歩行は人間にとって最も基本的な動作の一つであり、日常生活の移動や自立性の評価において重要な指標です。しかし、歩行パターンが正常から逸脱した場合、それは単なる「歩き方の癖」ではなく、基礎疾患を反映した異常歩行として臨床的に捉える必要があります。本稿では、「異常歩行」の代表的な種類とその特徴を整理し、リハビリ現場での観察や評価に役立つポイントをご紹介します。
異常歩行とは、正常歩行(効率的な倒立振子運動とバランスの制御が成立した歩行)から逸脱し、姿勢・下肢運動・体幹の使い方などが特徴的に変化した歩行パターンを指します。歩行の異常は、神経系疾患・筋骨格系疾患・感覚障害など多岐にわたる原因によって生じ、疾病の種類や重症度を反映することが多くあります。歩行の観察は、これらの異常を理解するうえでリハビリテーションの評価の基本となります(※1)。
片側の運動麻痺に伴う異常歩行で、麻痺側の下肢が引きずられたり、足を大きく外側に振り出したりする特徴があります。これは麻痺側足部の背屈(つま先を上げる機能)不足や筋トーヌス異常が関連し、遊脚相で下肢をクリアするために体幹や骨盤で代償するためです(※1)。この歩行では、片側の伸展位・内反尖足位が目立つことがあります。
深腓骨神経損傷などによる足背屈筋の機能低下に起因し、足先が床に引きずられやすいという特徴を持つ異常歩行です。このため遊脚期に膝や股関節を高く上げる高ステップ(steppage gait)が見られることが多く、つまずきやすさや転倒リスクが高まります(※1)。
小脳疾患や感覚障害に起因する異常歩行で、広い歩行基底・体幹の不安定性・歩幅やリズムの不規則性が特徴です。左右方向への揺れが目立ち、バランス維持に苦労します。これは運動の協調性と感覚入力の統合が阻害されるためです(※1)。
パーキンソン病などの基底核・中脳機能障害に伴う異常歩行で、歩幅の縮小、前傾姿勢、リズムの変化、歩行の開始・停止の困難といった特徴があります。歩行が小刻みになり、速度が低下する傾向があります(※1)。
筋疾患や骨盤帯近位筋群の筋力低下により、骨盤の安定性が損なわれることで左右の荷重相で骨盤が下がったり、ふらついたりする異常歩行です。一般に「よちよち歩行(waddling gait)」とも表され、筋力の低下が歩行運動に大きく影響します(※1)。
痙性対麻痺など上位運動ニューロン疾患に伴って見られる歩行で、両下肢が内転位となり、まるで足をハサミで切るような運動パターンになるのが特徴です(※1)。内転筋の緊張亢進が原因となり、歩幅が狭くなります。
中殿筋や小殿筋など股関節外転筋群の筋力低下や神経支配障害で生じる異常歩行で、立脚期に反対側の骨盤が下がる特徴があります。これにより重心線が支持側へ大きく移動する歩行パターンです(※1)。
歩幅が小さくリズムが変化する異常歩行で、歩行開始が困難であると同時に歩幅が狭いことが特徴です。これは前頭葉性歩行障害や高次運動機能障害に関連することが知られています(※2)。
異常歩行の種類と特徴を理解するだけでなく、臨床での評価には以下のような視点が重要です。
・観察のルール化:歩行の各位相(スタンス期、スイング期)ごとの動作を丁寧に観察します。
・定量的評価:歩行速度、歩幅、足のクリアランスなど数値化できる指標を用いることで、異常歩行の程度や経時的変化を捉えることができます。
・多因子的判断:神経機能、筋力、感覚機能、バランスなど複数の要素が異常歩行に影響するため、総合的な評価を行います。
異常歩行の観察・評価は、リハビリテーションの導入や治療効果判定だけでなく、疾患診断や予後予測にもつながる重要なプロセスです。
臨床研究においては、脳卒中片麻痺患者の異常歩行パターンを定量的・統計的手法で分類した報告があり、複数の特徴的な異常歩行が重複して観察されることが示されています。このような分類研究は、臨床の歩行分析精度を高めるための理解を深める一助となっています(※2)。
異常歩行は、単なる「歩き方の変化」ではなく、基礎疾患や機能障害を反映する重要な臨床徴候です。臨床では代表的な歩行パターンに関する知識を踏まえ、特徴を正確に捉えることで、評価やリハビリテーション展開がより効果的になります。異常歩行の種類と特徴を理解し、それぞれの患者さんの歩容から適切な情報を引き出せるようにしましょう。
1.Gait Abnormalities — Stanford Medicine 25.
https://med.stanford.edu/stanfordmedicine25/the25/gait.html
2.Classification of abnormal gait patterns of poststroke hemiplegic patients…
Ryutaro Motoya et al., Japanese Journal of Comprehensive Rehabilitation Science.2021;12:70-77.
https://doi.org/10.11336/jjcrs.12.70
掲載日:2026/4/11

