日々の仕事や学習、家事育児などに追われる中で、「もっと集中力が続けば…」と感じたことはありませんか?集中力が続かない、情報処理スピードが落ちている――それは脳の能力が低下したわけではなく、自律神経のバランスに原因があるかもしれません。
実は、集中力と自律神経には密接な関係があり、自律神経を整えることで情報処理能力を高めることができるのです。本コラムでは、集中力を支える自律神経の仕組みや、日常生活でできる実践的な改善方法、そしてその裏付けとなるエビデンスについてご紹介します。
集中力は「脳の疲労」「睡眠不足」「ストレス」など、さまざまな要因で低下します。その中でも近年注目されているのが「自律神経の乱れ」です。
自律神経とは、交感神経と副交感神経の2つの神経がバランスを取りながら、私たちの身体の機能を無意識に調整しているシステムです。交感神経は「活動モード」、副交感神経は「休息モード」とも呼ばれています。
ストレスや過度な刺激、睡眠不足が続くと、このバランスが崩れ、集中したい場面でも注意力が散漫になったり、逆にリラックスしたい場面で心が落ち着かなくなったりします。
ある研究では、自律神経の活動を反映する「心拍変動(HRV)」が高い人ほど、認知パフォーマンス、特に集中力や情報処理スピードが高いことが示されています。
また、2020年に発表された論文では、「心拍変動バイオフィードバック」などを通じて自律神経のバランスを整えることで、集中力・意思決定能力の向上がみられることが報告されています。
では、自律神経を整えるにはどうすればよいのでしょうか?以下に、日常で取り入れやすい方法を5つご紹介します。
① 呼吸を整える:深呼吸と腹式呼吸
深くゆっくりとした呼吸をすることで、副交感神経が優位になり、心身がリラックス状態になります。1分間に5~6回のペースで腹式呼吸を意識すると、心拍変動が増し、集中力を高めやすい脳の状態になります。
② 短時間の仮眠をとる
15~20分のパワーナップ(短い昼寝)は、自律神経のバランスを整え、認知機能を回復させる効果があるとされています。NASAの研究でも、26分の仮眠で認知能力が34%向上したという結果が出ています。
③ 自然に触れる・散歩をする
緑地でのウォーキングや自然音を聞くことは、副交感神経を活性化させ、ストレスを軽減することが分かっています。これにより集中力も回復しやすくなります。
④ 朝の太陽光を浴びる
朝日を浴びることで体内時計が整い、自律神経のリズムも正常化されます。特にセロトニン(集中力ややる気に関係する脳内物質)の分泌が促進されるため、午前中からの集中がしやすくなります。
⑤ カフェインを「適量」摂取する
カフェインは交感神経を適度に刺激し、注意力と情報処理速度を一時的に高める効果があります。ただし、過剰摂取は逆に不安や不眠を引き起こすため、1日200mg程度(コーヒー2杯程度)を目安にしましょう。
自分の自律神経が乱れているかどうかを簡単にチェックする方法として、以下のようなポイントがあります:
・寝つきが悪い、朝スッキリ起きられない
・便秘や下痢など胃腸の不調が続く
・手足が冷えやすい
・仕事中にぼーっとする時間が増えた
・頻繁にイライラしたり不安を感じる
これらに心当たりがある方は、上記で紹介した自律神経の調整法を日常生活に取り入れてみてください。
私たちが効率よく仕事や学習に取り組むためには、「集中できる脳の状態」を保つことが重要です。その鍵を握るのが、自律神経のバランスです。
日常のちょっとした習慣を意識することで、自律神経の乱れを防ぎ、結果として集中力や情報処理能力を高めることができます。
無理な努力をするよりも、「整える」ことが最良の近道なのです。ぜひ、今日から取り組めることから始めてみてください。
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