制御力の強化
・方法:座位や仰臥位での上肢挙上運動、体幹起こしなどを実施。免荷中でも上肢・体幹へのアプローチは可能です。

4.血行促進・浮腫予防
・目的:血栓予防、廃用症候群の防止
・方法:足関節の底背屈運動や徒手的リンパドレナージ、弾性ストッキングの使用などを併用します。

5.歩行再開に向けた準備(疑似荷重訓練)
・プールリハビリ:浮力を活用しながら、下肢にかかる負荷を軽減して歩行練習が可能です。
・スリング歩行:免荷支持装置を用いて、段階的な荷重再開に向けた歩行訓練を導入できます。
・エビデンス:Roper et al.(2006)は、水中での荷重訓練が通常リハビリよりも安全に機能回復を促進できる可能性を報告しています。

医師・多職種との連携の重要性

免荷期間中のリハビリを安全に行うには、主治医からの明確な荷重指示の把握が第一です。また、理学療法士、作業療法士、看護師との連携を通じて、生活機能を維持・向上させる視点が必要です。
理学療法士:運動療法の計画と実施
作業療法士:生活動作支援、ADL訓練
看護師:日常生活支援、体位変換、皮膚管理
栄養士:筋力維持・創傷治癒を支える栄養サポート

免荷解除後に向けて

免荷期間が終了し荷重が許可されると、リハビリは次の段階に進みますが、免荷期間中の取り組みがその後の回復スピードに大きく影響します。筋萎縮や拘縮が進んでいると、荷重再開後に痛みや不安定性を訴える患者も少なくありません。
段階的に荷重を増やし、歩行や日常生活への復帰を安全に進めていくためにも、免荷中からの積極的リハビリが不可欠です。

まとめ

免荷期間中は、荷重制限があるからといってリハビリを中断すべきではありません。むしろ、全身の機能低下を防ぐために重要な期間であり、可動域訓練、筋力維持、心肺機能向上、日常生活活動のサポートが求められます。
医療従事者は、主治医の指示をもとに適切な免荷リハビリを計画・実施し、患者の早期社会復帰をサポートしていきましょう。

参考文献

1. Hather BM, et al. (1992). Skeletal muscle adaptations to disuse and retraining in humans. Acta Physiol Scand. 146(4): 411–419。
2. Deschenes MR, et al. (2002). Neuromuscular adaptations to short-term training: a comparative study of isotonic and isometric training. J Strength Cond Res. 16(1): 20–24。
3. Roper JM, et al. (2006). Aquatic treadmill exercise reduces lower extremity joint loading. J Orthop Sports Phys Ther. 36(7): 449–456。

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