高齢者のリハビリテーションに携わる医療従事者であれば、「歩行速度が低下してきた」「外出頻度が減った」「転倒を繰り返すようになった」といった変化を目にする機会は少なくないでしょう。
こうした機能低下の背景には、単一の疾患だけではなく、複数の運動器障害が複雑に関与していることがあります。
実際、高齢者では加齢に伴う筋力低下や骨・関節機能の変化に加え、変形性関節症や骨粗鬆症などの運動器疾患が重なることで、身体機能や生活機能が徐々に低下していきます。
重要なのは、高齢者の機能低下を「年齢のせい」と捉えるのではなく、その背景にある運動器の問題を理解し、適切なリハビリや運動療法につなげることです。
本記事では、高齢者に多い運動器疾患と機能低下の関係を整理しながら、リハビリテーションに求められる視点について紹介します。
結論から言えば、高齢者の機能低下は単一要因ではなく、多因子によって生じます。
身体機能の低下には、
・筋力低下
・関節可動域制限
・バランス能力低下
・骨密度低下
・身体活動量減少
などが関与します。
特に重要なのが「運動器」の変化です。
運動器とは、
・骨
・関節
・筋肉
・靭帯
・腱
・神経
など身体を支え動かすための器官の総称です。
高齢者ではこれらの機能が加齢とともに低下するため、移動能力や日常生活動作の維持が難しくなります。
厚生労働省は要介護状態の予防において、運動器機能の維持が重要であることを示しており、健康寿命延伸のためにも身体活動の継続を推奨しています。
高齢者に最も多くみられる運動器疾患の一つです。
軟骨変性や関節変形によって、
・膝痛
・歩行能力低下
・立ち上がり困難
・外出頻度低下
などが生じます。
痛みを避けるために活動量が減少し、その結果として筋力低下が進行する悪循環に陥りやすいことが特徴です。
股関節痛や可動域制限によって歩行能力が低下します。
特に股関節伸展制限は歩幅の減少を招き、高齢者の移動能力へ大きな影響を与えます。
活動量が減少すると下肢筋力も低下し、さらに身体機能が低下するという連鎖が生じます。
骨粗鬆症は骨折リスクを高める代表的な疾患です。
特に、
・大腿骨近位部骨折
・椎体骨折
は要介護化の主要因として知られています。
骨折後は長期臥床により筋力が急速に低下するため、リハビリテーション介入が極めて重要になります。
脊柱管狭窄症や脊椎変性疾患も高齢者に多い疾患です。
特徴として、
・間欠性跛行
・姿勢変化
・歩行距離短縮
などがみられます。
症状が進行すると外出機会が減少し、社会参加にも影響を及ぼします。
近年、高齢者の運動器障害を考えるうえで重要視されているのがロコモティブシンドローム(ロコモ)です。
日本整形外科学会は、運動器障害によって移動機能が低下した状態、あるいは低下するリスクが高い状態をロコモティブシンドロームと定義しています。
ロコモが進行すると、
・歩行能力低下
・転倒リスク増加
・要介護リスク増加
につながります。
高齢者のリハビリでは、疾患単位だけでなく移動能力全体を捉える視点が重要です。
高齢者の機能低下を考えるうえで欠かせないのがサルコペニアです。
サルコペニアとは加齢に伴う筋肉量および筋力の低下を指します。
Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)は、
・筋力低下
・身体機能低下
・骨格筋量減少
を診断基準としています(※1)。
サルコペニアでは、
・歩行速度低下
・転倒リスク増加
・ADL低下
がみられます。
さらに運動器疾患による活動量低下が加わると、筋力低下はさらに加速します。
そのため高齢者では「運動器疾患」と「サルコペニア」を切り離して考えることはできません。
高齢者のリハビリでは、痛みや関節可動域のみを見るだけでは不十分です。
重要なのは、疾患が生活へどのような影響を与えているかを評価することです。
具体的には、
・歩行速度
・バランス能力
・下肢筋力
・ADL能力
・転倒歴
・活動量
などを総合的に評価する必要があります。
例えば膝関節症患者でも、
痛みは軽度 ↓ 歩行速度低下 ↓ 外出機会減少 ↓ 筋力低下
というケースは少なくありません。
機能低下の連鎖を早期に発見することが重要です。
高齢者の運動器疾患では、安静による改善よりも適切な身体活動の維持が重要とされています。
近年の研究では、変形性関節症患者に対する運動療法は疼痛改善や身体機能改善に有効であることが示されています(※2)。
リハビリでは、
・筋力トレーニング
・有酸素運動
・バランス練習
・歩行練習
・柔軟性向上訓練
などを組み合わせて実施します。
特に高齢者では、痛みの軽減だけではなく、
・外出機会の増加
・転倒予防
・社会参加
を目標に設定することが重要です。
高齢化が進む日本では、運動器疾患を抱える高齢者は今後さらに増加すると予想されています。
一方で、身体機能低下が進行してからリハビリを開始するケースも少なくありません。
本来は、
「歩けなくなってから介入する」
のではなく、
「歩ける状態を維持するために介入する」
ことが理想です。
そのためには医療機関だけでなく、地域や介護分野とも連携しながら継続的な運動習慣を支援することが求められます。
高齢者の機能低下の背景には、変形性関節症や骨粗鬆症などの運動器疾患だけでなく、サルコペニアや活動量低下が複雑に関与しています。
高齢者のリハビリでは、疾患だけを見るのではなく、移動能力や生活機能全体を評価する視点が重要です。
また運動療法は単に筋力を改善するための手段ではありません。活動量を維持し、社会参加を促進し、健康寿命の延伸を支える重要な介入です。
これからの高齢者医療では、「治療」だけでなく「機能を維持するためのリハビリ」という視点がますます重要になるでしょう。
(※1)Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment, Liang-Kung Chen, et al.
Journal of the American Medical Directors Association.2020;21(3):300-307.e2.
https://doi.org/10.1016/j.jamda.2019.12.012
(※2)Exercise for osteoarthritis of the knee: a Cochrane systematic review, Marlene Fransen, et al.
British Journal of Sports Medicine.2015;49(24):1554-1557.
https://doi.org/10.1136/bjsports-2015-095424
掲載日:2026/9/16
医療機器メーカーとして培ってきた経験を大切にしながら、健康や身体に関する情報を発信しています。
読者の身近な疑問に寄り添い、一般の方の日々の健康づくりや、医療従事者の方の日々の臨床に役立つコンテンツをお届けします。
皆さまがご自身の身体や健康に目を向けるきっかけをつくれるよう、誠実な情報発信に努めています。

