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関節拘縮の原因と改善方法とは?
~リハビリで目指す機能回復の実際~

はじめに

関節拘縮は、整形外科やリハビリテーション領域で非常に頻繁に遭遇する症状のひとつです。脳卒中後の片麻痺、術後の安静期間、長期臥床、高齢者の活動制限など、さまざまな背景によって関節の可動域(ROM)が制限され、ADL(日常生活動作)の低下を引き起こします。
本コラムでは、関節拘縮の発生メカニズムや分類、そして改善を目指したリハビリテーションの実際について、エビデンスを交えて医療従事者向けに詳しく解説します。

関節拘縮とは?

関節拘縮とは、関節を構成する軟部組織(筋肉、腱、靭帯、皮膚、関節包など)の可動性が失われ、関節の自動・他動運動が制限された状態を指します。
関節拘縮は主に以下の2種類に分類されます。

● 器質的拘縮(構造的拘縮)
長期間の動作制限により、関節周囲の組織が物理的に短縮・癒着・変性することで生じるものです。筋や腱、関節包の線維化、脂肪化が進行し、リハビリによる改善が困難になることもあります。

● 機能的拘縮(可逆性拘縮)
痛みや麻痺、筋力低下、心理的要因などにより、自発的な関節運動が制限されている状態です。早期の介入によって改善が見込まれます。

関節拘縮の発生メカニズム

関節拘縮のメカニズムは複合的ですが、特に重要な要素は「不動(immobilization)」です。
Williams & Goldspink(1984)の動物実験によれば、筋を固定したラットは2週間で筋線維の短縮と筋周囲の結合組織の増加を示し、筋の弾力性と伸展性が著しく低下しました。これは、ヒトにおいても長期間のベッド上安静や装具固定によって同様の変化が起こりうることを示唆しています。
また、Boissy et al.(2007)の研究では、関節包や靭帯の不動によるヒアルロン酸の減少が関節内滑走の低下を引き起こすことが報告されており、化学的・機械的要因の双方が拘縮に関与していると考えられています。

関節拘縮の評価方法

関節拘縮の正確な評価は、適切なリハビリ計画を立てる上で重要です。以下の評価方法が用いられます。

関節可動域測定(ROM測定):ゴニオメーターを用いて他動・自動可動域を計測。
筋緊張評価:Modified Ashworth Scale(MAS)などを使用。
筋力評価:徒手筋力テスト(MMT)またはダイナモメーター。
機能評価:Barthel Index、FIM(機能的自立度評価)など。

関節拘縮の改善に向けたリハビリ戦略

関節拘縮の改善には、早期介入と継続的アプローチが不可欠です。以下に代表的なリハビリ方法を紹介します。

1. 他動運動(Passive ROM)
関節拘縮の初期段階においては、他動的に関節を動かすことで、筋・腱の伸展性を維持・改善します。痛みを伴わない範囲で、繰り返し・持続的に行うことが推奨されています。

2. 自動運動・自動介助運動(A-ROM)
自発的な筋活動を伴う運動は、筋力の維持とともに神経回路の活性化にも有効です。介助を加えることで、可動域の拡大と運動再学習を促します。

3. ストレッチング
筋腱ユニットに対して一定時間(15~60秒)持続的な伸張刺激を与えることで、柔軟性の向上を図ります。Freitas et al.(2015)は、静的ストレッチングが関節可動域を有意に改善することを報告しています。

4. 装具療法
夜間持続装具や関節可動域維持用スプリントを使用することで、短縮した筋や関節包への持続的な伸展刺激を与えます。特に手関節や足関節に有効です。

5. 電気刺激療法(NMES)
筋萎縮を伴うケースでは、神経筋電気刺激(NMES)によって筋収縮を促し、拘縮の進行予防と筋再教育を目指します。

多職種によるアプローチの重要性

関節拘縮の改善には、理学療法士だけでなく、作業療法士、医師、看護師、介護士との多職種連携が不可欠です。

理学療法士:ROM改善、歩行訓練
作業療法士:ADL動作訓練、上肢機能回復
医師:薬物療法(筋弛緩剤・NSAIDs等)や関節内注射
看護師:日常生活の体位変換や褥瘡予防
介護士:家庭内での正しい移乗・介助動作の実践

拘縮予防の視点も忘れずに

一度発症した関節拘縮の改善には時間がかかるため、予防的アプローチが非常に重要です。特に手術後や入院初期段階での早期離床・ベッド上運動の導入は、拘縮予防に大きく寄与します。
また、慢性期患者においても、週数回の継続的なリハビリ介入が拘縮の再発を防ぐうえで有効であるとする報告(Harvey et al., 2006)もあります。

まとめ

関節拘縮は、ADLの低下だけでなく、生活全体の質にも大きく影響を及ぼします。リハビリによる改善は可能ですが、器質的変化が進行する前の早期介入と、継続的な訓練が鍵となります。医療従事者は、拘縮のメカニズムを理解し、科学的根拠に基づいたリハビリプログラムを構築することが求められています。
今後も、エビデンスに基づいた新たな介入法の研究と臨床応用が期待される分野です。

参考文献

1. Williams PE, Goldspink G. (1984). Changes in sarcomere length and physiological properties in immobilized muscle. Journal of Anatomy, 138(Pt 2), 343–350.
2. Boissy P, et al. (2007). Joint capsule changes in immobilized joints: A review. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 88(7), 1033–1039.
3. Freitas SR, et al. (2015). Effect of stretching techniques on range of motion: A systematic review and meta-analysis. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 25(2), 265–276.
4. Harvey LA, et al. (2006). Passive stretching does not prevent contracture after spinal cord injury: a randomized controlled trial. Spinal Cord, 44(10), 686–693.

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