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医療法人 川平内科

2026年5月取材

多職種連携で実現する透析運動療法― B-SESで守る筋力と生活機能

二十余年にわたる腎臓リハビリテーションが取り入れた運動療法

―B-SESを導入したきっかけ

 当院は、開業当初から東北大学のリハビリ分野の先生のご指導を受けながら、腎臓リハビリに取り組んできました。当時はまだ腎臓リハビリという考え方自体が新しいもので、リハビリテーションは、もともと脳血管疾患や心疾患を対象に行われてきましたが、腎臓病の分野では、その効果が必ずしも十分に分かっていませんでした。また、運動によって腎臓病が進行してしまうのではないか、あるいは悪影響があるのではないかといった意見もあり、当初はなかなか取り組みが進んでいませんでした。しかし、その後の臨床研究や基礎研究によって、腎臓病の患者さんも運動をすることで身体機能の維持につながるだけでなく、腎機能低下の進行を緩やかにするといったポジティブなデータも示されるようになりました。そうした知見を踏まえ、当院では開業以来20年以上にわたり、特に透析患者さんに対する運動療法を積極的に進めてきています。
 この運動療法によって、透析患者さんには身体的に非常に良い効果が現れています。例えば、血圧の改善や透析後の疲労感の軽減がみられ、その結果として睡眠薬や血圧の薬、便秘薬などを減らせた患者さんもいらっしゃいます。さらに、精神面にも良い影響がみられました。透析を続けなければならないことに対してネガティブな思いを抱えていた患者さんが、運動を通じて前向きになり、趣味や日常生活を楽しめるようになったケースもあります。そうした効果を実感したことから、当院では運動療法をさらに広げるため、院内に運動室を設置するとともに、透析室でもさ
まざまな器具を用いて筋力を鍛える運動に取り組んできました。
 透析患者さんは高齢の方が増えてきており、転倒や運動機能の低下による骨折といった問題も起こりやすくなっています。そのため、運動療法によって筋肉を発達させることで、そうした骨折を減らすことができることも分かってきており、それは各地の病院からも報告されています。ですから、基本的には、筋力を鍛え、心肺活動を高めるような運動は、患者さん全員にやっていただきたいと思っています。
 その一方で、高齢の透析患者さんは、全員が運動療法に取り組めているわけではありません。運動室に来て運動することが身体的に難しい方もおられますし、患者さんご本人に「そういうことはしたくない」というお気持ちがある場合もあります。そのため、実際にはすべての患者さんに運動療法を行うことはなかなか難しいのです。そこで、そうした患者さんにも何かできないかと考え、B-SESを導入しました。B-SESは、電気エネルギーによって筋肉を刺激できる治療法で、自ら行う運動療法とは異なる面もありますが、それでも筋肉を刺激することで筋力の維持につながる可能性があると思いました。実際に他施設でも活用されており、良い効果が得られているという話を聞いていたことから、当院でも採用しました。基本的には、皆さんに運動療法を行っていただきたいと考えていますが、運動療法の実施が難しい患者さんのうち、ご同意いただいた方には、B-SESでの電気刺激を用いた運動療法を開始しました。

―診療報酬の運用について

 当院での診療報酬の運用については、透析時運動指導等加算の算定をしている患者さんの場合、透析中の足踏み運動やゴムを使った筋力トレーニングなどに対して3か月間の算定を行っています。そのため、透析時運動指導等加算の算定期間が終了した患者さんについては、B-SESを利用している場合に限り「消炎鎮痛」として取り扱っています。

フレイルの予防・改善に役立つ運動療法

―B-SESに期待するフレイルの予防と改善

 現在、フレイルの予防と改善が大きな課題となっています。
 フレイルは、肉体的なフレイル、精神的なフレイル、社会的なフレイルといったさまざまな側面があり、サルコペニアのような筋肉の衰えだけを指すものではなく、精神的な落ち込みや社会との関わりが少なくなるといったものも含まれます。
 運動によって筋肉量を維持・向上させることができれば、サルコペニアの進行を遅らせることが期待できますし、転倒や骨折の予防にもつながります。また、運動に取り組むこと自体が患者さんの前向きな気持ちにつながるため、精神的なフレイルへの良い影響も期待できるのではないかと考えています。さらに、患者さんがゴルフや旅行、キャンプといったレジャーを楽しめるようになれば、生活の質の向上にもつながります。そうした形でフレイルの改善がみられることは、私たちにとっても非常に嬉しいことです。
 そうしたフレイルの予防・改善を支える手段として、B-SESには大きな期待を寄せています。

