慢性腎不全患者に対して透析治療が継続される中、維持透析患者(以下「透析患者」)にとって、日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)の維持・改善は、生活の質(QOL)や転倒・入院・死亡といった予後に直結する重要な課題です。特に、長期透析に入ると、筋力低下、活動量の減少、栄養・代謝障害、骨・筋肉系の変化などが進行しやすく、ADL低下を伴うリスクが高まります。こうした状況下で、「運動」を日常ケア・リハビリテーション戦略として取り入れることが、医療従事者にとって必要不可欠です。本稿では、長期透析患者においてADLを維持・改善するための運動戦略を、最新のエビデンスをもとに整理し、臨床現場で活用可能な視点を提示します。
透析患者では、一般高齢者よりも身体機能低下や活動制限に直面する頻度が高く、ADLの障害が予後悪化の指標ともなっています。例えば、透析患者の約43.5%が何らかのADL障害を抱えているという報告があります(※1)。さらに、ADL障害をもつ透析患者では、栄養状態や運動耐容能の低下が強く関連しており、ADL低下=複数のリスク因子の集合とも捉えられます(※1)。
加えて、透析治療の長期化によって以下のような課題が挙げられます。
・筋量・筋力の低下(サルコペニア・筋萎縮)
・持久力・有酸素能力の低下
・代謝異常・貧血・炎症状態・骨・筋肉病変(CKD MBD)
・運動習慣の欠如・活動量の減少
これらが複合的にADL低下を促進するため、医療従事者は長期透析患者に対して、ADL維持を視野に入れた運動介入を早期から検討する必要があります。
慢性腎疾患(CKD)および透析患者に対して、運動・身体活動が身体機能・筋力・QOL・予後に有益であるという報告が蓄積されています。たとえば、「Physical activity and exercise in chronic kidney disease」では、運動・身体活動は透析治療を受けるすべての患者に安全に実施可能であり、身体機能や筋力、神経筋機能、認知機能、QOLなどにプラスの影響を与えると述べられています(※2)。
このように、運動はADL維持のみならず、長期透析患者の総合的な健康維持・予後改善に資する介入として位置づけられます。
透析患者を対象にした研究でも、運動介入によってADL(または身体機能)改善が確認されています。例えば、日本の研究では、透析中および透析後に実施した自主管理運動プログラムにより、高齢透析患者の身体・心理機能が維持・改善されたというパイロット研究があります(※3)。
また、筋力トレーニング(レジスタンス運動)に関するシステマティックレビューでは、維持透析患者においてレジスタンス運動が筋力増強、身体機能改善に有効とされており、これがADL維持・改善につながりうるというエビデンスが提示されています(※4)。
ADL低下は、透析患者において明確に予後不良と関連しており、ADLが障害された患者では、活動量低下・運動耐容能低下・栄養不良・筋力低下が顕著です(※1)。従って、ADL維持を目的とした運動介入は、単に「動けるようにする」だけでなく、「生きる力」「日常を営む力」を支えるケア戦略であると言えます。
長期透析患者のADL維持に向けた運動戦略を、医療従事者が臨床で活用しやすいよう整理します。
運動戦略を立てる前に、以下のような評価を実施します。
・握力、下肢筋力(立ち上がり回数)、歩行速度、6分間歩行距離などの身体機能テスト
・ADL評価(基本的ADL・手段的ADL)および活動量・日常動作の把握
・栄養状態(体重変化・血清アルブミン・BIAのフェーズ角など)
・運動耐容能・心血管・骨・筋肉系合併症・透析条件・体液変動
これにより「運動の導入可否」「どの部位を重点的に介入するか」「安全に実施できる負荷レベル」を判断できます。
ADL維持を目的とした運動では、次の構成要素を検討します。
・レジスタンス運動(筋力トレーニング):特に下肢・体幹筋。透析中座位や立位でのバンド運動、立ち上がり運動など。
・有酸素運動/動的運動:透析中ペダル運動、軽めの座位ウォーキング、透析後の屋外歩行・階段昇降など。
・機能的動作訓練・バランス訓練:起立・座位・荷重変化動作、転倒予防の動き、生活動作の再現。
・柔軟性・可動域向上運動:下肢・体幹・肩関節・脊柱のストレッチを含み、日常動作の制限を減らす。
・頻度・強度・継続性:エビデンスでは、週2〜3回以上、12週以上継続することで効果が確認されています(※2)。
個別の患者背景(透析歴、併存症、活動レベル)を踏まえ、無理なく段階的に負荷を上げていく設計が望まれます。
透析治療の枠組みを活用して運動を導入することには以下の利点があります。
・定期的に来院・座位またはベッド上という環境が予め設定されており、運動導入がしやすい。
・治療時間中(intradialytic exercise)に、監視下で軽度〜中等度の運動を行うことで安全性が比較的高い。
・多職種(腎臓内科医・看護師・理学療法士・運動指導者・栄養師)がチームを組みやすい環境。
実践にあたっては、患者の負荷耐性・透析条件(超過水量・血圧変動)・合併症リスクを確認し、「座位バンド運動10分+ペダル運動5分+立位起立運動5分」など短時間からスタートし、ADL改善・維持に向けた成功体験を積ませることが推奨されます。
運動を継続し、ADL維持に結びつけるためには以下の工夫が有効です。
・患者に「この運動はADLを維持し、転倒・入院を減らすためである」という目的を明確に説明する。
