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歩行の“変動性”とは何か?―安定性との違いと臨床で見落とされる重要指標

はじめに:その歩行、「安定している」と言い切れますか?

臨床現場で歩行評価を行う際、「安定している」「ふらつきがある」といった表現を用いることは多いと思います。
しかし、見た目には安定しているように見える患者が転倒したり、逆にやや不安定でも転倒しないケースも経験するのではないでしょうか。
この違いを説明する重要な概念が、歩行中の「変動性(variability)」です。
本コラムでは、「歩行」における変動性とは何かを整理し、従来の安定性評価との違い、そして臨床での活用方法について解説します。

結論:変動性は“隠れた不安定性”を可視化する指標である

結論から述べます。
歩行の変動性とは「一歩ごとのばらつき」を示し、見た目では捉えにくい不安定性を評価する指標です。
つまり、
 • 安定性=外見的なふらつき
 • 変動性=内部的なリズムの乱れ
であり、この2つは異なる次元の概念です。

歩行における変動性とは何か

変動性の定義

歩行の変動性とは、
ステップごとの時間や距離などの揺らぎ(ばらつき)を指します。
例えば、
 • 歩行周期の時間
 • 歩幅
 • 支持時間
といったパラメータが一歩ごとにどれくらい変化するかを評価します。
この「ばらつき」は通常、変動係数(Coefficient of Variation:CV)などで数値化されます。

なぜ変動性が重要なのか

歩行は完全に同じ動作の繰り返しではなく、わずかな揺らぎを伴う運動です。
しかし、その揺らぎが大きくなると、
運動制御の破綻=転倒リスクの増大につながります。
実際、歩行変動が大きい人ほど将来的な転倒リスクが高いことが報告されています(※1)。

安定性との違い:似ているようで全く異なる概念

安定性とは

安定性は、
 • 重心の揺れ
 • 姿勢の保持
など、外から見て分かるバランス状態を指します。
例えば、
 • ふらついている
 • 体幹が揺れている
といった視覚的評価です。

変動性との違い

ここで重要なのは、
安定性が良好でも、変動性が高い場合があるという点です。
例えば:
 • 一見まっすぐ歩いている
 • しかし歩幅やタイミングが毎回微妙に異なる
このような状態は、
「安定しているようで不安定」と言えます。
研究でも、歩行速度や一般的な機能評価では差が出なくても、歩行変動は転倒リスクを識別できることが示されています(※2)。

なぜ変動性が増えるのか

1.神経制御の低下

歩行は自動運動に見えますが、実際には
 • 脳
 • 脊髄
 • 感覚入力
の統合によって制御されています。
加齢や神経障害により、この制御が乱れると変動性が増大します。

2.バランス・筋力の低下

筋力低下や支持性低下がある場合、身体は毎回異なる補正を行います。
その結果、
一歩ごとのばらつきが増えると考えられます。

3.認知機能の影響

歩行は認知機能とも密接に関係します。
デュアルタスク(認知課題+歩行)では、
 • 歩行速度低下
 • 変動性増加
が報告されています(※3)。
これは、注意資源の分散により歩行制御が不安定になるためです。

臨床で変動性をどう捉えるか

1.「変動しているか」を観察する

まずは簡易的に
 • 歩幅が一定か
 • 歩くリズムが一定か
を観察します。
違和感がある場合、それは変動性の増大を示唆します。

2.可能であれば定量化する

より正確には、
 • 歩行周期のばらつき
 • 支持時間のCV
などを測定することが望ましいです。
近年ではウェアラブルセンサーの普及により、臨床でも実施しやすくなっています。

3.他の指標と組み合わせる

重要なのは、変動性を単独で使うのではなく
 • 歩行速度
 • バランス評価
 • TUG
などと組み合わせることです。
研究でも、歩行変動と他指標の併用が転倒リスクの識別精度を高めるとされています(※2)。

臨床で見落とされやすい理由

理由① 見た目では分かりにくい

変動性は「微小なズレ」のため、観察だけでは気づきにくいです。

理由② 評価の習慣がない

多くの現場では
 • 歩行速度
 • バランス
が中心であり、変動性を評価する文化がまだ十分に浸透していません。

理由③ 定量化のハードル

従来は測定機器が必要であり、実施が難しい場面も多くありました。
しかし現在は状況が変わりつつあります。

まとめ:変動性を評価することで歩行の“本質”が見える

本コラムのポイントを整理します。
 • 歩行の変動性は「一歩ごとのばらつき」を示す指標
 • 安定性とは異なる概念であり、見た目では捉えにくい
 • 変動性の増大は転倒リスクと強く関連する
 • 歩行速度などと組み合わせて評価することが重要
歩行を評価する際、
「安定しているか」だけでなく
「どれくらい一定に歩けているか」
という視点を持つことが大切です。
それは、転倒予防だけでなく、患者の運動制御を理解する上でも重要な一歩となります。

参考文献

(※1)Gait variability and fall risk in community-living older adults: a 1-year prospective study, Hausdorff JM, et al.
Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2001;82(8):1050-1056.
https://doi.org/10.1053/apmr.2001.24893

(※2)Association Between Physical Performance, Gait Variability, and Fall Risk in Community-Dwelling Older Adults, Park Y, et al.
Life. 2025;15(9):1469.
https://doi.org/10.3390/life15091469

(※3)Dual-Task Gait Analysis: Combined Cognitive–Motor Demands Most Severely Impact Walking Patterns, Nedović N, et al.
Life. 2025;15(7):1009.
https://doi.org/10.3390/life15071009

掲載日:2026/8/27

この記事の著者

コンテンツ制作チーム
コンテンツ制作チーム

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