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透析患者における心血管イベント予防と運動の関連とは?

はじめに

透析患者にとって、心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心不全など)は主要な死亡原因のひとつです。透析治療は生命維持に不可欠ですが、腎機能の低下により動脈硬化や心血管系への負担が増大し、心血管リスクが高まることが知られています。そのため、透析患者における心血管イベント予防は、臨床において極めて重要な課題です。近年、運動療法が透析患者の心血管系に有益な効果をもたらすことが多くの研究で示されており、注目を集めています。

本コラムでは、透析患者における心血管イベントのリスク要因と運動の役割について、エビデンスをもとに解説し、医療従事者が臨床で活用できる知識を整理します。

透析患者と心血管リスクの関係

透析患者の死亡原因の約40~50%は心血管疾患に関連しています(USRDS Annual Data Report, 2021)。腎不全そのものが動脈硬化を促進するだけでなく、以下の要因が複雑に関与し、リスクを高めます。

・高血圧:透析中の体液変動により血圧が不安定になりやすい

・糖代謝異常:糖尿病性腎症を背景に持つ患者が多い

・脂質異常症:LDLコレステロール増加、HDL低下

・慢性炎症:尿毒症物質や酸化ストレスによる血管内皮障害

・二次性副甲状腺機能亢進症:血管石灰化の進行

これらの要素は透析患者に特有であり、一般的な動脈硬化リスクに加えて、心血管合併症の発症リスクをさらに高めています。

運動が心血管イベント予防に果たす役割

透析患者における運動の効果は、単に体力維持にとどまらず、心血管系への保護作用があることが明らかになっています。主な効果を以下に示します。

1. 血圧コントロールの改善

有酸素運動は交感神経活動を抑制し、透析中・透析間の血圧変動を安定させます。

・Kouidiらの研究(2004)では、透析患者に運動プログラムを導入したところ収縮期血圧が有意に低下しました。

2. 血管内皮機能の改善

運動は一酸化窒素(NO)の産生を増加させ、血管拡張作用を高めます。これにより、動脈硬化の進行を抑制し、心血管イベントのリスク低減につながります。

3. 脂質代謝・糖代謝の改善

運動はインスリン抵抗性を改善し、脂質異常を是正する効果があります。特に糖尿病性腎症患者においては、血糖コントロールと心血管リスク低減の両面で意義があります。

4. 炎症・酸化ストレスの軽減

運動習慣は慢性炎症マーカー(CRPなど)の低下と関連しており、心血管イベント抑制効果が期待されます。

エビデンスに基づく透析患者への運動介入

透析患者への運動介入は国内外で研究が進められており、その効果が報告されています。

・Mohseniら(2013)は、透析中に実施する自転車エルゴメータ運動が、心血管リスク因子(血圧、血糖、脂質プロファイル)の改善につながると報告しました。

・Smart & Steele(2011)のシステマティックレビューでは、有酸素運動・筋力トレーニングを組み合わせた介入が、心血管系パラメータとQOLに有意な改善を示したと結論づけています。

・Heiwe & Jacobson(2014)のCochraneレビューでは、透析患者における運動療法は心肺機能や筋力の改善に加え、死亡リスクの低減にもつながる可能性があるとまとめられています。

臨床での実践方法

透析患者に運動を導入する際には、安全性と持続可能性を考慮することが重要です。

1. 運動のタイミング

・透析中のベッドサイドでのエルゴメータ運動が推奨されています。

・透析外でのウォーキングやレジスタンストレーニングも有効です。

2. 運動強度

・Borgスケール11〜13程度(やや楽~ややきつい)を目安に設定します。

・心疾患の既往がある場合は心拍数・血圧をモニタリングしながら行うことが必要です。

3. 運動頻度と時間

・週3回、1回20〜40分程度を目安に行うことが推奨されています。

4. 安全管理

・低血圧や不整脈などのイベントに備え、医療従事者によるモニタリング体制が必要です。

・シャント肢への過負荷を避ける工夫が求められます。

まとめ

透析患者における心血管イベント予防は、生命予後と生活の質を大きく左右する課題です。運動は血圧コントロールや血管内皮機能の改善、炎症抑制などを通じて、心血管リスク低減に寄与することが示されています。

臨床現場では、患者ごとのリスク評価を行いながら、透析中や透析外での運動プログラムを柔軟に取り入れることが重要です。今後もさらなるエビデンスの蓄積が期待されますが、すでに得られている研究成果からも、運動が透析患者の心血管イベント予防において重要な位置を占めることは明らかです。

参考文献

1. Kouidi, E., Grekas, D., Deligiannis, A., & Tourkantonis, A. (2004). Outcomes of long-term exercise training in dialysis patients: Comparison of two training programs. Clinical Nephrology, 2004 May:61 Suppl 1:S31-8.
2. Raheleh Mohseni, A., et al. (2013). The effect of intradialytic aerobic exercise on dialysis efficacy in hemodialysis patients. Oman Med J. 2013 Sep;28(5):345-9.. https://doi.org/10.5001/omj.2013.99.
3. Smart, N. A., & Steele, M. (2011). Exercise training in haemodialysis patients: A systematic review and meta-analysis. Nephrology 2011 Sep;16(7):626-32. https://doi.org/10.1111/j.1440-1797.2011.01471.x
4. Heiwe, S., & Jacobson, S. H. (2014). Exercise training for adults with chronic kidney disease. Cochrane Database of Systematic Reviews, (10), CD003236. https://doi.org/10.1002/14651858.CD003236.pub2

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