慢性腎不全に対する血液透析(以下、透析)は、患者さんの生命維持に欠かせない治療です。しかし週3回、1回あたり4時間前後を要する透析治療は、患者さんのライフスタイルや仕事との両立に大きな影響を及ぼします。実際、日本透析医学会の調査では、透析導入後に離職や勤務形態の変更を余儀なくされる患者さんが少なくありません。一方で、透析を受けながらも仕事を継続する方は多数おり、その背景には医療従事者の支援や患者さん自身の工夫が存在します。
本コラムでは、透析患者さんが仕事を続けるうえで直面する課題や制限、また仕事と透析を両立するための工夫について、エビデンスを交えながら解説します。
透析は週3回実施されることが一般的で、1回あたり4~5時間の治療時間に加えて通院時間や前後の体調管理も必要です。これによりフルタイム勤務やシフト勤務に支障をきたすケースがあります。特に夜勤や長時間労働を伴う職業では、治療スケジュールとの両立が困難となりやすいです。
透析後は疲労感、低血圧、筋けいれんなどが出やすく、すぐに仕事へ復帰できない場合があります。体力的な制限は、特に肉体労働や長時間の立ち仕事に影響を与えます。また透析患者では貧血や筋力低下も生じやすく、これが労働能力の低下につながることも報告されています。
透析患者はカリウムやリンの制限、さらに1日の水分摂取量に制限がかかるため、外食や不規則な食生活が多い職場環境では大きな負担となります。特に営業職や出張の多い仕事では、制限遵守が難しくなるケースがあります。
透析によるライフスタイルの制限は、患者さんのQOL(生活の質)や精神的健康にも影響します。仕事を辞めざるを得ない状況は自己肯定感の低下につながり、うつ症状を発症するリスクも指摘されています。
一部の施設では夜間透析や在宅血液透析が導入されています。夜間透析は仕事帰りに治療を受けられるため、日中の労働時間を確保できます。在宅透析は自己管理能力を要しますが、治療時間を比較的自由に設定できる点で、仕事との両立に大きな利点があります。
透析治療のスケジュールを職場に理解してもらうことが重要です。特に週3回の通院に関しては、就業時間の一部を透析に充てるための勤務調整や、在宅勤務の導入などが有効です。医療従事者が患者さんに就労支援の相談窓口を案内することも必要です。
透析患者では筋力低下や体力低下が進行しやすいため、仕事継続のためには運動療法やリハビリが推奨されます。特に透析中の運動療法(intradialytic exercise)は筋力や持久力を改善し、仕事への復帰率を高める可能性が報告されています。
管理栄養士による食事指導は、透析患者が仕事中でも制限を守りやすくするために有効です。具体的には、持ち運びやすい低カリウム食品の紹介、外食時のメニュー選択の工夫、飲水量を調整するための実践的アドバイスなどがあります。
透析患者の就労率は国や地域によって差がありますが、日本では比較的高い水準にあります。これは国民皆保険制度や社会的支援が整備されていることが背景にあります。一方で、透析患者の就労継続率を高めるためには、医療従事者による多職種連携が欠かせません。
Cukorら(2007)の研究では、就労継続が患者のうつ症状や生活の質の改善に寄与することが示されています。またHeiweら(2014)のメタ分析では、運動療法が透析患者の身体機能を改善し、就労可能性を高めることが確認されています。
さらに、透析と仕事の両立を可能にするためには、患者・医療従事者・職場の三者協力が鍵となります。医療従事者が患者の生活背景に応じた治療方針を提案し、職場が柔軟な働き方を提供することで、透析患者の社会参加を維持することができます。
透析患者が仕事を続けることは容易ではありませんが、夜間透析や在宅透析の利用、職場との調整、体調管理、リハビリの活用などにより、十分に可能です。就労は患者さんの生活の質を大きく向上させる要因であり、その支援は医療従事者にとって重要な役割です。今後もエビデンスに基づいた就労支援の体制が求められます。
1. Saran, R., Bragg-Gresham, J. L., Rayner, H. C., et al. (2003). Nonadherence in hemodialysis: associations with mortality, hospitalization, and practice patterns in the DOPPS. Kidney International, 64(1), 254–262.
https://doi.org/10.1046/j.1523-1755.2003.00064.x
2. Cukor, D., Coplan, J., Brown, C., et al. (2007). Depression and anxiety in urban hemodialysis patients. Clinical Journal of the American Society of Nephrology, 2(3), 484–490.
https://doi.org/10.2215/CJN.00040107
3. Heiwe, S., & Jacobson, S. H. (2014). Exercise training for adults with chronic kidney disease. Cochrane Database of Systematic Reviews, (10), CD003236.
https://doi.org/10.1002/14651858.CD003236.pub2

