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異常歩行パターン別に考える“評価→原因推定→介入”のポイント

はじめに

リハビリテーションの現場では、「異常歩行を認める」という評価は日常的に行われています。しかし、異常歩行を見つけることと、その原因を適切に推定して介入につなげることは別の課題です。
例えば、遊脚期に足先が引っかかる患者を見たとき、前脛骨筋の筋力低下だけが原因とは限りません。股関節屈曲筋力の低下や痙縮、感覚障害、あるいは代償運動の結果として生じている可能性もあります。
近年は三次元動作解析やウェアラブルセンサーなどの歩行分析技術が進歩していますが、臨床現場では依然として観察的歩行分析が重要です。重要なのは、「見えた異常」をそのまま記録するのではなく、「なぜ起きているのか」を考える視点です。
本コラムでは、代表的な異常歩行パターンについて、評価から原因推定、介入までの考え方を整理しながら紹介します。

異常歩行の評価は「パターン認識」から始まる

歩行分析の目的は、歩容を分類することではありません。
最終的な目的は、患者の活動性や社会参加を阻害している要因を明らかにし、適切なリハビリにつなげることです。
歩行は全身運動であり、筋力、関節可動域、感覚機能、認知機能、環境要因などが複雑に関与します。そのため、観察された異常歩行を単一の障害だけで説明しようとすると本質を見失うことがあります。
観察的歩行分析では、
 ・どの相で異常が起きているか
 ・左右差はあるか
 ・代償動作は存在するか
 ・安全性や効率性に影響しているか
を整理してみることが重要です。
近年のレビューでは、歩行分析は運動障害の病態把握だけでなく、個別化されたリハビリプログラムの立案にも有用であることが報告されています(※1)。

下垂足歩行(Foot Drop)

評価

代表的な所見として、
 ・遊脚期の足尖クリアランス低下
 ・初期接地でのフットスラップ
 ・つまずきやすさ
などがみられます。
多くの場合、患者は足部を引きずらないように代償的な高歩行(Steppage gait)を呈します。

原因推定

考えられる原因として、
 ・前脛骨筋の筋力低下
 ・腓骨神経麻痺
 ・脳卒中後の麻痺
 ・足関節背屈可動域制限
 ・下腿三頭筋の痙縮
などがあります。
ここで重要なのは、「足が上がらない」という現象だけで判断しないことです。
足関節だけでなく、股関節・膝関節の運動や筋活動も併せて評価する必要があります。

介入

リハビリでは、
 ・足関節背屈筋群の運動療法
 ・歩行練習
 ・感覚入力の促通
 ・股関節屈曲機能の改善
などが中心になります。
「足を上げる訓練」だけではなく、歩行周期全体を通して評価することが重要です。

トレンデレンブルグ歩行

評価

立脚期に体幹が支持側へ傾き、骨盤の水平保持が困難になる歩行です。
特に股関節疾患や中殿筋機能低下でよくみられます。

原因推定

主な原因は、
 ・中殿筋筋力低下
 ・股関節痛
 ・術後の筋機能低下
 ・股関節外転筋群の協調性低下
などです。
重要なのは、中殿筋筋力だけでなく疼痛の有無を確認することです。
痛みの回避行動として異常歩行が出現しているケースも少なくありません。

介入

介入としては、
 ・股関節外転筋トレーニング
 ・荷重練習
 ・バランストレーニング
 ・歩行指導
が中心となります。
歩行中の骨盤安定化は、転倒予防や歩行効率改善にもつながります。

膝過伸展歩行(Genu Recurvatum)

評価

立脚中期から後期にかけて膝関節が過度に伸展するパターンです。
脳卒中後や神経疾患患者でしばしば認められます。

原因推定

原因としては、
 ・大腿四頭筋の筋力低下
 ・足関節背屈制限
 ・下腿三頭筋の痙縮
 ・感覚障害
 ・荷重コントロールの低下
などが考えられます。
観察だけでは判断が難しいため、関節可動域や筋力評価を組み合わせることが重要です。

介入

介入では、
 ・足関節可動域改善
 ・荷重応答練習
 ・大腿四頭筋トレーニング
 ・動的バランス練習
などが選択されます。
膝過伸展そのものを修正するのではなく、その背景にある運動戦略を理解することが求められます。

分回し歩行(Circumduction Gait)

評価

遊脚期に患側下肢を外側へ円を描くように振り出す歩行です。
脳卒中患者で非常に頻繁に観察されます。

原因推定

主な原因には、
 ・下肢伸展共同運動
 ・足関節背屈障害
 ・膝屈曲不足
 ・股関節可動域制限
などがあります。
一見すると股関節の問題に見えますが、実際には足部クリアランス確保のための代償動作であることが多くあります。

介入

リハビリでは、
 ・遊脚期の膝屈曲促通
 ・足関節背屈練習
 ・股関節運動制御訓練
 ・課題指向型歩行練習
が有効です。
異常歩行そのものを修正するのではなく、「なぜ分回しが必要になっているのか」を考えることが重要です。

歩行分析は“原因推定”が最も重要

臨床では異常歩行の名称を覚えることに意識が向きがちです。
しかし、リハビリテーションで重要なのは診断名ではありません。
同じ分回し歩行でも、
 ・足関節背屈筋力低下
 ・痙縮
 ・可動域制限
 ・感覚障害
では介入方法が異なります。
歩行分析とは、「歩容を評価する技術」ではなく、「運動障害の原因を推定する技術」と言い換えることもできます。
Mirelmanらは、歩行機能が筋骨格系だけでなく認知機能や注意機能の影響も受けることを報告しており、歩行評価には包括的な視点が求められると述べています(※2)。

これからのリハビリに求められる視点

厚生労働省は「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」において、身体活動や運動機能の維持が健康寿命延伸に重要であることを示しています。
歩行能力は日常生活活動や社会参加の基盤です。
そのためリハビリでは、異常歩行の改善そのものを目的とするのではなく、
 ・転倒リスクの軽減
 ・活動量向上
 ・外出機会の増加
 ・QOL向上
といった生活機能レベルへの波及効果を意識する必要があります。
歩行分析はあくまでスタート地点です。
異常歩行を正しく評価し、その背景を推定し、患者の生活につながる介入へ結び付けることこそが、これからのリハビリに求められる役割ではないでしょうか。

まとめ

異常歩行の観察はリハビリテーション評価の重要な要素です。しかし、歩容を分類するだけでは臨床的価値は十分とはいえません。
重要なのは、歩行分析によって異常を発見し、その原因を推定し、適切な運動療法やリハビリ介入へつなげることです。
同じ異常歩行に見えても、その背景は患者ごとに異なります。だからこそ、「評価→原因推定→介入」という思考プロセスを丁寧に積み重ねることが、より質の高いリハビリテーションにつながるのです。

参考文献

厚生労働省資料
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html

(※1)Gait Analysis in Neurorehabilitation: From Research to Clinical Practice, Mirjam Bonanno, et al.
Bioengineering. 2023;10(7):785.
https://doi.org/10.3390/bioengineering10070785

(※2)Gait, Anat Mirelman, et al.
Handbook of Clinical Neurology. 2018;159:119-134.
https://doi.org/10.1016/B978-0-444-63916-5.00007-0

掲載日:2026/9/14

この記事の著者

コンテンツ制作チーム
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