慢性腎臓病、特に透析を受けている患者では、「フレイル(脆弱性)」の発症率が高く、身体機能低下や転倒、入院・死亡リスク上昇につながることが多く報告されています。本稿では、透析室における「運動」介入を中心に、フレイル患者に対して医療従事者が実践可能なアプローチを、最新のエビデンスをふまえて整理します。患者のQOL向上・機能維持・予後改善を念頭に、保存的・継続的な運動プログラムの設計を考えていきましょう。
まず「フレイル(frailty)」とは、加齢や慢性疾患により生理的予備能が低下し、ストレスに対して脆弱となった状態を指します。典型的な構成要素として、「体重減少」「疲労感」「筋力低下」「歩行速度低下」「活動量低下」が挙げられ、これらを複数満たすとフレイルと診断されます。
透析患者では、腎機能低下に伴う筋萎縮・栄養障害・炎症・運動不活性・合併症負荷などにより、一般高齢者よりもフレイルの発症率が明らかに高いとされています。たとえば、透析患者では、非透析高齢者の数倍の頻度でフレイルが認められるという報告があります(※1)。
このような背景から、透析医療現場ではフレイルの早期発見と適切な介入、特に「運動」を中心としたリハビリテーション的アプローチが急務とされています。
フレイルにおける運動介入、特に多成分(マルチコンポーネント)運動プログラムは、高齢者一般のみならず、慢性腎臓病・透析患者においても効果を示しています。たとえば、透析患者・腎不全患者を対象とした研究では、4週間の監督付き運動プログラム実施により、フレイル指標が改善したという報告があります(※2)。
また、長期の透析患者において、透析中運動(intradialytic exercise)を実施したところ、筋力・持久力・歩行能力・起立座位テストなどで有意な改善がみられたという報告もあります(※3)。
さらに、総合レビューでは「運動療法はフレイル状態・身体機能・認知機能・炎症マーカーに対して有益である」とされ、運動がフレイルの核心にある身体的低下に働きかけうる手段であることが支持されています(※4)。
透析治療中という「固定された時間・場所」を活かして運動介入を行う「透析中運動(intradialytic exercise)」は、患者・スタッフ双方にとって実践しやすい環境を提供します。座位・ベッド横・運動機器なしでも可能なエクササイズを組み込めるため、運動習慣が乏しい透析患者にも挑戦しやすいという利点があります。
また、運動実施中という定期的な機会ゆえに、継続性・モニタリング・安全管理が比較的確保しやすいという実務的メリットもあります。加えて、運動による筋力・血流改善・代謝改善などが、フレイル悪化の鍵因子にアプローチするという視点からも有効性が期待されます。
運動介入を行う前に、以下のような評価を実施します。
・フレイルの有無・重症度(例:握力・歩行速度・疲労感・活動量低下)
・基礎疾患・合併症・透析歴・栄養状態・筋肉量の状況
・運動耐容性・日常活動レベル・転倒歴・生活背景
これにより、「運動をどの程度・どの形式で実施可能か」「個別にどこを強化すべきか」が明らかになります。特に透析患者では、筋萎縮・貧血・心血管負荷・体液変動などが運動実施上の留意点となるため、医師・理学療法士・看護師など多職種での連携評価が望まれます。
フレイル改善を狙った透析室での運動プログラムでは、以下のような成分が基本となります。
・筋力トレーニング(レジスタンス運動):座位・ベッド横でのバンド運動、下肢/体幹の筋活性化
・有酸素運動:透析中にできるペダル運動やフットサイクル、座位ウォーキングなど
・姿勢・バランス・歩行練習:動作起立・階段昇降・荷重/非荷重変化の練習
・柔軟性・可動域運動:下肢・体幹・肩関節など、拘縮予防・スムーズな姿勢保持に向けた運動
これらを組み合わせて、週2〜3回、透析治療時間内または治療前後に15〜30分程度から開始し、患者の体力・フレイル重症度に応じて段階的に負荷を上げていきます。エビデンスとしても、多成分運動プログラムがフレイル改善に有効とされています(※4)。
・患者の体調(透析直前・中・直後)や血圧・体液量・心機能を確認したうえで、運動を開始する
・運動中・運動後の症状(めまい・気分不良・筋肉痛・関節痛)をモニタリングし、安全性を確保する
・運動時のモチベーション維持・継続支援を考える(短時間・段階的・達成感ある構成)
・運動習慣化につなげるため、透析外でも行える「自主運動プログラム」を併設する
・栄養状態・タンパク質摂取・睡眠・活動量など運動以外のフレイル関連因子にも配慮する(多職種連携)
