パソコンやスマホの操作、家事や育児などで手を酷使することの多い現代。そんな生活の中で、親指の付け根あたりに痛みを感じた経験はありませんか?もしかすると、それは「ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)」かもしれません。
本コラムでは、「ドケルバン病とは何か」「どんな人がなりやすいのか」「原因と対策」について、最新の研究をもとにわかりやすく解説します。早期のセルフケアや生活習慣の見直しで、つらい症状の予防・改善を目指しましょう。
ドケルバン病(De Quervain’s disease)は、手首の親指側にある腱と腱鞘の間で起こる炎症のことを指します。正式には「狭窄性腱鞘炎」と呼ばれ、親指を動かすと手首に痛みが走るのが主な症状です。
この病気は、1895年にスイスの外科医フリッツ・ド・ケルバン(Fritz de Quervain)によって報告されたため、「ドケルバン病」と呼ばれるようになりました。
・親指の付け根や手首の親指側に痛みがある
・親指を広げたり、動かしたりすると痛みが増す
・ものをつかむ、つまむ動作がしづらい
・手首が腫れているように見える
特に、親指を中に入れて握りこぶしをつくり、手首を小指側に曲げる「フィンケルシュタインテスト」で強い痛みを感じた場合、ドケルバン病が疑われます。
ドケルバン病の原因は、親指の使いすぎによる腱への負担が主なものです。以下のような要因が挙げられます。
1. 繰り返しの手作業やスマホの使用
親指を頻繁に使う動作、たとえば長時間のスマートフォン操作、パソコン作業、料理や洗濯などの家事が腱に負担をかけます。
2. 出産や育児
産後の女性に多く見られるのも特徴です。赤ちゃんの抱っこやおむつ替え、授乳時の姿勢などで手首に大きな負担がかかります。
3. ホルモンの変化
妊娠・出産や更年期など、女性ホルモンの変動が腱や腱鞘の柔軟性に影響を与え、炎症を起こしやすくなることが指摘されています。
4. 関節リウマチや糖尿病などの基礎疾患
慢性的な炎症や循環不全を伴う疾患を持っている場合、腱鞘に炎症が起こりやすくなります。
・30~50代の女性
・家事・育児を日常的に行っている人
・パソコン作業やスマホ使用が多い人
・楽器演奏や手芸など手をよく使う趣味がある人
・関節リウマチや糖尿病を持っている人
女性に多く見られる病気であり、特に出産後の女性は注意が必要です。
1. 安静を保つ
まずは、痛みの原因となる動作を避け、手首・親指を休ませることが重要です。動かすたびに悪化することがあるため、無理は禁物です。
2. サポーターやテーピングを活用する
市販のサポーターやテーピングを使用し、手首の動きを制限することで、炎症の悪化を防ぐことができます。
3. 氷や温タオルでの冷却・温熱療法
炎症が強いときはアイシング、慢性的な痛みには温熱療法が有効です。状況に応じて使い分けましょう。
4. ストレッチとマッサージ
痛みが落ち着いたら、手首や指のストレッチ、血流改善を目的とした軽いマッサージを取り入れましょう。ただし、痛みが強い時期には控えてください。
5. 手首に優しい動作への工夫
手のひら全体を使って持つ、持ち上げるときに両手を使うなど、手首への負担を減らす工夫を取り入れましょう。
・痛みが数週間以上続いている
・指を動かすだけで激痛が走る
・腫れがひどくなってきている
・サポーターや冷却で改善しない
治療には、消炎鎮痛薬の内服や外用、ステロイド注射、リハビリ、手術(腱鞘の開放術)などがあります。医師の指示に従って、適切な治療を行いましょう。
・長時間同じ姿勢を避け、こまめに休憩をとる
・スマホやパソコン操作時に手首を支える工夫をする
・日常的に手や腕のストレッチを行う
・手に負担の少ない道具(軽いフライパン、抱っこ紐など)を使う
ドケルバン病は、手や指の使いすぎによって起こる腱鞘炎の一種です。特に家事や育児、スマホ操作などで手を酷使する人にとって、身近なリスクとなっています。
しかし、原因やなりやすい人の特徴を知っていれば、早期の対処やセルフケアで症状の悪化を防ぐことができます。日常生活の中での工夫や、必要に応じた専門医の受診を通じて、快適な生活を目指しましょう。
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・日本整形外科学会. (2023). 狭窄性腱鞘炎(ドケルバン病).
https://www.joa.or.jp/