冬は気温の低下や乾燥により、呼吸器感染症や誤嚥性肺炎のリスクが高まる季節です。特に高齢者や基礎疾患を持つ患者にとって、誤嚥性肺炎は生命予後に直結する重大な疾患であり、医療従事者が積極的に予防と介入を行う必要があります。近年では、呼吸リハビリテーションの役割が注目され、誤嚥性肺炎予防の一助として活用が進んでいます。本コラムでは、冬に増加する誤嚥性肺炎の背景と最新のリハビリによる予防戦略について、エビデンスを交えて解説します。
冬季に誤嚥性肺炎が増加する要因には以下の点が挙げられます。
寒冷刺激により交感神経が優位になり、循環・呼吸への負担が増します。これにより全身状態が不安定になり、嚥下機能低下や誤嚥のリスクが高まります。
冬の乾燥環境では口腔・気道粘膜のバリア機能が弱まり、細菌が侵入しやすくなります。特に唾液分泌量が減少すると嚥下時の潤滑性が低下し、誤嚥が起こりやすくなります。
冬季はインフルエンザなどの感染症が増加し、発熱や全身倦怠感が嚥下機能をさらに低下させます。感染による炎症は気道クリアランスを阻害し、肺炎を誘発します。
寒さから活動量が減少すると、呼吸筋や嚥下関連筋が弱まり、誤嚥性肺炎リスクが増加します。
誤嚥性肺炎の発症に関連する主な因子は以下の通りです。
・高齢(特に75歳以上)
・脳血管疾患や神経筋疾患による嚥下障害
・認知症やパーキンソン病
・不十分な口腔ケア
・栄養状態の低下(低アルブミン血症など)
・長期臥床やサルコペニア
これらのリスク因子を把握し、患者ごとに適切な介入を行うことが重要です。
呼吸リハビリは、誤嚥性肺炎予防において次のような効果が報告されています。
吸気筋・呼気筋の強化により、咳嗽力を改善し、誤嚥した内容物を気道から排出しやすくします。特に呼気筋トレーニング(Expiratory Muscle Strength Training: EMST)は、嚥下反射の改善にも寄与すると報告されています。
呼吸と嚥下は密接に関連しており、呼吸リハビリと嚥下訓練を併用することで誤嚥防止効果が高まります。嚥下時の呼吸パターンを整える訓練は有効です。
リハビリの一環として、嚥下時の体位(頸部前屈姿勢など)や呼吸法の指導を行うことで誤嚥を減らせます。
軽度~中等度の有酸素運動は免疫機能の維持にも有効であり、冬季の感染症予防にも寄与します。
・呼気筋トレーニングの有効性
Sapienzaら(2011)の研究では、EMSTが嚥下機能の改善と誤嚥リスク低減に有効であることが示されています。
・口腔ケアとリハビリの併用
Yoneyamaら(2002)の報告では、定期的な口腔ケアを実施した群で肺炎発症率が有意に低下しました。口腔ケアと呼吸リハビリを併せて行うことが重要です。
・早期介入の重要性
誤嚥性肺炎は再発リスクが高く、初回発症後の予後は不良とされています。そのため、冬場の発症前から予防的介入を行うことが推奨されます。
・室内の加湿管理(湿度40~60%)
・水分補給の励行
・栄養バランスの取れた食事(特にタンパク質)
・咳嗽力を高める呼吸筋トレーニング
・軽度な有酸素運動(歩行・体操)を継続
・嚥下機能を意識した呼吸・発声練習
・食事時の体位(椅子に座り、やや前傾姿勢)
・小口摂取・ゆっくり咀嚼
・食後の口腔ケアの徹底
冬は誤嚥性肺炎のリスクが高まる季節であり、医療従事者は患者の状態を的確に評価し、呼吸リハビリや嚥下訓練、生活習慣の指導を組み合わせて予防に取り組む必要があります。呼吸筋トレーニングや口腔ケアの併用はエビデンスに基づいた有効な方法であり、早期からの介入が予後改善に寄与します。
誤嚥性肺炎の予防は医療従事者にとって重要なテーマであり、冬季の指導内容に積極的に取り入れていくことが求められます。
Sapienza CM, Troche MS. Respiratory muscle strength training: theory and practice. ISBN13: 978-1-59756-626-1.
Yoneyama T, Yoshida M, Ohrui T, et al. Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes. J Am Geriatr Soc. 2002;50(3):430–433.
https://doi.org/10.1046/j.1532-5415.2002.50106.x
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会編. 呼吸リハビリテーションマニュアル. 南江堂, 2020.

