2026年1月取材


●浪岡隆洋先生
私たちは、学生時代から脳卒中などによる後遺症を改善できるかということを考えてきました。従来のリハビリだけの治療では後遺症が残る患者さんがとても多いため、新しい治療法は何かというのをずっと模索してきました。その治療法が侵襲的なものでも対応できるように、脳神経外科に入局し手術治療も学びました。その過程で、札幌医科大学で再生医療の研究が行われているのを知り、こちらの大学院で神経再生医療を学びました。しかし、再生医療だけでは、後遺症の改善には不十分で、そこにはリハビリテーションも必要になります。私たちは脳神経外科と再生医療とリハビリテーションの専門医・認定医を取得しています。脳神経外科として脊髄損傷の全身管理を行いながら、積極的なリハビリテーションをしつつ、再生医療でさらに効果を高めることができるドクターは、日本全国で我々2人だけなので、当院では、とてもユニークな治療を行っています。
●浪岡隆洋先生
機能回復を図るためには、急性期病院で、リハビリテーションをしっかりと行わないと治療効果が上がらないのですが、急性期病院でのリハビリテーションの時間はとても短いので、リハビリの時間以外にどれだけ自主トレができるかというのが極めて重要です。私たちの受け持つ患者さんは、頸髄損傷や四肢麻痺の方が多く、患者さんご自身では自主トレができないので、G-TESを使用して筋収縮をかけるなど、治療効果を高めるためのトレーニングが継続できるように考えています。

●浪岡隆洋先生
機器を導入するのには、やはり費用がかかりますので、最初は運動量増加機器加算がとれる電気刺激装置を導入したのですが、使い勝手が悪く、そちらに比べてG-TESはベルト電極を巻くだけで、複数の筋肉を鍛えられるというメリットがあり、これは大変素晴らしいと思い導入しました。
●浪岡愛先生
私達が治験分担医師として札幌医科大学病院に勤務していたときに、リハビリテーション科でG-TESを使っていることを知りました。急性期病院ではリハビリの時間が非常に短く、算定可能な単位数も限られているため、病棟で看護師さんが簡便に扱えるG-TESはとても良いと思います。リハビリ以外の時間に病棟で、電極ベルトを巻いて電源をオンにするだけで体幹と足の筋力トレーニングができるのです。例えば、看護師さんが患者さんのおむつ交換の時に巻きますよね、それで、他の患者さんの所から戻ってきた頃には終わっていて電源が切れているのでベルトを外すだけで済みます。急性期病院で看護師さんがG-TESを自主トレの一環として使用できるのは、とてもありがたいですね。
●浪岡隆洋先生
私たちは、脊髄損傷の方の再生医療に、リハビリテーションとG-TESを使用した低周波を用いての治療を行っていますが、やはり、先ほども申し上げたように、この方法は、麻痺によってご自身で体を動かせない患者さんにはとても有効だと思います。G-TESを使用することは、脳卒中の片麻痺においてもトレーニングになります。
●浪岡愛先生
G-TESの電極ベルトの本来の使い方は、腰、膝上、足首に巻いて、体幹と足を鍛えるものになりますが、私たちは、それ以外にも腕にも使っています。電極ベルトの膝上がプラスで、足首と腰がマイナスになりますが、足首用のベルトを手首に巻いてマイナスに、上腕に膝上のものを少しきつめに巻いてプラスで行うと、上肢の筋力トレーニングとなるので、そうした形での使用もしています。
私たちが特に対象にしているのは、頸髄損傷の患者さんなのですが、頸髄損傷の方は自律神経障害を起こすため、手足を動かせないだけでなく血圧の調節もできません。患者さんを起こそうとすると、血圧が下がってしまい、お薬を使ってもあまり効果が出づらいのでリハビリができない状態です。患者さんを起こすために傾斜台を使って、少しずつ角度つけていくのですが、だいたい30度を超えて45度近くになると、血圧が下がってきて失神してしまいます。以前は、患者さんの上体を起こすために弾性ストッキングと腰ベルトでお腹を締めて腹圧を上げて行う方法をとっていました。一方、G-TESを患者さんのお腹に巻くと、ご自身の筋肉収縮を使って血圧が下がらずに傾斜台でのリハビリが進み、45度を超えられます。頸髄損傷の患者さんが上体を起こすのには45度の壁があるのですが、G-TESの使用ではそこを超えることができています。さすがに、それ以上の、60度以上となるとさらに工夫が必要ですが、頸髄損傷の患者さんへのG-TESの使用はとても重宝しています。
●浪岡隆洋先生
脊髄損傷のリハビリには、マンパワーが必要です。
●浪岡愛先生
四肢麻痺があり、ご自身では体を動かせない患者さんのリハビリには、まず十分なマンパワーが必要になります。しかし、急性期の現場では、リハビリを担当する療法士の人数が限られているのが現状です。どこの病院も、おそらく同じ状況だと思うのですが、他の患者さんを診ながら脊髄損傷の患者さんを担当するといったケースでも、ベッドから起こして車椅子に乗せるといった介助が必要になります。そういった場面では、やはりひとりでの対応は難しいのです。片麻痺の患者さんであれば、左右どちらか一方は動くので、起き上がる際にご本人の力を使ってもらいながら、療法士さん1人のサポートで移乗が可能ですが、脊髄損傷の四肢麻痺の方のリハビリでは、そうはいかず、2人以上のマンパワーが必要なのです。しかし、その負担の大きさに反して、脳卒中も脊髄損傷も同じ脳血管リハビリであるのに、脊髄損傷は脳卒中と異なり加算が取れない。そこが、現場としていちばんの課題だと感じています。
●浪岡隆洋先生
1991年に、脊髄損傷の予後を評価、予測する論文が発表されたのですが、それ以降、脊髄損傷は機能的に大きな回復が見込めない、というのが世界的なコンセンサスになっています。しかし、脊髄損傷は、転んだだけでも起こることがあるので、決して特別なものではなく誰にでも起こりうるものです。誰にでも起こりうるものなのに、これまで重症の脊髄損傷の患者さんは、良くならないからという理由で、十分なリハビリを受けることなく療養型の病院へ移され、回復が見込めないまま過ごされるという状況があり、それはあまりにも悲しいと感じています。だからこそ、少しでも治療効果を高めるために、何ができるかということを私たちは追求しています。具体的には、急性期の全身管理を行なうことで栄養状態を改善して筋肉がつきやすい状態にすること、リハビリによって筋肉を刺激して超回復を促すこと、そして再生医療によりこれらの治療効果をブーストさせてゆくといった取り組みをしています。

