現代のライフスタイルの変化に伴い、運動不足や食生活の乱れが原因となる健康問題が増加しています。その中でも特に注目されているのが「ロコモティブシンドローム」と「メタボリックシンドローム」です。これらの症候群は、健康寿命を縮める要因となるだけでなく、生活の質(QOL)を大きく低下させる可能性があります。
本記事では、ロコモティブシンドロームとメタボリックシンドロームの特徴や関係性について、エビデンスに基づいた知見をもとに解説します。
ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome、略称:ロコモ)は、加齢や運動不足により運動器の機能が低下し、移動能力が衰える状態を指します。日本整形外科学会が提唱した概念であり、放置すると要介護状態へと進行するリスクが高まります。
主な原因
・サルコペニア(加齢による筋肉量の減少)
・骨粗鬆症(骨密度の低下による骨折リスクの増加)
・変形性関節症(関節の摩耗による運動障害)
診断と評価
ロコモ度テストが用いられ、以下の3つの指標が評価されます。
1. 立ち上がりテスト(40cm、30cm、20cmの椅子から片足または両足で立ち上がる能力)
2. 2ステップテスト(歩幅を測定し移動能力を評価)
3. ロコモ25(25項目の質問票による自己評価)
メタボリックシンドローム(metabolic syndrome、略称:メタボ)は、内臓脂肪の蓄積により、糖代謝異常、高血圧、脂質異常症が組み合わさった状態を指します。心血管疾患や糖尿病の発症リスクを大幅に高めることが知られています。
診断基準(日本動脈硬化学会)
・腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上(内臓脂肪型肥満の指標)
・血圧:130/85mmHg以上
・空腹時血糖値:110mg/dL以上
・脂質異常:HDLコレステロール40mg/dL未満、またはトリグリセリド150mg/dL以上
これらのうち、腹囲の基準を満たし、さらに2つ以上の異常が認められた場合にメタボリックシンドロームと診断されます。
ロコモティブシンドロームとメタボリックシンドロームは一見無関係のように思えますが、実は深い関連があります。
1. 運動不足が共通のリスク要因
・メタボリックシンドロームの原因である肥満は、運動不足によって悪化します。
・運動不足は筋肉量の減少を招き、ロコモティブシンドロームを引き起こします。
2. 相互作用による健康リスクの増加
・メタボが進行すると体重増加による関節負担が増し、ロコモ発症リスクが高まります。
・ロコモによって運動が制限されると、エネルギー消費が低下し、メタボを悪化させる可能性があります。
ロコモとメタボを同時に予防するためには、有酸素運動と筋力トレーニングの併用が有効です。
・ウォーキングやジョギング(心肺機能向上と脂肪燃焼)
・スクワットやレジスタンストレーニング(下肢筋力の維持)
・バランス運動(転倒予防)
・タンパク質の摂取(筋肉維持のため、体重1kgあたり1.0〜1.2gのタンパク質摂取が推奨)
・糖質・脂質のバランス調整(低GI食品の選択、オメガ3脂肪酸の摂取)
・塩分管理(高血圧予防)
・メタボリックシンドロームのスクリーニング(年1回の健康診断)
・ロコモの早期発見(ロコモ度テストの実施)
ロコモティブシンドロームとメタボリックシンドロームは、それぞれ異なる健康問題ですが、共通のリスク因子を持ち、相互に影響を及ぼします。
これらの症候群を予防するためには、運動習慣の確立、バランスの取れた食生活、定期的な健康チェックが重要です。
医療従事者としては、患者への啓発と適切な指導を行い、健康寿命の延伸に貢献することが求められます。
・Japanese Orthopaedic Association. “Locomotive syndrome: definition and management.” 2007.
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・Sherrington C, et al. “Exercise for preventing falls in older people living in the community.” Cochrane Database of Systematic Reviews, 2017.
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