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電気刺激療法の驚くべき歴史と仕組み

はじめに

私たちの身体は、電気信号によって動いています。脳から送られた微弱な電気信号が神経を伝い、筋肉を収縮させることで、私たちは日常の動作を行うことができます。この体の仕組みを応用し、治療に活かしているのが「電気刺激療法(electrical stimulation therapy)」です。
電気刺激療法は、筋肉や神経に対して人工的に電気を与えることで、運動機能の回復や痛みの緩和を図るリハビリテーションの一種です。近年では、医療やスポーツ、美容分野でも広く活用されていますが、その歴史は非常に古く、紀元前の時代までさかのぼることができます。
本コラムでは、電気刺激療法の驚くべき歴史や仕組み、そして科学的根拠に基づいた効果についてわかりやすく解説します。

古代から始まった電気刺激の歴史

電気刺激療法の起源は、古代ローマ時代にさかのぼります。古代ローマの医師スクライブニウス・ラルグス(Scribonius Largus)は、シビレエイ(電気ウナギの一種)を用いて痛みを和らげたという記録を残しています。彼は頭痛や関節痛の患者に対して、電気魚に触れさせることで症状を緩和させたと記述しており、これが「電気による治療」の最初の実践例とされています。

その後、18世紀には静電気を用いた治療法が広がり、19世紀になるとガルバーニやヴォルタなどが神経・筋肉と電気の関係性を科学的に明らかにし始めました。特にルイジ・ガルバーニの「生体電気(animal electricity)」の発見は、電気刺激療法の基礎を築いた重要な発見です。

現代においては、電気刺激装置の技術が大きく進化し、より安全かつ効果的に使用できるようになりました。現在では、整形外科・神経内科・リハビリテーション科など、さまざまな医療現場で活用されています。

電気刺激が働くメカニズムとは?

電気刺激療法は、神経や筋肉に対して外部から電流を与えることにより、生理的な反応を引き起こす治療法です。私たちの体内でも神経を通じて電気信号が流れており、この自然な伝達システムを人工的に再現するのが電気刺激療法の基本原理です。

たとえば、「TENS(経皮的電気神経刺激)」では、皮膚の上から微弱な電流を流し、知覚神経を刺激します。これにより、痛みの信号が脊髄レベルで遮断される「ゲートコントロール理論(Gate Control Theory)」に基づいて、痛みの緩和が期待できます[Melzack & Wall, 1965]。

また、「NMES(神経筋電気刺激)」や「FES(機能的電気刺激)」では、筋肉を直接刺激して収縮させることができます。これは、運動麻痺のある人のリハビリや筋力の維持、関節可動域の改善に効果的とされています。さらに、繰り返し刺激を与えることで、神経可塑性(neuroplasticity)を促進し、神経系の再学習を助けるという研究結果もあります[Rushton, 2003]。

このように、電気刺激療法は単に筋肉を動かすだけでなく、神経と筋の再教育や疼痛緩和など、複合的な作用をもつ医療技術です。

電気刺激療法の種類と用途

電気刺激療法には、目的に応じてさまざまな種類があります。

1. TENS(経皮的電気神経刺激)
痛みの緩和を目的とした治療で、整形外科や在宅医療などで広く使われています。慢性的な腰痛や関節痛、神経痛などに対して効果が報告されています。

2. NMES(神経筋電気刺激)
運動麻痺や筋力低下に対して、筋肉を人工的に収縮させることで機能回復を図る治療です。脳卒中や脊髄損傷後のリハビリなどあらゆるリハビリに用いられています。

3. FES(機能的電気刺激)
NMESと似ていますが、実際の動作(歩行や立ち上がりなど)を補助する目的で用いられます。運動パターンの再学習を促進する効果もあります。

4. IFC(干渉波治療)
2種類の異なる周波数の電流を体内で交差させることで、深部組織への刺激を可能にした治療法です。筋肉の緊張緩和や血流促進などが期待されます。

電気刺激療法は重要な役割を担っている

電気刺激療法は、単なる補助的な治療手段ではなく、「随意運動(自力で行う運動)」や「薬」では補いきれない部分を支える、重要な役割を果たしています。

たとえば、神経障害により思うように筋肉を動かせない患者さんの場合、自力でのリハビリでは十分な効果を得るのが難しいことがあります。こうした状況で電気刺激を加えることで、筋肉に対して的確な刺激を与え、筋力の維持や関節拘縮の予防につながるとされています。

また、慢性痛のように薬だけでは緩和が難しいケースでも、電気刺激を用いることで、薬に頼らない痛みのコントロールが可能となり、副作用のリスクを減らせるというメリットがあります。

まとめ

電気刺激療法は、古代の電気魚の活用から始まり、現代では科学的根拠に基づく医療技術として発展を遂げました。
その作用機序は神経や筋肉の本来の働きを活用したものであり、痛みの緩和や運動機能の回復、神経再学習の促進など、多方面での効果が期待されています。
今後も、さらなる研究と技術進化により、電気刺激療法は医療の現場でますます重要な存在になっていくことでしょう。

引用・参照文献

• Melzack R, Wall PD. “Pain mechanisms: a new theory.” Science. 1965;150(3699):971–979。
• Rushton DN. “Functional electrical stimulation and rehabilitation—an hypothesis.” Med Eng Phys. 2003;25(1):75–78。
• Sheffler LR, Chae J. “Neuromuscular electrical stimulation in neurorehabilitation.” Muscle Nerve. 2007;35(5):562–590。
• Glaser RM. “Functional electrical stimulation: technological aspects of its application in rehabilitation.” Crit Rev Biomed Eng. 1987;14(2):135–155。

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