医療従事者は、患者さんの命を守るために24時間体制で働いています。その中でも交代勤務や夜勤は避けて通れない勤務形態です。しかし、交代勤務は体内リズム(サーカディアンリズム)の乱れを引き起こし、睡眠障害や生活習慣病、さらにはメンタルヘルスの問題にまで影響を及ぼすことが知られています。とりわけ医療従事者は強い責任感のもと働いているため、健康対策を怠るとパフォーマンス低下やヒューマンエラーのリスクにつながります。本コラムでは、交代勤務による体内リズムの乱れとその影響、そして医療従事者自身の健康を守るために実践できる健康対策について解説します。
人間の体は24時間周期のサーカディアンリズムに従って、睡眠・覚醒やホルモン分泌、体温調整を行っています。昼間に活動し夜に休むという自然なリズムに適応しているため、夜勤や不規則な交代勤務ではこのリズムが崩れやすくなります。
例えば、夜勤後、昼間に眠ろうとしても、環境光や社会的活動の影響で深い睡眠がとりにくくなり、睡眠の質・量ともに低下します。これが慢性的な睡眠不足や疲労蓄積につながり、身体的・精神的な不調を招きます。
1. 睡眠障害
夜勤者では入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒が多くみられます。これらは「交代勤務睡眠障害」として知られており、長期化すると慢性疲労や注意力低下を引き起こします。
2. 生活習慣病のリスク増加
交代勤務は糖代謝や脂質代謝に悪影響を与えると報告されています。研究では夜勤者に糖尿病や高血圧、肥満が多いことが示されており、心血管疾患リスクも上昇します。
3. メンタルヘルスへの影響
不規則勤務は抑うつ症状や不安障害のリスクを高めるとされています。特に睡眠不足と精神的ストレスが重なることで、医療従事者の燃え尽き症候群や離職率の上昇につながる可能性があります。
4. 医療ミスとの関連
体内リズムの乱れによる注意力・集中力の低下は、ヒューマンエラーを引き起こす要因の一つです。患者安全の観点からも、医療従事者の健康対策は欠かせません。
では、交代勤務や夜勤を避けられない環境の中で、医療従事者はどのようにセルフケアを行えばよいのでしょうか。以下にエビデンスを踏まえた健康対策を紹介します。
1. 睡眠環境の整備
夜勤明けの睡眠では、遮光カーテンやアイマスクを利用して光刺激を遮断することが推奨されます。また、耳栓やホワイトノイズを使い、騒音を減らすことで睡眠の質を高めることができます。
2. 光のコントロール
体内時計は光に強く影響されます。夜勤中は適度に明るい環境で働くことで覚醒度を高め、夜勤明けに帰宅したらサングラスを使用して日光曝露を抑えることで睡眠に入りやすくなります。
3. 栄養バランスの工夫
夜勤中の食事は消化に良く、血糖値の急上昇を避けられるメニューを選ぶことが望ましいです。深夜に高脂肪・高糖質の食事を摂ると代謝に負担がかかり、肥満や糖尿病リスクを高めます。軽食やタンパク質を含むバランスの良い食事が勧められます。
4. 適度な運動
交代勤務者では、疲労感から運動不足に陥りがちです。しかし、適度な有酸素運動やストレッチは睡眠の質を改善し、ストレス軽減にも役立ちます。勤務前後に短時間でも身体を動かす習慣を持つことが健康維持につながります。
5. ストレスマネジメント
医療従事者は高ストレス環境に置かれやすいため、セルフケアとしてのストレスマネジメントが重要です。呼吸法、マインドフルネス、趣味や交流の時間を確保することは心身のリフレッシュにつながります。
6. 職場での取り組み
個人の努力に加え、組織全体でのサポートも必要です。シフトの組み方に配慮し、連続夜勤を避ける、十分な休息を取れるようにするなど、職場環境の改善が健康対策には不可欠です。
交代勤務による健康リスクの知識は、医療従事者自身の健康管理に役立つだけでなく、患者への指導にも応用できます。例えば、生活リズムの乱れが慢性疾患の増悪因子であることを理解すれば、患者に対しても適切な睡眠・食事・運動指導を行いやすくなります。つまり、医療従事者のセルフケアは、そのまま患者ケアの質にも直結するのです。
交代勤務や夜勤は医療従事者にとって避けられない勤務形態ですが、体内リズムの乱れにより健康リスクが高まることがわかっています。睡眠環境の工夫、光や食事のコントロール、適度な運動、ストレスマネジメントといった健康対策を取り入れることで、心身の健康を維持しながら質の高い医療を提供することが可能になります。医療従事者自身の健康を守ることは、患者の安全と医療の質を守ることにもつながります。

