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血圧変動・不整脈に配慮した透析時運動療法の安全管理ポイント──安全に“動かす”ための実践ガイド

透析患者に対する運動療法は、運動耐容能の改善、筋力維持、QOL向上の観点から広く推奨されています。しかし一方で、透析中は血行動態が不安定になりやすく、血圧低下や不整脈の発生リスクを完全に無視することはできません。そのため、透析時運動の安全管理には、病態生理の理解と継続的なモニタリング、そして適切な強度設定が不可欠です。
本コラムでは、最新の論文報告を踏まえながら、血圧変動・不整脈に配慮した透析時運動療法の安全管理のポイントを医療従事者向けに整理します。

■ 1.透析中に血圧が変動しやすい理由

透析時の血圧変動には複数の要因があります。
1. 除水による循環血液量の減少
2. 交感神経活動や血管反応性の低下
3. 心機能低下(HF併存など)
4. 食事・内服・水分制限の遵守状況

特に透析中の低血圧は頻度が高く、患者の20〜30%以上で起こるとされています。そのため、運動負荷をかける際には透析治療そのものによる血行動態変化を考慮したアセスメントが欠かせません。

■ 2.透析中の運動療法の効果と安全性

透析中運動は、近年の複数の研究で安全性と有効性が確認されています。
特に、有酸素運動や中等度レジスタンス運動の組み合わせは、以下のような効果を示します。

• 運動耐容能の向上
• 筋力の維持・改善
• 透析効率(Kt/Vなど)の改善
• 炎症マーカーの改善
• サルコペニア予防

例として、Salhabら(2021)のメタアナリシス(※1)では、透析中運動の介入群で運動耐容能が有意に改善し、重大な有害事象も極めて稀であったことが示されています。
ただし、安全性が確認されているとはいえ、個々の患者の病態(心疾患、糖尿病性自律神経障害、重度貧血など)によってリスクは異なるため、標準化された評価と継続的なモニタリングが不可欠です。

■ 3.血圧変動に配慮した運動強度設定

●(1)透析中の最適な運動タイミング

一般的に透析開始60〜90分後の比較的循環動態が安定しているタイミングが安全とされています。
除水速度が大きい場合は低血圧リスクが高まるため、個別に調整が必要です。

●(2)適切な運動強度

多くのガイドラインは以下を推奨しています。
• Borgスケール11〜13(ややきつい)
• 最大心拍数の40〜60%
• 10〜30分程度の持続運動

運動療法の効果を得つつ血圧変動を最小限にするには、無理のない強度設定が不可欠です。

●(3)運動中の血圧測定

安全管理のためには以下のような頻度が推奨されます。
• 運動前
• 運動中10〜15分ごと
• 運動終了後
• 症状(めまい・息切れ・悪心)が出現したタイミング

急激な血圧低下(収縮期で20mmHg以上の下降)は、運動中止の重要なサインです。

■ 4.透析患者に多い不整脈とその管理

透析患者では、以下の理由で不整脈のリスクが高まります。
• 電解質(特にカリウム)変動
• 透析液組成
• 心筋リモデリング
• 交感神経の亢進・抑制

Shahら(2005)(※2)は、透析中のカリウム急変と心室性不整脈の関連を報告しています。不整脈リスクの高い患者では透析前カリウム値の確認や透析液濃度の調整が重要です。

●(1)不整脈リスク軽減のポイント

• 透析前の電解質値を把握
• 低カリウム透析液の使用可否の確認
• 運動中の動悸・胸部不快感の出現に注意
• 心疾患既往(心不全、虚血性心疾患)への配慮

特に、心疾患併存患者ではレジスタンス運動の負荷量を低く設定し、循環動態の変化を最小限に抑える必要があります。

■ 5.安全管理のための透析チームの役割

透析時に運動療法を安全に実施するためには、チームアプローチが重要です。

●(1)医師

• 主病態の評価
• 心疾患や電解質異常のリスク管理
• 運動可否の最終判断

●(2)看護師

• 透析中の血圧・症状モニタリング
• トラブル発生時の迅速な対応
• 患者教育の実施

●(3)理学療法士

• 運動プログラムの立案
• 強度調整
• 運動中のフィードバック

■ 6.透析時運動療法の中止基準

以下は運動を中止すべき代表的なサインです。
• 症状 … めまい、冷汗、胸痛、息切れの増悪
• 血圧 … 収縮期20mmHg以上の急激な下降、または90mmHg未満
• 不整脈 … 心拍数の急上昇、不整脈の新規出現
• 血液データ … 著しい電解質異常(特にK+)

中止基準を事前に明確にしておくことで、安全管理の精度が大幅に向上します。

■ 7.透析時運動療法の実践例

●有酸素運動
• エルゴメータ(最も推奨)
• 徒手による軽負荷運動
• ステップ運動(透析条件に応じて)

●レジスタンス運動
• セラバンド
• 自重トレーニング
• 併用で筋力維持効果の増大

透析中の心電図や血圧を連続モニタリングしながら、低強度から徐々に負荷を上げていく方法が安全で効果的です。

■ 8.まとめ

透析患者に対する運動療法は、安全に適切な管理下で実施すれば運動耐容能の改善、透析効率の向上、QOL改善に寄与します。
しかし、透析中は血圧変動や不整脈のリスクが高く、特に心疾患や電解質異常を持つ患者では注意が必要です。

医療従事者は、
• 適切なタイミングでの運動実施
• 個別化された強度設定
• 継続的な症状・血圧モニタリング
• チームアプローチによる安全確保
を徹底することで、より安全で効果的な透析時運動療法を提供できます。

■ 参考文献(最大3点・URL付)

(※1)Danielle L. Kirkman, et al. The effects of intradialytic exercise on hemodialysis adequacy: A systematic review. EXERCISE AND PHYSICAL ACTIVITY IN DIALYSIS PATIENTS. 2019.
https://doi.org/10.1111/sdi.12785

(※2)Shah A, et al. Arrhythmias in Patients on Maintenance Dialysis: A Cross-sectional Study. Am J Kidney Dis. 2020 Feb;75(2):214-224. 2019.
https://doi.org/10.1053/j.ajkd.2019.06.012

(※3)Heiwe S, et al. Exercise training for adults with chronic kidney disease. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Oct 5;2011(10):CD003236..
https://doi.org/10.1002/14651858.CD003236.pub2

掲載日:2026/2/17

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