風邪を引きやすい、疲れが取れにくい、体調を崩しやすいと感じる方は、「免疫力」が低下しているのかもしれません。近年では感染症対策としても注目されている「免疫力」ですが、その仕組みを理解して、正しく高めることができれば、病気に負けない身体をつくることができます。
本コラムでは、「免疫力」「仕組み」「高め方」というキーワードを中心に、免疫力とは何か、どのように働いているのか、そして日常生活でどのように免疫力を高めることができるのかについて、科学的根拠に基づいて解説していきます。
「免疫力」とは、外から侵入してくるウイルスや細菌、体内で発生するがん細胞などの異常なものを識別・排除する身体の防御機能のことです。
● 自然免疫と獲得免疫
免疫には主に「自然免疫」と「獲得免疫」の2種類があります。
・ 自然免疫:生まれつき備わっている防御機能で、マクロファージや好中球といった免疫細胞が、異物を見つけ次第すばやく反応します。スピードは速いが特異性は低く、最初の防御ラインと言われます。
・ 獲得免疫:病原体に一度感染した際に情報を記憶しておき、次回の感染に備える免疫です。B細胞やT細胞が関与し、ワクチン接種がこの仕組みに基づいています。
この2つの仕組みが連携することで、私たちは日々の感染症や病気から身体を守っているのです。
免疫力が低下すると、以下のような不調が現れることがあります。
・ 風邪を引きやすい
・ 疲れが取れない
・ 口内炎や肌荒れが頻発する
・ アレルギー反応が出やすくなる
・ 消化器の不調(下痢・便秘)
免疫力は加齢とともに自然と低下すると言われていますが、生活習慣によっても大きく左右されます。つまり、正しい知識と習慣で免疫力を高めることが可能なのです。
では、どのような生活習慣が免疫力を高めるのでしょうか?ここではエビデンスのある実践的な方法をご紹介します。
免疫力を高めるには、免疫細胞の働きを支える栄養素が必要です。以下の栄養素は特に重要とされています。
・ ビタミンC:抗酸化作用があり、免疫細胞の機能を活性化させる。
・ ビタミンD:免疫細胞の調整に関与し、感染症予防にも効果的。
・ 亜鉛:免疫細胞の分裂と機能維持に不可欠。
・ たんぱく質:抗体や免疫細胞の材料になる。
特に野菜・果物・魚・豆類などを意識的に摂取することで、免疫力向上につながります。
睡眠不足は免疫機能に大きな悪影響を与えます。睡眠中には免疫細胞が活性化され、体内の修復作業が行われます。7〜8時間の質の高い睡眠が理想とされ、就寝前のスマホ使用やカフェイン摂取を控えることが推奨されています。
軽度〜中程度の有酸素運動は、免疫細胞の循環を促し、感染症への抵抗力を高めます。週に150分程度のウォーキングやジョギングなどが効果的です。ただし、過度な運動は逆に免疫力を低下させることがあるため注意が必要です。
慢性的なストレスはコルチゾールというホルモンの分泌を促し、免疫機能を抑制してしまいます。ストレス管理には、マインドフルネス瞑想、趣味の時間の確保、人とのつながりを大切にすることが有効です。
腸は「第二の脳」とも呼ばれ、免疫細胞の約7割が腸に集中しています。腸内環境を整えることで免疫力も向上します。発酵食品(ヨーグルト、納豆、キムチなど)や食物繊維を多く含む食品を意識的に取り入れましょう。
免疫力に関する研究は、がん治療、感染症対策、アレルギー制御など多岐にわたります。特に注目されているのは「免疫チェックポイント阻害薬」など、免疫細胞の働きを利用したがん免疫療法です。
また、パンデミック以降、日常的な免疫力の強化が個人レベルでの感染症対策として重視されるようになっています。
「免疫力」は私たちの身体を守るために欠かせない仕組みです。自然免疫と獲得免疫が連携して機能しており、日々の生活習慣によってその働きは強化も弱化もされます。
栄養バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動、ストレス管理、腸内環境の改善といった取り組みを実践することで、免疫力を効果的に高めることが可能です。正しい知識を持って、免疫力を味方につけましょう。
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更新日:2025/11/26

