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前十字靭帯断裂の治療:
手術とその後のリハビリ

前十字靭帯断裂の治療:手術とその後のリハビリ

前十字靭帯(ACL: Anterior Cruciate Ligament)は、膝関節の安定性を維持する重要な靭帯の一つです。特にスポーツ活動中に発生しやすく、適切な治療を行わなければ膝の不安定性が持続し、変形性膝関節症のリスクが高まります。本コラムでは、前十字靭帯断裂の治療、手術の選択肢、そしてその後のリハビリについて、エビデンスに基づいた情報を提供します。

1. 前十字靭帯断裂とは

前十字靭帯は、大腿骨と脛骨を結び、膝の前方へのズレを防ぐ役割を担っています。ACL断裂は、特に以下のような動作中に発生しやすいとされています。

・急な方向転換やストップ動作
・ジャンプの着地時
・接触プレーによる膝の外力

スポーツ選手に多く見られる損傷ですが、一般の人でも転倒や事故により断裂するケースがあります。ACL断裂の主な症状には、膝の腫れ、激しい痛み、不安定感(膝崩れ)などがあります。

2. 前十字靭帯断裂の治療

(1)保存療法(非手術治療)

完全断裂の場合、多くの患者では手術が推奨されますが、一部の患者では保存療法が適応となることもあります。

保存療法が適応となる条件:
・高齢者やスポーツを行わない人
・日常生活レベルでは膝の不安定性が少ない人
・靭帯の部分断裂で機能がある程度保持されている人

保存療法では、筋力強化トレーニングや装具療法を行い、膝の安定性を確保します。特に大腿四頭筋とハムストリングスの強化は、膝の安定性を高めるために重要です。

(2)手術療法

スポーツ復帰を希望する場合や、膝の不安定性が強い場合には、前十字靭帯再建術(ACL再建術)が推奨されます。ACL再建術では、断裂した靭帯を自家腱(ハムストリング腱、膝蓋腱)や人工靭帯で置き換えます。

一般的な再建術の方法として以下が挙げられます。
1. ハムストリング腱移植:半腱様筋腱を用いる方法で、低侵襲かつ良好な成績を示します。
2. 膝蓋腱移植:骨付き膝蓋腱を移植する方法で、強度が高い一方、術後の膝前面の痛みが残る可能性があります。
3. 人工靭帯:最新の技術で開発された人工靭帯を用いる方法もあり、一部の症例で用いられます。

手術後の合併症として、関節の硬さ(拘縮)、感染症、移植腱の再断裂などが報告されており、適切なリハビリが重要になります。

3. 手術後のリハビリ

ACL再建術後のリハビリは、膝の安定性を回復し、スポーツや日常生活への復帰を目指して行います。適切なリハビリを行わないと、関節可動域の制限や筋力低下が起こり、再断裂のリスクが高まります。

●リハビリのスケジュール

ACL再建術後のリハビリは、段階的に進められます。

術後1~2週(急性期)
・膝の腫れを抑えるためにアイシング
・足関節の可動域訓練(血栓予防)
・早期荷重の開始(装具使用)

術後3~6週(回復期)
・軽度のスクワットやレッグプレスによる大腿四頭筋の強化
・バランストレーニング(プロプリオセプションの向上)

術後3~6か月(強化期)
・ランニングやジャンプの開始
・方向転換や片脚ジャンプの練習
・スポーツ特異的動作の導入

術後9か月以降(復帰期)
・フルスポーツ復帰が可能(再断裂予防のため慎重に)
・片脚ジャンプや切り返し動作のテストを実施し、安全性を評価

スポーツ復帰の時期については、最新の研究では術後9か月以上のリハビリ期間を設けることで再断裂のリスクを低減できるとされています。

4. ACL断裂後の長期的な管理

手術後のリハビリが完了した後も、継続的な筋力トレーニングや関節可動域の維持が重要です。ACL再建術後は、約20%の患者が対側のACLを損傷するリスクがあるため、慎重なフォローアップが求められます。

また、ACL損傷歴のある人は、変形性膝関節症(OA)のリスクが高まることが報告されており、将来的な膝の健康維持のためにも適切な運動習慣が重要となります。

5. まとめ

前十字靭帯断裂はスポーツ選手に多く発生し、手術が必要となるケースが多い疾患です。ACL再建術後のリハビリは段階的に進め、適切なトレーニングを行うことでスポーツ復帰が可能となります。
医療従事者としては、ACL損傷後の治療選択肢や術後のリハビリについて、最新のエビデンスに基づいた情報を患者に提供することが重要です。

参考文献

1. Griffin LY, et al. Understanding and Preventing Noncontact ACL Injuries. American Journal of Sports Medicine. 2006.
2. Myer GD, et al. The role of neuromuscular training in the prevention of ACL injuries. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy. 2008.
3. Pinczewski LA, et al. Long-term evaluation of ACL reconstruction using hamstring tendon autograft. The American Journal of Sports Medicine. 2007.
4. Shelbourne KD, et al. Arthrofibrosis in acute ACL reconstruction. The Journal of Bone & Joint Surgery. 1991.
5. Grindem H, et al. Risk of knee re-injury after ACL reconstruction. British Journal of Sports Medicine. 2016.
6. Paterno MV, et al. Incidence of contralateral ACL injuries. The American Journal of Sports Medicine. 2012.
7. Lohmander LS, et al. Osteoarthritis following ACL injury. Arthritis & Rheumatism. 2007.

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