シナリオ:70歳代、透析歴3年、歩行速度0.8 m/s、握力低下、転倒歴1回
・握力測定、歩行速度測定(4m歩行)、疲労感アンケート、活動量記録
・栄養状態・摂取量・日常動作状況を理学療法士と栄養師で共有
・5分:ベッド横ストレッチ(下肢・体幹)
・10分:レジスタンスバンド運動(下肢伸展・膝屈曲・体幹安定)+シート起立10回×2セット
・5分:ペダル式フットサイクル座位(負荷軽め)
・歩行速度・握力・疲労スコアの変化を確認
・患者の感想・継続意欲・運動習慣の有無を確認し、内容を改変
・散歩10分/日、簡易筋トレ(椅子を用いた立ち座り10回×1)を推奨
・フレイルスコア再測定、転倒・入院歴確認、QOLアンケート実施
このように、透析室という定期的・限られた時間を活用しながら、運動を定着させるプログラムが実践可能です。実際、透析患者における運動介入では、「継続可能性」と「安全性」が鍵であり、段階的・日常寄りの設計が推奨されます(※3)。
透析患者においてフレイルは入院・転倒・死亡・低QOLと関連しており、これを軽減することは重大な臨床課題です。レビュー論文では、「フレイル改善を目的とした運動介入は、透析患者の身体機能・活動量を改善し、フレイル進行を抑える可能性がある」と指摘されています(※1)。
また、透析中運動を継続したコホートでは、運動群の方が入院期間が短かったという報告もあります(※3)。
したがって、医療従事者は透析患者の「運動習慣化」を促す構造を整え、定期的な評価・介入・フォローアップを通じてフレイルの予防・改善に寄与することが期待されます。
透析室での運動導入には以下のような課題があります。
・運動実施時間の確保(透析中の時間・スタッフ対応)
・患者のモチベーション低下・運動嫌悪感・体調変動
・安全管理(血圧変動・体液変化・疲労・心血管イベント)
・継続性の確保(離脱率・頻度低下)
これらの課題に対して、次のような対策が有効です。
・運動を「透析中の習慣」として定着させ、スタッフが簡易導入できるプロトコルを設計
・患者教育を通じて「運動がフレイル改善・転倒予防・QOL向上につながる」ことを理解してもらう
・短時間・低負荷から開始し、成功体験を早期に得られるよう設計
・運動ログ・フィードバック・仲間・スタッフによる支援体制を整える
・定期的な機能評価とフィードバックを実施し、進捗を可視化してモチベーションを維持
透析患者におけるフレイルは、生活の質・活動量・健康予後に深刻な影響を及ぼします。医療従事者として、透析室という場を活用し、「運動」介入を保存的・継続的に設計・実践することは非常に有意義です。筋力トレーニング・有酸素運動・バランス・柔軟性を含んだマルチコンポーネントな運動プログラムを、患者評価を基に個別化し、安全に運用することが鍵です。そして、患者が短期間で“できる感”を得られ、継続できる仕組みを整えることで、フレイルの進行抑制・機能改善・QOL向上が期待できます。
※1 Nitta K, Hanafusa N, Kawaguchi Y et al. Physical function management for elderly dialysis patients: prevention and improvement of frailty and disability. Renal Replacement Therapy.2023.
https://doi.org/10.1186/s41100-023-00459-2
※2 Anding Rost K. Exercise during Hemodialysis in Patients with Kidney Failure. NEJM Evidence. 2023.
https://doi.org/10.1056/EVIDoa2300057
※3 Radley A. Can exercise improve outcomes for frail haemodialysis patients? Clin Kidney J. 2024.
https://doi.org/10.1093/ckj/sfae138
※4 Prommaban A. The Effect of Exercise Program Interventions on Frailty in Older Adults: A Systematic Review. J Clin Med. 2024;13(21):6570.
https://doi.org/10.3390/jcm13216570