B-SES ― 運動療法が難しい患者さんへの新たな選択肢

―B-SESの適用と効果のある使用例

 当院では、これまで透析中に十分な運動療法を行うことが困難であった患者さんへの新たな選択肢として、B-SESを導入いたしました。現在は、クイックモード設定にて15分間の運用を行っています。
 B-SESを実際に実施してみると、患者さんからさまざまなお声が聞かれるようになりました。もともと透析中の下肢痙攣(足がつる症状)があった患者さんからは、「B-SESをした日は、足がつらなくなったよ」といった感想がありました。現在、継続して使用されている患者さんは5名ですが、そのうち下肢のつりがあった2名については、症状が改善したとの声をいただいています。また、外出時の歩行がしっかりしてきたと話される方もいらっしゃり、特に印象的だったのは、同じ送迎バスを利用されている患者さん同士のお話で、玄関先で転倒することが多かった患者さんが、「B-SESを始めてから最近転ばなくなったよね」と話されていたことがありました。確かに施行開始から3か月が経過した頃から転倒の報告を聞かなくなった患者さんがおられるので、そのあたりの効果はかなり大きいのではないかと思っています。

―B-SESの有用性

 私が感じる有用性は、自力で体を動かすことが難しい方や、思うように動けない方、あるいは体力に自信を失いつつある方に対して活用できる点にあります。透析前や透析中に運動したいという意欲があり、実際にサイクル運動のような有酸素運動を試してみたものの、思うように漕ぐことができずに諦めてしまう患者さんもいらっしゃいました。そのような方に対してB-SESを実施することは、透析中の運動方法として有効な選択肢になり得ると考えています。下肢の筋肉は全身の筋肉量の約6割を占めるといわれており、B-SESではその部位を中心に刺激できるのですごく有用性があると思います。実際に使用している患者さんが “変わってきた” という実感があります。
 機器をデモンストレーションでお借りしていた時に、私自身も3日連続で使用してみたのですが、筋疲労や軽い筋肉痛を感じました。患者さんにご紹介するためには、まずは自分自身で体験しておきたいという思いがあったのですが、この経験によって効果をより具体的にイメージできるようになり、「このような効果が期待できるため、ぜひ試してみてください」と、患者さんにアプローチしやすくなりました。

先生から見た、B-SESの実施に対するご感想・ご意見

―B-SESの有用性

 当院では、筋肉量を測定するためにInBody(体成分分析装置)を用いた評価を定期的に行っています。このインタビューの前に現在の状況を改めて確認してみたのですが、B-SESの導入前と導入後を比較すると、下肢の筋肉量が明らかに増加していることが分かりました。正直なところ、どの程度の変化が出ているのか半信半疑な部分もあったのですが、実際のデータにしっかりとその効果が現れていました。
 B-SES導入前から導入初期にかけては、対象患者さんの多くで下肢の筋肉量が低下傾向にありました。しかし、そこからB-SESを3か月以上継続したことで、約8ヶ月後の測定では筋肉量が「V字回復」するような変化を示しており、多い方では導入初期から+7.6%もの高い上昇率を記録しました。その良好な傾向は、継続実施されている5名全員に共通して見られました。
 一方で、導入して間もない患者さんでは、まだここまでの明確な効果は出ていません。しかし、3か月以上継続している患者さんにおいては、このように共通して良好な結果が得られています。先ほどお話しした、周囲から「転ばなくなったね」と言われていた患者さんについても、実際に数値として下肢筋肉量の増加が裏付けられており、改めて感覚だけでなくデータで客観的に評価することの重要性を強く感じています。

―「痒いところに手が届く」B-SESの魅力

 これまでの運動療法は、患者さんの意欲や身体機能、あるいは認知機能などといった、一定の条件、ハードルをクリアしなければ参加が難しい側面がありました。しかし、B-SESは、そうした理由で運動療法の恩恵を受けられなかった患者さんに対しても安全に、かつ高強度の運動負荷をしっかりとかけられるという点が大変魅力的に感じています。B-SESを実施することで、そのハードルのちょっと手前で諦めていた患者さんにも導入することができ、痒いところに手が届くといいますか、現場のニーズにしっかりと応えてくれる素晴らしい治療法だと率直に感じています。

看護師から見たB-SES

―看護師によるB-SESの運用

 リハビリテーションについては、主に高橋健康運動指導士が担当していますが、継続して患者さんを支援できるよう、高橋さんがお休みの際には私もサポートに入らせていただいています。患者さんの身体状況や病状については、看護師の立場から比較的情報収集がしやすいため、その情報を高橋さんと共有し、同じ認識のもとで継続的なリハビリテーションを提供できるよう努めています。B-SESの実施については、患者さんごとの設定を院内で共有しており、一人ひとりに合わせた使用モードや時間設定を定めています。

―患者さんとのコミュニケーションまでも高めてくれるB-SES

 私は看護師という立場上、どうしても患者さんを指導する側になることが多いのですが、B-SESを実施している時間は、患者さんと日常的な会話を交わせる貴重な機会にもなっています。そうした時間を通じて、以前より患者さんとのコミュニケーションが深まったように感じています。B-SESそのものの運動効果とは別の部分ではありますが、患者さんへの理解が深まり、それが日々の看護にも良い影響を与えていると感じています。

