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透析患者における運動療法のエビデンスと実践方法 ― 治療効果と導入のポイント

はじめに

慢性腎不全の患者さんにとって、透析は生命を維持するために不可欠な治療です。しかし、長期にわたり透析を継続する中で、身体機能の低下やサルコペニア、心血管疾患リスクの増加など、生活の質(QOL)を低下させる要因が蓄積していきます。その対策の一つとして注目されているのが「透析中の運動療法」です。近年、国内外でエビデンスが積み重なり、透析患者に対する運動療法の安全性と有効性が明らかになってきました。本コラムでは、透析と運動療法に関する最新の研究エビデンスと、臨床現場での実践方法について解説します。

透析患者における運動機能低下の現状

透析患者では、慢性的な腎機能障害に加え、長時間の透析ベッド上での安静によって活動量が低下しやすくなります。日本透析医学会の統計によると、透析患者の多くは高齢化が進み、サルコペニアやフレイルの合併率も増加しています(日本透析医学会, 2023)。このため、透析患者では転倒リスクが高まり、日常生活動作(ADL)の低下や入院率の増加が問題となっています。

こうした背景から、透析患者の運動機能を維持・改善するために、透析中あるいは透析前後に運動療法を取り入れる試みが広がっています。

透析中の運動療法のエビデンス

透析患者に対する運動療法の効果については、多くの研究が報告されています。特に「透析中に行う運動療法」は、時間的な制約を克服でき、コンプライアンスが高い点が注目されています。

1. 体力・筋力の改善

Cheemaら(2007)のシステマティックレビューでは、透析患者に対する有酸素運動やレジスタンストレーニングが、最大酸素摂取量(VO₂peak)や筋力を有意に改善することが示されています(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17259673/)。

2. 心血管系への効果

運動療法は透析患者における動脈硬化の進行を抑制し、血圧コントロールを改善することが報告されています。特に、透析中にエルゴメーターを使用した運動療法は、心血管イベントのリスク低減に寄与する可能性が指摘されています(Ouzouniら, 2009, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19713446/)。

3. QOLの向上

運動療法は透析患者の抑うつ症状や倦怠感を軽減し、健康関連QOLを改善することが示されています(Heiwe & Jacobson, 2014, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24766405/)。透析生活を送りながらも「生活の質を維持する」ために、運動療法は重要な役割を果たします。

透析中の運動療法の実践方法

透析患者に運動療法を導入する際には、安全性の確保と継続性の向上がポイントとなります。

1. 運動の種類

有酸素運動:透析中にベッドサイドエルゴメーターを用いた下肢ペダリング運動が代表的です。

レジスタンス運動:セラバンドや軽量ダンベルを使用した上肢・下肢筋トレーニング。

ストレッチ:関節可動域を維持するための柔軟体操。

2. 運動の強度

アメリカ腎臓学会(KDOQI)の推奨では、中等度強度(Borgスケールで11~13程度)の運動が推奨されています。過度な負荷は血圧変動やシャント部位への負担となるため避ける必要があります。

3. 実施のタイミング

透析中の安定した時間帯、通常は透析開始30分~1時間後に実施するのが望ましいとされています。透析直後は血圧低下や倦怠感が強いため、運動は避けることが推奨されます。

4. 医療従事者の役割

医師:透析患者ごとの心血管リスクや合併症を評価し、運動可否を判断。

理学療法士:適切な運動プログラムの立案と指導。

看護師:透析中のバイタルサインのモニタリングと安全確保。

実践における課題と工夫

透析中の運動療法は有効である一方、実践にはいくつかの課題があります。

患者の意欲低下:倦怠感や抑うつにより運動を避ける傾向。

設備不足:透析室にエルゴメーターなどの機器を設置できないケース。

人員不足:理学療法士が常駐していない施設では継続的な指導が困難。

こうした課題に対しては、簡易なチューブ運動やベッド上でできる体操を導入するなど、環境に合わせた工夫が求められます。また、患者教育を通じて「透析と運動療法の意義」を理解してもらうことも重要です。

今後の展望

近年、透析時運動指導等加算の診療報酬化により、運動療法の導入を促す制度的基盤が整ってきました。今後は、全国的に透析中運動療法の普及が期待されます。また、ICTを活用したリモートモニタリングや、ウェアラブルデバイスによる活動量評価など、最新技術を取り入れた取り組みも進んでいます。

まとめ

透析患者における運動療法は、体力・筋力の維持向上、心血管系リスクの軽減、QOLの改善に有効であることが多くのエビデンスによって示されています。透析中に実施できる運動療法は、時間的制約を克服し、患者の生活の質を支える重要な取り組みです。今後は、医療従事者がチームで協力し、患者ごとに安全で継続可能な運動療法を提供することが求められます。

参考文献

Cheema, B. S., & Singh, M. A. (2005). Exercise training in patients receiving maintenance hemodialysis: a systematic review of clinical trials. American Journal of Nephrology, 25(4), 352-364.
https://doi.org/10.1159/000087184

Ouzouni, S., Kouidi, E., Sioulis, A., Grekas, D., & Deligiannis, A. (2009). Effects of intradialytic exercise training on health-related quality of life indices in haemodialysis patients. Clinical Rehabilitation, 23(1), 53–63.
https://doi.org/10.1177/0269215508096760

Heiwe, S., & Jacobson, S. H. (2014). Exercise training for adults with chronic kidney disease. Pathogenesis and Treatment of Kidney Disease Volume 64, Issue 3p383-393.
https://doi.org/10.1053/j.ajkd.2014.03.020

日本透析医学会「図説わが国の慢性透析療法の現況(2023年版)」
https://www.jsdt.or.jp/

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