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骨粗鬆症患者における安全な運動療法の実践:エビデンスに基づくアプローチ

はじめに

骨粗鬆症は、高齢者に多くみられる代表的な骨代謝性疾患であり、骨密度の低下や骨質の劣化によって骨折リスクが高まる病態です。特に大腿骨近位部骨折や脊椎圧迫骨折は要介護状態につながり、QOL(生活の質)や生命予後にも大きな影響を与えます。
その中で「運動療法」は、薬物治療と並ぶ骨粗鬆症管理の重要な柱であり、骨密度維持や転倒予防に効果があると報告されています。本コラムでは、骨粗鬆症患者における運動療法の目的とエビデンス、安全に実施するためのポイントについて解説します。

骨粗鬆症における運動療法の目的

骨粗鬆症患者に運動療法を導入する主な目的は以下の3つに整理されます。
1. 骨密度の維持・改善
運動による機械的刺激は骨形成を促進し、骨吸収を抑制するとされています。特に荷重運動(ウォーキングや軽いジョギング)は骨密度維持に有効です。
2. 筋力・バランス能力の向上
加齢に伴うサルコペニアは転倒リスクを増加させます。下肢筋力強化やバランストレーニングは転倒予防に寄与します。
3. QOLの向上
継続的な運動は身体機能の維持だけでなく、自信や活動性の向上をもたらし、社会参加の維持にもつながります。

エビデンスに基づく運動療法の効果

骨密度改善への効果

多くの臨床研究で、定期的な運動が骨密度にプラスの影響を与えることが示されています。
例えば、Kelley et al. (2013) は閉経後女性を対象としたメタ解析で、有酸素運動やレジスタンス運動が骨密度低下を抑制することを報告しています。

転倒予防への効果

Sherrington et al. (2019) のシステマティックレビューによると、バランスを重視した運動介入は高齢者の転倒リスクを有意に減少させることが明らかになっています。これは骨粗鬆症患者の骨折予防にも直結する重要なエビデンスです。

骨折予防の可能性

骨密度改善効果だけでなく、運動介入によって骨折リスクそのものを減少させる可能性も示唆されています。Kemmler et al. (2013) は高齢女性を対象とした長期介入試験で、運動群において骨折発生率が低い傾向を報告しています。

安全に運動療法を実施するためのポイント

骨粗鬆症患者では骨折リスクが高いため、運動処方には十分な配慮が必要です。特に医療従事者が指導する際には、以下の点を考慮します。
1. 運動種目の選択
• 推奨される運動:ウォーキング、軽いジョギング、スクワット、レジスタンスバンドを用いた筋力強化、太極拳やヨガなどバランス運動。
• 避けるべき運動:ジャンプ動作や急激な体幹前屈、重度の脊椎屈曲を伴う運動は椎体骨折のリスクを高めるため注意が必要です。
2. 運動強度の調整
中等度強度(自覚的運動強度Borgスケールで11~13程度)が推奨されます。高強度運動は有効性も期待できますが、必ず医師や理学療法士の評価のもと導入します。
3. 継続性の確保
骨密度や筋力の改善には数か月以上の継続が必要です。患者の生活習慣に組み込みやすい形で運動を処方することが、効果を最大化する鍵となります。
4. 合併症や転倒リスクへの配慮
心疾患や変形性関節症を合併する患者も多いため、事前評価を行い、運動プログラムを個別に調整する必要があります。

運動療法と他の治療の組み合わせ

骨粗鬆症治療では、薬物療法(ビスホスホネート、デノスマブなど)や栄養管理(カルシウム・ビタミンD摂取)が基本となります。運動療法はこれらと併用することで最大限の効果を発揮します。
また、リハビリテーション医療の一環として、運動指導士や理学療法士が関与することで、安全性と継続性を高められます。

まとめ

骨粗鬆症患者における運動療法は、骨密度の維持、転倒予防、QOL向上に効果的であり、多くのエビデンスによって支持されています。一方で、骨折リスクを回避するためには、運動種目や強度、患者背景に応じた調整が不可欠です。
医療従事者は最新の研究知見を踏まえ、薬物療法や栄養指導と併せた包括的な介入を行うことで、骨粗鬆症患者の生活の質を大きく改善できると考えられます。

参考文献

1. Kelley, G. A., Kelley, K. S., & Kohrt, W. M. (2013). Exercise and bone mineral density in premenopausal women: a meta-analysis of randomized controlled trials. Osteoporosis International, 24(1), 291–292. https://doi.org/10.1155/2013/741639
2. Sherrington, C., Fairhall, N. J., Wallbank, G. K., et al. (2019). Exercise for preventing falls in older people living in the community: An abridged Cochrane systematic review.
BMJM, (54)15. https://doi.org/10.1136/bjsports-2019-101512
3. Kemmler, W., Häberle, L., & von Stengel, S. (2013). Effects of exercise on fracture reduction in older adults: a systematic review and meta-analysis.
Osteoporosis International, 24(7),1937-50.
https://doi.org/10.1007/s00198-012-2248-7

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