当サイトページは日本国内の医療関係者(医師、理学療法士、その他医療関係者)の皆様を対象に医科向け医療機器を適正にご使用いただくための情報を提供しています。
日本国外の医療関係者や、一般の方への情報提供を目的としたものではありませんので、あらかじめご了承ください。

医療関係者ですか?

YES
/
NO

NOを選択すると、
トップページに戻ります。

透析患者と夏場の運動指導 ― 注意点とリスク管理

慢性腎臓病(CKD)患者における透析療法の普及とともに、透析患者への運動療法の重要性が注目されています。運動は身体機能の維持・改善に効果があり、生活の質(QOL)向上に寄与します。しかし、の高温多湿な環境下では、透析患者の運動は慎重な指導とリスク管理が必要です。今回は、最新のエビデンスをもとに、夏場における透析患者の運動指導のポイントを解説します。

透析患者における運動療法の意義

近年、透析患者に対する運動療法の有用性は多くの研究で報告されています。透析患者は身体活動量の低下によるサルコペニアや心血管疾患リスクが高いことが知られており、運動療法はこれらのリスク軽減に寄与します。

特に、有酸素運動やレジスタンス運動は、以下の効果が期待されています。
・筋力・筋量の維持・向上
・心肺機能の改善
・透析中の血圧コントロールへの貢献
・うつ症状や不安感の軽減
(参照:Heiwe S, Jacobson SH. 2011)

運動療法は、透析患者のフレイル予防の観点からも極めて重要です。

夏場における透析患者のリスク

日本の夏は高温多湿であり、脱水症状熱中症のリスクが高まります。透析患者は、腎機能低下により体液調節が難しく、体内水分量がシビアに管理されています。加えて、運動による発汗や循環動態の変化が加わることで、以下のようなリスクが生じやすくなります。
・低血圧
・熱中症
・電解質異常(特にナトリウム・カリウム)
・心血管イベント

また、夏場の屋外運動では、環境要因が重なることでリスクが増大します。そのため、透析患者には季節に応じた運動プログラムとリスク管理が求められます。

夏場における透析患者への運動指導のポイント

1. 環境調整
・室内での運動を推奨
・エアコンによる温度・湿度管理(室温25℃前後、湿度50%程度)
・直射日光下での運動は避ける

2. 運動前後の体調確認
・運動前に体重・血圧・体調を確認
・透析直後は脱水リスクが高く、運動は控える
・透析翌日など、身体状況が安定した時期に実施

3. 適切な運動量の設定
自覚的運動強度(Borgスケール)11~13(ややきつい程度)を目安に
・有酸素運動(ウォーキング・バイク)を中心に、1回20〜30分程度
・レジスタンス運動は低負荷・高回数
(参照:Smart NA et al., 2013)

4. 水分・電解質管理
・運動前後の水分補給は必須(医師の指示に基づいた量)
・運動中の発汗を考慮し、体重変化に注意
・カリウム制限中の患者には、電解質補給に留意

5. 患者への教育・指導
自己管理意識の向上
・夏場は特に「無理をしない」ことを周知
・体調不良時には運動を中止する判断ができるよう指導

透析患者の運動療法に関する最新エビデンス

最近の研究では、運動療法が透析患者の生命予後や心血管イベントに良好な影響をもたらすことが示唆されています。

特に、Li LCら(2023)は、室温管理下で行う適度な運動が、透析患者の血圧コントロールと心血管疾患リスク軽減に効果的であると報告しています。また、運動プログラム導入時には多職種連携(医師・看護師・理学療法士・管理栄養士)が重要であると指摘されています。

まとめ

透析患者に対する運動療法は、健康維持とQOL向上において欠かせない取り組みです。しかし、夏場の運動には特有のリスクがあるため、温度管理・水分管理・運動量の調整・患者教育を徹底することが重要です。

医療従事者として、透析患者が安全に運動に取り組めるよう、最新のエビデンスに基づいた運動指導とリスク管理を行いましょう。

参考文献・引用

1. Heiwe S, Jacobson SH. Exercise training for adults with chronic kidney disease. Cochrane Database Syst Rev. 2011;(10):CD003236。2. Smart NA, Williams AD, Levinger I, et al. Exercise & Sports Science Australia (ESSA) position statement on exercise and chronic kidney disease. J Sci Med Sport. 2013;16(5):406-411。3. Li LC, Wang JH, Wang YQ, et al. Exercise training and cardiovascular risk in patients on maintenance hemodialysis: A meta-analysis. Kidney Int Rep. 2023;8(1):22-34。

関連商品

記事一覧に戻る