・成果を可視化(握力・歩行速度・座立ち回数・ADL定期評価)し、達成感を感じてもらう。
・生活動作(自宅での立ち上がり・トイレ・階段・歩行)に直結する運動を組み込む。
・家庭や外来でも実施可能な簡易運動メニューを提供し、透析外の日常活動を増やす。
・栄養・休息・睡眠・骨・筋肉・心理支援といった運動以外の因子(多職種介入)も併せて整備する。
ケース:60代男性、維持透析5年、最近「以前より歩くのが遅い」「立ち上がりがつらい」と感じ、歩行速度0.9 m/s、握力低下、ADL自立だが疲労感あり
このような長期透析患者に対して、ADL維持を目的とした運動戦略の流れの例を以下に示します。
1. 評価:握力測定、4m歩行速度、起立・座位回数・活動量アンケート・栄養指標(アルブミン・BIA)・透析超過水量・血圧変動状況を把握。
2. 運動プログラム導入(週2回透析中20分)
・5分:下肢・体幹ストレッチ(ベッド横・座位)
・10分:レジスタンスバンド運動(下肢伸展・膝屈曲・立ち上がり10回×2)
・5分:ペダル運動(座位、負荷軽め)
3. 生活動作連結:自宅での起立動作10回/日、階段昇降回数を意識、日常歩行10分/日。
4. モニタリング・調整(4週間ごと)
・歩行速度・握力・疲労感の変化確認
・患者の感想・継続状況をヒアリングし、運動頻度・負荷を調整。
5. 継続支援:達成表を設置、スタッフ・運動指導者が励まし、栄養師とタンパク質摂取・骨筋指導を併用。
このように、運動がADL維持にどう結びつくかを明確にして、長期透析患者にとって「今日も動ける」「明日も自立できる」という感覚を維持できるプログラムが鍵となります。
・早期介入の重要性:ADL障害が進んでからでは改善が難しく、運動導入は早い段階から検討すべきです。
・個別化設計:透析歴・合併症・活動レベル・生活背景は患者ごとに異なるため、画一的な運動ではなく、個別処方が求められます。
・継続性への配慮:長期透析患者において運動離脱・習慣化失敗のリスクが高いため、シンプル・短時間・達成感のある構成が効果的です。
・多職種連携:腎臓内科医・看護師・理学療法士・栄養師・運動指導者が共通の目標(ADL維持)に向かって関わることで介入効果が高まります。
・安全管理の徹底:透析による体液変動・血圧変化・疲労・心血管リスクのある患者では、運動開始前・中・後の観察が欠かせません。
・生活動作へのリンク:運動そのものだけでなく、「立ち上がる」「歩く」「階段を昇る」などのADL動作改善に直結する運動を意識することが重要です。
長期透析患者におけるADL維持は、QOL・自立・予後において極めて重要な臨床目標です。そして、「運動」はADL維持を支える強力な手段となり得ます。医療従事者は、透析患者の筋力・活動量・日常動作・栄養・合併症という複数因子を俯瞰したうえで、個別化した運動プログラムを設計・実践し、「今日も明日も自分で動ける」という状態を支える体制を整える必要があります。透析室という定期的な治療環境を活かし、運動を習慣化・継続可能なケアプランに位置づけることで、ADLの低下を予防・改善し、透析患者の自立支援と生活の質向上に貢献できるでしょう。
1. Li J, Wang Z, Zhang Q ,et al. Association between disability in activities of daily living and phase angle in hemodialysis patients. BMC Nephrol. 2023;24:350.
https://doi.org/10.1186/s12882-023-03400-1
2. Battaglia Y, et al. Physical activity and exercise in chronic kidney disease. J Nephrol. 2024.
https://doi.org/10.1007/s40620-024-02049-9
3. Takamatsu K, et al. Physical and psychological effects of a long-term supervised self-exercise program during hemodialysis in elderly dialysis patients: A single-site pilot study in a Japanese community setting. Medicine (Baltimore). 2024.
https://doi.org/10.1097/MD.0000000000038963
4. Zhao Q, Wu N, Duan K et al. Systematic review of the best evidence for resistance exercise in maintenance hemodialysis patients. PLoS ONE. 2024;19(12):e0309798.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0309798
5. Matsuzawa R, et al. Exercise Training in Elderly People Undergoing Hemodialysis. Kidney International Reports. 2017.
https://doi.org/10.1016/j.ekir.2017.06.008

