毎年5月17日は「世界高血圧デー(World Hypertension Day)」として、世界的に高血圧の予防・管理の重要性を啓発する日とされています。この日は、国際高血圧学会(International Society of Hypertension: ISH)や世界高血圧リーグ(World Hypertension League: WHL)によって提唱され、高血圧のリスク認識を高めることを目的としています。
高血圧は、心血管疾患の主要な危険因子の一つであり、脳卒中や心筋梗塞のリスクを大幅に高めることが知られています。世界保健機関(WHO)によると、世界の成人の約30~40%が高血圧を有しており、その管理が不十分なことが健康被害の一因となっています。
特に高齢者においては、加齢に伴う血管の硬化や生活習慣の変化により高血圧のリスクが高まります。また、運動機能低下により身体活動量が減少すると、血圧コントロールが困難になり、合併症のリスクも高まります。
高齢者の高血圧には、以下のような特徴があります。
1.収縮期血圧の上昇:動脈の硬化により、収縮期血圧が上昇しやすくなります。
2.夜間血圧の異常:夜間高血圧や早朝高血圧が見られ、心血管イベントのリスクが増加します。
3.起立性低血圧の併発:加齢や降圧薬の影響で、座位・立位での血圧低下が生じることがあります。
4.生活習慣の影響:運動不足や塩分摂取過多が血圧上昇の要因となります。
高齢者の高血圧管理には、生活習慣の改善が不可欠です。以下の対策が推奨されています。
・減塩:1日6g未満を目標に塩分摂取を制限する。
・カリウム摂取:野菜や果物を積極的に摂取し、血圧を下げる効果を期待する。
・適切な脂質摂取:飽和脂肪酸の摂取を抑え、不飽和脂肪酸を多く含む食品(魚、ナッツ類)を取り入れる。
・有酸素運動:ウォーキングや軽いジョギングを週150分程度行う。
・筋力トレーニング:軽度のレジスタンス運動を併用し、運動機能低下を防ぐ。
・適正体重の維持:BMI 25未満を目標に、食事と運動を組み合わせて体重をコントロールする。
・リラクゼーション:瞑想や深呼吸を取り入れ、交感神経の過剰な興奮を抑える。
・睡眠の質向上:睡眠時間の確保と良質な睡眠環境を整える。
高齢者では、運動機能の低下が高血圧の悪化要因となることが報告されています。身体活動量の減少は血流調節機能の低下を招き、末梢血管抵抗が増大することで血圧が上昇しやすくなります。また、運動不足はインスリン抵抗性を引き起こし、代謝異常を介して高血圧を悪化させる可能性があります。
そのため、高齢者の高血圧管理では、生活習慣の改善とともに、定期的な運動習慣の確立が重要です。
世界高血圧デーを機に、高血圧の予防と管理の重要性について改めて考えることが求められます。特に高齢者では、運動機能低下や生活習慣の影響を考慮した包括的なアプローチが必要です。医療従事者は、患者の生活習慣に寄り添った指導を行い、適切な血圧管理を支援することが求められます。
1. World Health Organization. “Hypertension.” Available at: https://www.who.int/
2. International Society of Hypertension. “Guidelines for Hypertension Management.” Available at: https://www.ish-world.com/
3. 日本高血圧学会. 「高血圧治療ガイドライン2023」