慢性透析患者において、サルコペニア(筋肉量や筋力の低下と身体機能低下)は非常に高頻度でみられ、QOL(生活の質)の低下、転倒リスクの増加、さらには予後悪化に直結する重大な問題です。近年、「透析(血液透析)治療」と併せて運動療法(特に透析中運動やレジスタンス運動)を導入することで、筋力維持や機能改善が得られるというエビデンスが積み重なってきています。
本コラムでは、透析患者におけるサルコペニア予防の重要性と、運動療法の果たす役割、安全性、実践のポイント、さらには臨床導入にあたっての課題と展望について、最新の研究をもとに解説します。
透析患者、とりわけ血液透析を受けている患者では、慢性的な筋肉量の減少と筋力低下が非常に一般的です。サルコペニアを抱える透析患者では、以下のようなリスクが増大します:
• 筋力低下により日常生活動作(立ち上がり、歩行など)が困難になる
• 転倒や骨折の危険性が高まる
• 疲労感や倦怠感が強く、QOL が低下する
• サルコペニアは長期予後(入院率、死亡率)と関連する可能性がある
こうした背景から、サルコペニア予防は透析医療の重要な課題です。
透析患者がサルコペニアを発症しやすいメカニズムとしては、以下が挙げられます:
1. たんぱく質・エネルギー不足(PEW)
透析に伴う栄養損失、食事制限、貧食などが筋タンパク合成を妨げる。
2. 慢性炎症
透析治療自体や尿毒素の蓄積、サイトカインの上昇などにより炎症が慢性的に持続し、筋分解を促進する。
3. 代謝性アシドーシス
血中の酸性度が高い状態が筋タンパク合成を抑制し、分解を促す。
4. ホルモン異常
インスリン抵抗性、成長因子、性ホルモンの変化などが筋肉維持を妨げる。
5. 活動制限・運動不足
透析による疲労感、時間拘束、身体的不安定性が運動機会を減少させる。
これら複合要因がサルコペニア進行を加速させるため、従来の栄養療法だけでなく、運動療法を含めた包括的アプローチが求められます。
近年の臨床研究では、透析中および透析間を含む運動療法が筋力および機能維持・改善に有効であることが報告されています。
血液透析患者に対する 透析中レジスタンス運動(抵抗運動) を評価した無作為化試験では、12週間の介入後に大腿筋力が有意に改善した報告があります(※2)。具体的には、脚の筋力が平均で約12 kg向上し、安全性も確認されました。これは、透析中でも筋力トレーニングが十分に効果を発揮しうることを示す強力なエビデンスです。
単独のレジスタンス運動に加えて、有酸素運動を含む 複合運動プログラム(透析中に自転車エルゴメーター+レジスタンス)を24週間継続した研究では、spKt/V の改善に加えて血圧改善、6分歩行距離(6MWD)の延長など身体機能の全体的な改善が観察されました(※3)。これにより、筋力や持久力の両面から身体機能を底上げできる可能性が示されています。
運動介入によって筋力や機能が改善されると、日常生活での活動が増加し、自主的な身体運動を継続する動機づけにもなります。このような循環が、サルコペニア予防とQOL維持につながると考えられています。
臨床で透析患者に運動療法を取り入れる際には、安全性と効果を両立させるために以下の要点を重視する必要があります。
まずは対象患者を適切に評価することが重要です。
• 筋量・筋力評価:生体インピーダンス分析(BIA)や筋力測定(握力、大腿筋力など)
• 身体機能測定:6MWD、立ち上がり時間、日常生活動作(ADL)スケール
• リスク評価:心血管疾患、骨関節疾患、貧血状態、透析治療の安定性
• 栄養状態評価:アルブミン、総たんぱく、BMI、PEW指標など
これらをもとに、個別化された運動プログラムと目標を設定します。
運動療法の設計には次のようなポイントがあります。
• 頻度と継続性:週2~3回、12週間以上を目安に。大腿筋力改善の研究では12週介入が有効と報告されています(※2)。
• 内容:
o 透析中:レジスタンスバンド、脚の筋力訓練、自転車エルゴメーター
o 透析外:自主トレーニング、有酸素運動(ウォーキング等)
• 強度:中等度(主観的運動強度スケール BORG などを用いて調整)
• 進行:ウォームアップ → レジスタンス → クールダウンという流れで段階的に負荷を増加
サルコペニア対策目的の運動療法でも、安全管理が最優先です。
1. 定期モニタリング:血圧、心拍数、透析シャント、疲労感などを運動前・中・後で確認。
2. アクセス部の配慮:シャント部への圧迫を避ける配置や体位管理。
