ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)は、すでに日本において極めて重要な公衆衛生課題となっています。臨床の現場でも、「歩行が不安定になってから介入する」ケースが多い一方で、それでは回復に限界があることを実感されている方も多いのではないでしょうか。
結論から言えば、ロコモ予防における最も重要な介入は「早期からの運動療法」です。運動器の機能低下は徐々に進行するため、症状出現前からの介入が不可欠です。本コラムでは、ロコモの本質を再整理し、運動療法の役割と実践的戦略について、エビデンスを踏まえながら紹介します。
ロコモは、骨・関節・筋肉・神経といった運動器の機能低下により、移動能力が低下した状態を指します。その本質は単純な筋力低下ではなく、「移動機能の複合的な障害」です。
重要なのは、ロコモが進行すると転倒リスクの増加、活動量低下、さらには要介護状態へとつながる「ロコモティブスパイラル」に陥る点です。実際、ロコモは身体機能や生活の質の低下と関連し、介護リスクの主要因の一つとされています(※1)。
したがって、ロコモ対策は単なる機能改善ではなく、「生活機能を維持する包括的介入」として位置づける必要があります。
ロコモ予防において、運動療法は中核的役割を担います。結論として、筋力・バランス・持久力を包括的に改善する運動療法が有効です。
具体的には、以下の3要素が重要です。
加齢に伴う筋力低下は、歩行能力低下の主要因です。スクワットや立ち上がり動作訓練は、日常生活に直結する機能改善につながります。
片脚立位などのトレーニングは、転倒予防に直結します。バランス能力は比較的短期間で改善する一方、継続しなければ維持できない特性があります。
ウォーキングなどの有酸素運動は、持久力や心肺機能に加え、全身的な活動量の維持に寄与します。
これらを組み合わせた運動療法は、ロコモの進行抑制だけでなく、既存機能の改善にも寄与します。
近年の研究では、ロコモに対する運動療法の有効性が徐々に明らかになっています。
例えば、ロコモ患者に対して locomotor training と有酸素運動を組み合わせた介入では、筋力(握力)や身体機能の有意な改善が認められています(※2)。また、バランスや歩行能力においても、多面的な運動介入が単独介入より優れていることが示されています(※3)。
さらに、ロコモに対する理学療法全般についても、運動・バランス訓練・神経筋刺激などを組み合わせた介入が、機能改善や生活の質向上に寄与する可能性が指摘されています(※4)。
こうした知見から、ロコモ対策においては「単一要素ではなく多面的な運動療法」が重要であると考えられます。
ロコモ対策において、近年注目されているのがEMS(電気刺激療法)の活用です。
EMSは、随意運動が困難な患者でも筋収縮を誘発できる点が特徴です。特に以下のようなケースで有用と考えられます。
• 運動習慣が乏しい高齢者
• 筋出力が低下しているロコモ初期〜中等度の患者
• 運動療法の導入期
運動療法単独では負荷設定が難しいケースでも、EMSを併用することで「筋収縮量の底上げ」が可能となります。また、継続性の観点からも、自宅で実施可能な補助的手段として期待されます。
ただし、EMS単独での効果は限定的であり、あくまで運動療法の補完として位置付けることが重要です。
実際の臨床では、「シンプルで継続可能なプログラム設計」が鍵になります。
例えば、以下のような構成が現実的です。
• 片脚立ち(1日1分×数回)
• スクワット(10回×2〜3セット)
• 歩行(20〜30分程度)
これらは日本整形外科学会が提唱するロコトレとも一致し、筋力・バランス・持久力の三要素をカバーします。
重要なのは、「完璧なプログラム」よりも「継続できるプログラム」です。ロコモは慢性進行性であるため、短期間の介入では十分な効果は得られません。少なくとも数か月以上の継続が必要とされています。
ロコモティブシンドロームは、単なる加齢変化ではなく、適切な介入により予防・改善可能な状態です。その中心にあるのが運動療法です。
筋力、バランス、持久力を包括的に高める運動療法を基盤とし、必要に応じてEMSなどの補助的手段を組み合わせることで、より実効性の高い介入が可能になります。
医療従事者に求められるのは、「悪くなってから治す」のではなく、「悪くなる前に支える」視点です。ロコモ対策としてのリハビリは、まさにその実践であり、今後ますます重要性が高まる領域といえるでしょう。
※1)Locomotive syndrome: Definition and Management, Kozo Nakamura, Toru Ogata
Clinical Reviews in Bone and Mineral Metabolism. 2016;14(2):56–67
https://doi.org/10.1007/s12018-016-9208-2
※2)Effect of combined locomotor training and aerobic exercise on increasing handgrip strength in elderly with locomotive syndrome: A randomised controlled trial, Ajeng Hayu Nayasista, et al.
Annals of Medicine & Surgery. 2022;78:103800
https://doi.org/10.1016/j.amsu.2022.103800
※3)Exercise improving balance function in the older adult with locomotive syndrome stage 1: a randomized clinical trial, Ajeng Hayu Nayasista, et al.
Bali Medicine Journal. 2023;12(1)
https://doi.org/10.15562/bmj.v12i1.4025
掲載日:2026/7/24