●浪岡愛先生
従来、脊髄損傷の場合、手術が終わるとそのままリハビリ病院へ移るという流れが一般的でした。ただ、そうした流れの中でも、受傷してから最初の3か月ほどは、リハビリを行うことである程度機能が伸びる時期でもあります。例えばどこかを損傷すると、その周囲が浮腫みますよね、脊髄損傷も同じで、死んでしまった細胞の周りに、傷ついてはいるものの生き残っている細胞が存在していて、受傷直後はその部分が浮腫んでいる状態なのです。この浮腫みが徐々に取れていくまでの期間が、だいたい3か月ほどで、この浮腫が引いてきている時期にリハビリを行うことで、アポトーシスを起こさずに細胞が生き残って、傷ついていながらも使えるようになり、動きを少しずつ再教育してゆくことができます。しかし、回復は次第に頭打ちになる為、患者さんはその状態で退院となります。自宅に戻ることができればいちばん良いのですが、多くの場合は療養型病院へ移られ、そのままの状態で経過をみてゆく、というのが従来の流れでした。
ステミラックの使用は、患者さんご自身の幹細胞を用いた治療です。骨髄の中には、有核細胞のおよそ1000個に1個の割合で幹細胞が存在しています。その幹細胞を採取し、ご本人の血液を使った培地で培養・増殖させ、約100万倍に増やした後、点滴で体内に戻すという治療法です。ただし、この培養期間には個人差があり、若い方であれば1か月くらい、高齢の方では2か月ほどかかります。そのため、その間は急性期で効果的なリハビリを行うことが重要です。投与後は肝機能などを採血でチェックした後、問題がなければリハビリ病院へ移り、さらにリハビリを継続していきます。ポイントになるのは、回復が頭打ちになる、プラトーに達したタイミングで点滴をすることで、通常であれば、そのまま療養型に移るところを、このタイミングでステミラックを用いた療法を行うことで、回復のブースト効果を飛躍的に高められます。ここで回復を1段階でも2段階でも上げられることが、患者さんの予後に大きな違いをもたらします。
●浪岡愛先生
ステミラックを用いた療法は、特に10代から20代の若い世代に向いています。骨髄は年齢を重ねると徐々に脂肪に置き換わってゆき、75歳を超える頃には幹細胞そのものが採れなくなってしまいます。ただし、これには例外もあり、当院でも70代後半の方に実施した例がありました。これまでずっと体を動かしてきた方、例えば、スポーツが得意で若い頃からずっと体を動かしてきたような活動的な方であれば、70歳から80歳くらいでも脂肪髄化が遅れて幹細胞が採取できることがあります。ADLが高く維持された、身の回りのことをご自身でこなせるような方であれば、治療の対象になり得ます。一方で、ADLが低下し体力が落ちてしまっている方は、骨髄中の幹細胞が残っていない場合があります。ステミラックを用いた治療は若い方が中心で、高齢の方でも適応の上限は、当院では80歳までと考えています。その点、G-TESは年齢を問わず使用できるのが大きな強みで、こうした患者さんにも使えるという意味で、リハビリにおいて非常に有用だと思います。
●浪岡隆洋先生
ステミラックを用いた治療法は、患者さんご自身の幹細胞をご本人の血液を用いた培地で培養する治療法なので、拒絶反応がなく、免疫抑制剤も全く必要ありませんし、採血、骨髄採取、投与のいずれも、針を刺す程度の侵襲で済み、大きな手術を必要としない点は、大きなメリットです。ただし、この治療には、培養のために血液を1リットル近く必要とするため、貧血が進行する可能性がありますし、感染症や癌などがある場合には、そもそも培養自体ができないといったデメリットもあり、また、培養期間には少なくとも1か月半ほどかかるため、その間は急性期病院に入院し続ける必要があります。人間は通常、1日の中で8時間ほど起きて身体活動を行っていますが、入院中の脊髄損傷の患者さんの場合、体を動かせるのはリハビリの時間だけです。長くても1時間程度で、それ以外の時間はほとんど寝ているだけなので、圧倒的にトレーニング量が足りません。
そこにG-TESを用いることで、リハビリ時間以外にも筋肉をできるだけ動かす時間を確保することができますので、G-TESの使用は、脊髄損傷の患者さんにとても適していると思います。
※本記事で言及している「ステミラック注」は、ニプロ株式会社の取扱製品となります。