3. 中止基準の設定:めまい、過度の疲労、筋痛、バイタル異常(血圧変動など)が現れた場合に即中止。
4. 多職種連携:医師・看護師・理学療法士が定期的に情報を共有し、安全・継続可能な運動環境を維持。
長期的なサルコペニア予防には、運動を継続する仕組みが不可欠です。
• 教育と目標設定:患者に対して、運動の目的(筋力維持、転倒予防、QOL向上)を明確に説明し、達成可能な短期・中期目標を設定。
• 記録とフィードバック:トレーニング日誌や筋力測定の記録を患者と共有し、進捗を振り返る。
• 訪問・フォロー:透析外の日の運動サポート(通院リハ、在宅運動プログラム)、定期フォローによってモチベーション維持。
運動療法によるサルコペニア予防は有望な介入ですが、臨床的には以下のような課題があります。
1. 研究の限界:多くの試験が比較的小規模であり、より大規模かつ長期間のランダム化試験が必要。
2. 長期アウトカムの不明確性:筋力や筋量の改善が必ずしも死亡率や入院率などの長期予後にどう結びつくかはまだ十分に解析されていない。
3. 栄養との併用介入:運動のみならず、たんぱく質摂取や栄養補助を組み合わせた戦略の最適化が重要。
4. 施設・リソースの制約:透析施設によっては運動指導を行う理学療法士や運動機器が不足しているケースがある。
これらの課題をクリアするには、多職種協力、制度支援(保険適用、リハビリスタッフ配置等)、継続的な研究が必要です。
• 透析患者にとって、サルコペニアは非常に重大な合併症であり、QOL・予後に深刻な影響を与える。
• 運動療法(特にレジスタンス運動や透析中訓練)は筋力維持・改善に有効であるというエビデンスが蓄積されつつある。
• 安全性を確保しながら適切なプログラムを設計し、継続性を支えることで、サルコペニア予防・身体機能改善が現実的になる。
• 今後は、さらなる研究、大規模な臨床導入、多職種チーム体制の構築が求められる。
医療従事者として、透析患者への運動療法を通じ、サルコペニアを未然に防ぎ、筋力とQOLを守るケアを実践していきましょう。
(※1)Dong Z J, Zhang H L, Yin L X. Effects of intradialytic resistance exercise on systemic inflammation in maintenance hemodialysis patients with sarcopenia: a randomized controlled trial. International Urology and Nephrology. 2019;51(8):1415–1424.
https://link.springer.com/article/10.1007/s11255-019-02200-7
(※2)Lorena Cristina Curado Lopes, et al. Intradialytic Resistance Training Improves Functional Capacity and Lean Mass Gain in Individuals on Hemodialysis: A Randomized Pilot Trial. Arch Phys Med Rehabil. 2019 Nov;100(11):2151-2158.
https://doi.org/10.1016/j.apmr.2019.06.006
(※3)Felipe Martins do Valle, et al. Effects of intradialytic resistance training on physical activity in daily life, muscle strength, physical capacity and quality of life in hemodialysis patients: a randomized clinical trial. Disabil Rehabil
. 2020 Dec;42(25):3638-3644.
https://doi.org/10.1080/09638288.2019.1606857
(※4)山田 将平ら.腹膜透析患者におけるサルコペニアの現状と運動療法.日本腎臓リハビリテーション学会誌. 2024 年 3 巻 2 号 p. 111-122
https://doi.org/10.60371/jjrr.3.2_111
掲載日:2026/2/27