―高齢透析患者さんの通院継続を支える

 当院に透析に通われている患者さんは、80代から90代の方が増えてきています。患者さんにできるだけ長く外来通院を続けていただきたい、そして入院することなく透析治療を継続していただきたいという思いから、B-SESを実施しています。導入する以前は、転倒予防目的でのサイクル運動なども行っていましたが、サイクル運動を行うことが難しいほどの状態で何とか外来通院されている患者さんも少なくありません。そうした患者さんにも実施できる点で、B-SESは非常に有用であり、有効活用しています。また、医師からは、「透析は軽いランニングを続けているようなもので、とても疲れるものだ」と指導を受けたことがあります。そうしたこともあり、B-SESの活用が透析後の疲労感の軽減にもつながれば良いと思っています。

多職種が連携して支える運動療法

―当院での運動療法と、腎臓リハビリテーションが直面している課題

 腎臓リハビリテーションの観点から見ると、透析患者さんは運動不足に陥りやすい状況にあると言えます。患者さんの透析中の安静時間だけを単純計算しても、1年間でおよそ26日間に相当し、透析の前後の時間も含めると、その時間はより長くなり、長時間透析を受けている患者さんではさらに多くの安静時間を強いられることになります。
 今年3月には、『腎臓リハビリテーション診療ガイドライン』が改訂されましたが、当院ではそちらを参考にしながら運動療法を行っています。そのガイドラインを踏まえながら、当院としての運動療法の中止基準を設け、患者さんや職員が確認できるように提示しています。また、当院の運動室で透析を行う前の運動をされている患者さんもいらっしゃいまして、こちらで運動をされている患者さんには3か月ごとの身体機能評価を実施しています。握力や5メートル歩行テストなど、複数の評価項目を測定し、その結果を患者さんへフィードバックすることで運動療法への継続的な取り組みにつなげています。
 透析患者さんに対する運動療法の普及における課題として、人材不足が大きいと感じています。私が、日本腎臓リハビリテーション学会で発表した『宮城県内透析施設における運動療法の現状』では、専門職のスタッフが配置されていない施設が多く、特にクリニックではその傾向が顕著でした。この調査の中で運動療法を実施していない施設に対して、その理由を尋ねたアンケート調査を行ったところ、マンパワー不足を挙げる施設が多くありました。2022年に透析時運動指導等加算が新設された後に、日本腎臓リハビリテーション学会が全国で実施した調査においても、透析中の運動療法を実施できていない主な理由を人員不足と64%の透析施設が回答したと報告されています。こうしたことからも、運動療法の実施に必要な人材の確保は、地域に限らず全国的な課題になっていると考えています。
 こうした課題がある中でも、当院には健康運動指導士がおり、運動療法に取り組みやすい環境があると思っております。加えて、腎臓リハビリテーションの講習会を受講した医師1名、看護師が3名在籍しているほか、臨床工学技士、管理栄養士にも関わっていただきながら、多職種で連携して腎臓リハビリテーションに取り組んでいます。

高齢化時代の運動療法を支えるG-TES

―B-SES導入で運動療法参加率が上昇

 日本透析医学会統計調査によると、2022年に初めて前年に比較して透析患者数が減少してから年々患者数の減少が続いており、さらに高齢化も進んでいるような状況で、今後もその傾向はさらに強まっていくことが予測されます。その影響は、当院における運動療法の参加状況にも表れています。当院では、定期的に運動療法への患者さんの参加率を集計しているのですが、その推移を見ると2019年には午前の透析患者さんの約75%が何らかの運動療法に参加していたのですが、昨年10月の時点ではそれが46%まで低下していました。実際に透析室全体を見渡してみると、整形外科疾患を抱える患者さんや退院後で身体機能の低下が著しく、運動療法以前の問題ではないかと感じる患者さんが増えており、やはり高齢化の影響を強く感じています。
 そのような状況の中で、昨年10月にG-TESを購入し、B-SESを導入しました。すると、「ちょっとサイクルは漕げないけどB-SESならできる」と言われる患者さんが結構いらっしゃり、運動療法への参加者が徐々に増えていき、その結果、参加率は55%まで上がりました。こうした結果からも、これからさらに高齢化が進んでいくことを考えても、今後B-SESのニーズはますます高まっていくのではないかと思います。ただし、透析中にB-SESを実施するとなりますと、時間も限られていますし、ひとり1回の使用に20分程度かかるため、その日に何人対応できるかという課題もあります。そうしたことを考えると、将来的にはG-TES(機器)を複数台導入する必要が出てくる可能性もあるのではないかと感じていて、できれば、複数台で運用できるのが理想だと思います。
 実際に運用を担当している高橋からも話を聞いていますが、B-SESは患者さんからの反応も非常に良く、現場としても手応えを感じています。
 また、B-SESを行っている患者さんのInBodyのデータを含め、今後さらにデータを蓄積していくことで、B-SESの有用性や、どのような患者さんに適しているかをより明確に示し、今後もB-SESを活用していけたらと考えております。

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