指先の関節が曲がったまま戻らない――それは「マレット変形」かもしれません。日常生活の中でふと指先をぶつけたり、スポーツ中にボールが指に当たった経験はありませんか?その後、「指の先が伸びない」「曲がったままになっている」という症状が出ている場合、マレット変形を起こしている可能性があります。
本コラムでは、マレット変形の症状・原因・治療法について、できるだけ専門用語を使わずにわかりやすく解説します。また、最新の論文に基づいたエビデンスも紹介しながら、予防やセルフケアについてもご紹介していきます。
マレット変形(mallet deformity)とは、手指のDIP関節(遠位指節間関節:指の先端の関節)が伸ばせなくなる状態のことを指します。特に、指先が曲がったまま自力で伸ばせないという症状が最もよく見られます。
例えば以下のような症状があります。
・指の先が自然に曲がっている
・伸ばそうとしても、指先がぴんと伸びない
・腫れや軽い痛みを伴うことがある
・指を使う作業(タイピング・洗濯バサミを使うなど)で違和感がある
症状が軽度の場合は痛みが少なく、見た目の変化だけで気づく方もいます。しかし、放置していると指の変形が固定され、治療が難しくなることもあるため、早めの対応が大切です。
マレット変形の主な原因は、腱の損傷または骨折です。
指を伸ばす筋肉は、手の甲側から指先まで伸びている腱によって動いています。この腱が指先の骨(末節骨)につながっており、その接合部がスポーツや事故などで強く引っ張られることで、腱が切れてしまうと、指先を伸ばす力が働かなくなります。
・スポーツ外傷(ボールが指先にぶつかる)
・重い物を持っていて指を挟んだ
・子どもを抱き上げた時に強く指が引っ張られた
など、突発的な外力によるケースが多く見られます。
腱が切れるのではなく、腱が付着している指先の骨(末節骨)の一部が骨折してはがれるように欠けてしまう場合もあります。こちらはX線検査で確認され、整形外科での治療が必要になります。
マレット変形は、「Doyle分類」と呼ばれる方法で重症度が評価されることがあります。
・タイプ1:腱断裂のみ(皮膚損傷なし)
・タイプ2:皮膚に裂傷を伴う腱断裂
・タイプ3:骨折を伴う(骨性マレット)
・タイプ4:子どもに多い、成長軟骨に影響がある骨性マレット
特にタイプ3やタイプ4の場合は、治療方針が異なるため、専門医の診断が重要です。
多くのマレット変形は保存療法で改善します。特別なスプリント(副木)を使って、常にDIP関節を伸ばした状態に保つことで、腱や骨が自然に修復するのを促します。
・固定期間:通常6~8週間
・その後、数週間かけて徐々に可動域を回復させる
注意点は、「固定中に一度でも指を曲げてしまうと、再度6週間のやり直しになる」ということ。治療には根気と慎重さが求められます。
論文によれば、保存療法により85〜90%の症例が良好な結果を得られると報告されています。
骨折が大きい場合や、スプリントで改善しない症例、あるいは美容上の理由で変形が気になる場合などは、手術が選択されることがあります。
・骨片の固定(ピンやスクリュー)
・腱縫合
・靱帯の再建 など
ただし、術後もスプリント固定とリハビリは必要であり、全体の治療期間は長くなる傾向があります。
マレット変形は、予防が難しいケースもありますが、以下の点を意識することでリスクを減らせます。
・スポーツ時には指を保護するテーピングや手袋を使用する
・家具の角や重いドアなど、指先を挟まないよう意識する
・作業や育児中は無理な指の使い方を避ける
・高齢者では骨粗鬆症対策が有効(骨性マレット予防)
また、もし指先をぶつけた直後に違和感があれば、すぐにアイシングを行い、関節が腫れてきたり動きが悪くなったりする場合は整形外科を受診することをおすすめします。
マレット変形を放置してしまうと、以下のようなリスクがあります。
・指の変形が固定されて戻らなくなる
・他の関節に過剰な負担がかかり、スワンネック変形(白鳥の首状変形)に進展する
・慢性的な機能障害につながる
「少しだから大丈夫」と思わず、早めの対応が後々のQOL(生活の質)を守るカギになります。
マレット変形は、見た目の変化が大きいため気づきやすい反面、痛みが少ないため軽視されがちです。しかし、放置することで変形が固定され、日常生活や仕事に支障をきたすこともあります。
もし「指が伸ばせない」「曲がったまま戻らない」と感じたら、自己判断せず整形外科を受診しましょう。早期発見・早期治療によって、多くの場合は元の指の機能に回復することが可能です。
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