パソコンやスマートフォン、家事や育児など、私たちは日々の生活の中で「手」や「指」をたくさん使っています。そのため、知らず知らずのうちに、手や指に負担が蓄積され、さまざまなトラブルが起こりやすくなります。
「なんとなく指がこわばる」「手の関節が痛い」「腫れやしびれがある」……そんな症状、見過ごしていませんか?
この記事では、手・指に起こる代表的なトラブルとその原因、そして誰でもできるセルフケアの方法について、医学的根拠(エビデンス)をもとにわかりやすく解説します。
手や指のトラブルには、いくつかの代表的な疾患や状態があります。それぞれの特徴と原因を見ていきましょう。
特徴:
指や手首を動かすと痛みが走る。特に親指の付け根から手首にかけて痛む「ド・ケルバン病」もこの一種です。
原因:
パソコン作業やスマホの長時間使用、育児中の抱っこなどで、同じ動作を繰り返すことにより腱と腱鞘が擦れて炎症を起こします。
エビデンス:
育児中の女性では特にド・ケルバン病の発症率が高いことが報告されています(Makkouk et al., 2004)。
特徴:
指を曲げたり伸ばしたりするときにカクンとはねるような動きをする。朝起きたときに症状が強く出ることが多いです。
原因:
腱が通るトンネル(腱鞘)が狭くなり、腱がスムーズに動かなくなるためです。更年期以降の女性や糖尿病のある方に多い傾向があります。
エビデンス:
糖尿病患者におけるばね指の有病率は一般人に比べて有意に高いことが報告されています(Chammas et al., 1995)。
特徴:
親指から薬指の半分にかけてしびれや痛みが起こり、ときに夜間に強くなることがあります。
原因:
手首の内部にある「手根管」というトンネル状の構造で、正中神経が圧迫されることによって起こります。パソコン作業、妊娠、ホルモンバランスの変化などが関連しています。
エビデンス:
手根管症候群は、パソコン作業者において職業性疾患として注目されており、作業時間との相関が示唆されています(Atroshi et al., 1999)。
特徴:
朝のこわばりや関節の腫れから始まり、進行すると指の変形が起こります。両手に対称的に症状が出ることが特徴です。
原因:
自己免疫疾患の一つで、関節の内側にある滑膜が炎症を起こし、軟骨や骨を破壊します。女性に多く、40代以降の発症が多いとされています。
エビデンス:
関節リウマチ患者の約70%が手指の関節に初発症状を認めるという報告があります(Scott et al., 2010)。
初期のうちに適切な対処をすることが、症状の悪化を防ぐカギとなります。違和感を「そのうち治るだろう」と放っておくと、手術が必要になるケースもあります。
ここでは、日常的に取り入れやすいセルフケアの方法をいくつかご紹介します。
手や指の痛みやこわばりは、血行不良によるケースもあります。お湯に浸ける、ホットタオルを使うなど、温めることで筋肉や腱の緊張が和らぎます。
ポイント:
40℃前後のお湯に5~10分ほど手を浸けるとリラックス効果も得られます。
毎日のちょっとしたストレッチやマッサージは、腱の滑走性を高めて痛みを予防します。
おすすめストレッチ:
・指を1本ずつ反らせてストレッチ
・手のひら全体を開く運動(5秒開いて、5秒閉じるを5回繰り返す)
ツボ刺激:
・合谷(ごうこく):親指と人差し指の付け根のくぼみにあるツボで、痛みやこわばりに効果があるとされています。
症状がある部分を固定することで、炎症を悪化させずにすみます。特に就寝中や長時間の作業時に使用するのがおすすめです。
栄養バランスのとれた食事、適度な運動、十分な睡眠は、自己免疫系やホルモンバランスを整えるうえでも重要です。特に関節リウマチや更年期以降の手のトラブルには、こうした基盤づくりが役立ちます。
手や指のトラブルは、誰にでも起こりうる身近な問題です。「少し違和感がある」「疲れているだけかも」と思っていても、早期に対応することがとても重要です。
腱鞘炎、ばね指、手根管症候群、関節リウマチなど、それぞれに特徴的な症状があるため、自己判断で放置せず、早めに医療機関を受診することをおすすめします。あわせて、日常のセルフケアを続けることで、症状の予防や軽減も期待できます。
これを機に、ご自身の「手」と「指」に少しだけ意識を向けてみてはいかがでしょうか?