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ロコモティブシンドロームの三大要因とは!― 原因を明確にして予防・対策につなげるアプローチ

はじめに

高齢化が進む日本社会において、介護予防は医療・介護現場の重要な課題です。
中でも、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)は、要介護となるリスクを高める大きな要因の一つです。
ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)は、筋肉・骨・関節・神経など運動器の衰えによって、立つ・歩く・移動するなどの日常生活動作(ADL)が低下する状態を指します。
2007年に日本整形外科学会が提唱し、以後、介護予防対策の中心的概念として認識されるようになりました。
本コラムでは、ロコモティブシンドロームの三大要因とされる主要な原因を解説し、予防と対策のための具体的なアプローチを、エビデンスを交えてご紹介します。

ロコモティブシンドロームの定義とその重要性

ロコモは、加齢だけでなく生活習慣や疾患によっても引き起こされる運動器障害の総称です。
進行すると、転倒・骨折・寝たきりのリスクが高まり、要介護状態へと進展する恐れがあります。
実際、厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、要介護認定の原因の約25%が運動器の障害に起因しています。
そのため、ロコモ対策は健康寿命延伸や医療費・介護費の抑制にも直結する重要な課題となっています。

ロコモティブシンドロームの三大要因

1. 筋力低下 ― サルコペニア・筋委縮
筋肉量の減少はロコモの主要因とされ、特にサルコペニア(加齢性筋肉減少症)が問題視されています。
サルコペニアは筋力低下を招き、立ち上がり動作や歩行が困難になり、転倒・骨折のリスクを高めます。
加齢に伴い、筋線維数や筋断面積が減少し、特に下肢筋群(大腿四頭筋、腓腹筋)の影響が大きいことが知られています。
さらに、運動不足や活動量の低下も筋委縮を進行させ、悪循環に陥るケースもあります。

2. 骨密度低下 ― 骨粗鬆症
骨粗鬆症は、骨密度の低下により骨が脆くなり、軽微な外力でも骨折を引き起こす疾患です。
日本における骨粗鬆症患者は約1,280万人と推定されており、ロコモの大きな要因の一つとされています。
特に大腿骨近位部骨折は、歩行機能の低下や介護度の上昇につながる重大なリスクです。
閉経後女性や高齢男性に多く、適切な評価・予防が求められます。

3. 関節疾患 ― 変形性関節症
変形性膝関節症(OA)をはじめとする関節疾患も、ロコモを進行させる要因です。
関節の変形や炎症による疼痛、可動域制限が生じることで、活動量が低下し、筋力低下・骨密度低下を招く悪循環が発生します。
特に、変形性膝関節症は日本人高齢者に多く、X線検査による有病率は60歳以上女性で約60%に達するとの報告もあります。

ロコモティブシンドロームの予防と対策

筋力低下への予防・対策
・筋力トレーニングの推奨
高齢者でも安全に実施できる低負荷・高回数のレジスタンストレーニングや、自重トレーニング(スクワット・カーフレイズ)などが有効です。
継続的な運動により、筋力維持・筋量増加が期待できます。
・日常生活動作での運動機会の確保
エレベーターではなく階段を使う、歩行量を増やすなど、日常生活での運動習慣づけも重要です。

骨密度低下への予防・対策
・カルシウム・ビタミンDの摂取
骨代謝をサポートする栄養素の摂取は、骨密度維持に効果的です。
・骨負荷運動の実施
ウォーキングや軽いジャンプ運動など、骨に適度な負荷をかける運動が骨強化に有効とされています。
・骨粗鬆症治療薬の適正使用
リスク評価に基づき、ビスフォスフォネート製剤などの薬物療法を行うことも対策の一つです。

関節疾患への予防・対策
・関節可動域訓練・柔軟体操
関節の柔軟性を保つことで、可動域制限を防ぎます。
・体重管理
特に膝関節症では、体重増加が関節負担を増やすため、予防には適正体重の維持が不可欠です。
・関節周囲筋の強化
関節を安定させるために、周囲筋の筋力維持・強化を図るトレーニングを実施します。

医療従事者に求められるロコモ対策支援

医療従事者は、ロコモの三大要因を理解し、患者個々のリスクに合わせたアプローチが求められます。
以下のような支援が効果的です。
・定期的な運動機能評価とリスク判定
・多職種連携による包括的な介入
・運動・栄養・生活指導の継続的支援
・地域包括ケアシステムとの連携
ロコモ対策は医療・介護・地域が一体となった取り組みが必要です。

まとめ

ロコモティブシンドロームは、筋力低下・骨密度低下・関節疾患という三大要因が複雑に絡み合って発症・進行します。
その予防と対策には、筋力強化運動・栄養管理・生活習慣改善が重要であり、エビデンスに基づいた適切な指導が求められます。
医療従事者は、患者の生活機能維持・向上に向けた積極的なロコモ対策に取り組み、健康寿命延伸の一翼を担っていきましょう。

参考文献

・Cruz-Jentoft AJ, Bahat G, Bauer J, et al. Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis. Age Ageing. 2019;48(1):16-31.
・Orimo H, Nakamura T, Hosoi T, et al. Japanese 2011 guidelines for prevention and treatment of osteoporosis. Osteoporos Int. 2012;23(3):771-800.
・Muraki S, Akune T, Oka H, et al. Prevalence of radiographic knee osteoarthritis and its association with knee pain in the elderly of Japanese population-based cohorts: the ROAD study. Osteoarthritis Cartilage. 2009;17(9):1137-1143.
・Peterson MD, Sen A, Gordon PM. Influence of resistance exercise on lean body mass in aging adults: a meta-analysis. Med Sci Sports Exerc. 2010;42(2):326-337.

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