慢性腎不全により維持透析を受けている患者さんに対して、運動療法を透析中に実施する重要性が近年改めて認識されており、その流れの中で、医療機関が算定できる新たな加算「透析時運動指導等加算」が令和4年度の診療報酬改定で導入されました(※1)。
本コラムでは、医療従事者を対象に、この「透析時運動指導等加算」の算定要件を整理し、さらに実際の透析現場で活用する際のポイントを「誰が・何を・どうやって」取り組むかという視点で解説します。
まずこの加算の位置づけから押さえます。
令和4年度診療報酬改定では、人工腎臓(血液透析)療法を実施している患者を対象として、透析中に「病状及び療養環境等を踏まえた療養上必要な運動指導等」を実施した場合に、従来の人工腎臓技術料に加えて75点を算定できる新たな評価が設けられました(※1、※2)。
この加算の背景には、維持透析患者さんの「筋力低下」「運動耐容能の低下」「サルコペニアやフレイル化リスク」の問題があり、透析中という時間を活用して運動介入を行うことで、ADL維持・QOL向上・生活機能低下予防にもつなげようという考えがあります(※3)。
つまり、基本的には単に運動指導をしたというだけでなく、“透析中という限られた時間に、運動を含む療養上必要な指導をしっかり実施した”ことを評価するものです。
以下では、算定要件を項目ごとに整理し、実務上のポイントも併せて解説します。
・「人工腎臓(血液透析)を実施している患者」が対象です(※1)。
・透析実施日に該当の指導がなされた日に算定可能です(※2)。
・他院で既に指導開始されている患者を継続して自院で運動指導を行う場合でも算定可能ですが、「指導開始日から90日以内」という期間制限の起算日が他院開始日となる点に注意が必要です(※2)。
・指導者は以下の者である必要があります。
・運動指導に係る研修を受講した 医師、理学療法士、作業療法士
・または、医師から具体的指示を受けたうえで、当該研修を受講した 看護師(※1)
・具体的な研修については、日本腎臓リハビリテーション学会が開催する「腎臓リハビリテーションに関する研修」が該当します(※3)。
・看護師が指導を行う際は、医師からの“具体的指示”が診療録に記載されている必要があります(※1)。
・1回の血液透析中に、連続して20分以上、患者の病状・療養環境等を踏まえた「療養上必要な指導等」を実施することが求められます(※1)。
・指導等には「運動方法の説明」「実施」「運動に係る療養指導」などを含みます(※3)。
・指導開始から90日を限度として算定可能です(※2)。
・この加算を算定した日は、その患者に対して「疾患別リハビリテーション料(例:脳血管・整形等)」を別に算定できません(※4)。
・複数の患者を同時に指導する場合の運用や、EMS(電気刺激のみ)で対応した場合の算定可否については施設ごとの確認が必要です(※3)。
実際に透析治療を行っている医療機関で「透析時運動指導等加算」を活かすには、次の取り組みが鍵となります。
・医師・理学療法士・作業療法士・看護師らの連携を明確化し、看護師が指導を行う場合は医師の具体的指示がカルテに残るよう仕組みを作ります。
・指導者が研修を受講しているか確認し、記録を保管します(※3)。
・透析室内で運動実施できるスペースおよびスタッフの動線を検討し、安全かつ効率的に指導を行える体制を作ります。
・透析前の準備(ベッド上ストレッチ、ウォームアップ)→透析中20分以上の運動→クールダウンという流れを想定します。
・運動内容は患者の病状・療養環境に応じて、「有酸素性運動(ベッド上自転車運動、セラバンドウォーク)」「筋力トレーニング(レジスタンスバンドや軽負荷筋トレ)」を組み合わせます(※5)。
・運動中は血圧・心拍数・透析循環動態・倦怠感をモニタリングし、安全管理を徹底します。
・運動実施記録(開始時刻・終了時刻・運動内容・患者反応)をカルテに記載します(※1)。
・初回指導から90日以内の期間が算定対象となるため、透析開始直後の患者や新規導入患者を優先的に検討します(※2)。
・算定した日は、他の疾患別リハビリテーション料を算定できない点を理解・運用ルールを明確化します(※4)。
・定期的に運動効果(筋力、歩行速度、疲労スコア、QOL指標など)を評価し、改善状況をフォローアップします(※5)。
・多職種連携を強化し、透析治療と運動介入を“ワンフロー”として組み込みます(※3)。
「透析時運動指導等加算」は、透析療法中の患者さんに対して、運動指導を含む療養上必要な指導を実施した場合に新たに評価される加算です。算定要件を正確に把握し、透析室・リハビリ部門・看護部門など多職種での体制整備を行うことで、実践と収益化(加算算定)の両立が可能となります。
運動を透析中に組み込むという時間的制約がある中で、指導者の研修受講・運動プログラムの設計・モニタリング・カルテ記録の整備が重要です。加算算定だけでなく、運動介入による患者さんの生活機能維持・予後改善を目指し、多職種連携で実践を進めることが求められます。
(※1)厚生労働省「令和4年度診療報酬改定の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000912336.pdf
(※2)PT OT ST.NET「透析中の運動指導に係る評価(透析時運動指導等加算)」
https://www.pt-ot-st.net/contents4/medical-treatment-reiwa-4/department/73
(※3)日本腎臓リハビリテーション学会「透析時運動指導等加算の算定要件に関するQ&A」 https://jsrr.smoosy.atlas.jp/ja/notices/news20240116_2
(※4)公益社団法人日本透析医会「診療報酬関連」
https://touseki-ikai.or.jp/shinryo-hoshu-kanren/
(※5)診療報酬改定と腎代替療法専門指導士論考(2022年度改定)
https://touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/37-2/37-2-196.pdf
掲載日:2026/1/29

