慢性透析患者における 運動の継続 は、筋力維持、QOL(生活の質)の改善、透析効率など様々な健康効果をもたらす可能性があります。
しかし、透析患者は体調変動や疲労、時間制約などによって運動を途切れさせやすく、モチベーション維持が大きな課題です。
医療従事者として、どのような支援が継続性を高めるのかを理解し、実践に落とし込むことは非常に重要です。
本コラムでは、透析患者が運動を続けやすくするためのモチベーション維持法を、エビデンスと実践の両面から整理します。
まず、透析患者にとって運動を継続するメリットを確認しておきましょう。
• 筋力と身体機能の維持・改善
定期的な透析中運動や透析外運動を継続することで、筋力低下の抑制や下肢機能改善が期待されます。
• QOL(生活の質)の向上
運動によって身体機能が改善されるだけでなく、日常生活での自主性や移動能力が上がることで、QOL が改善する報告があります。
• 健康行動の定着
運動継続は自己効力感(自分で健康を管理できるという感覚)を高め、長期的な健康行動の定着につながります。
これらの利益を、患者に伝えること自体が動機づけになります。
透析患者が運動を継続できない背景には、さまざまな 障壁 が存在します。
そしてそれらを理解し、モチベーションを維持する戦略を設計することがカギです。
• 疲労感と倦怠
透析後や透析中、体がだるくて運動が億劫になる。
• 時間的制約
透析スケジュールが固定されており、運動時間を作るのが難しい。
• アクセスや設備不足
自宅や透析施設に適切な運動機器がない。
• 心理的障壁
「運動しても意味がない」「自分には無理」といった自己効力感の低さ。
• サポート不足
医療スタッフや家族からの励まし、具体的な運動プランの提示やフォローが不足している。
これらの障壁に対して、以下のような動機づけアプローチが有効です。
(1)教育と自己効力感の強化
• 運動の効果を伝える
運動が筋力維持、QOL改善、合併症予防などに具体的に役立つことを、患者に説明する。
• 自己効力感の向上
小さな目標(例:透析中に5分エルゴメータをこぐ、週1回から始めるなど)を設定し、成功体験を積ませる。
(2)環境の整備とアクセスの改善
• 透析中運動の導入
透析時間を利用して、安全に運動できる環境(椅子、自転車タイプエルゴメータ、抵抗バンドなど)を整える。
• 定期サポート体制
理学療法士や運動指導者と定期的に相談する機会を作る。
• 家庭での運動習慣
透析をしない日に行える簡単なエクササイズプログラム(ウォーキング、筋トレなど)を提供する。
(3)社会的支援とフォローアップ
• グループ運動・ピアサポート
他の透析患者との運動グループを作る、あるいは定期的な運動クラブを運営する。
• モニタリングとフィードバック
運動記録帳や日誌、定期評価を活用し、進捗を可視化する。
• 報酬制度
運動継続に対して、小さな報酬や称賛を与える仕組みを作る(例:達成カード、達成報告会など)。
モチベーション維持については、多くの研究が理論的/実践的視点で取り組まれています。
「実施可能性研究(feasibility study)」で、透析患者に対して 透析中抵抗トレーニング(レジスタンス運動) を導入した調査があります(※1)。
この研究では、週3回のプログラムで 継続率は79.6% に達し、低血圧などの合併症は比較的少数であったという報告があります。
これは、透析患者にも運動継続が現実的であることを示す強い証拠です。
8週間の透析中自転車運動介入研究では、健康促進行動(Health Promoting Lifestyle Profile II, HPLP-II) のスコアが有意に改善したという報告があります(※2)。
これは、運動によって身体活動以外の健康行動(栄養、ストレス管理など)にも好影響を与え、自己管理行動を促進する心理的作用があることを示しています。
メンテナンス型透析患者に対して エビデンスに基づく運動プログラムを透析中に実施した試み(systematic evidence based practice)があり、理学療法士と看護師による統合アプローチで 継続性(アドヒアランス)を改善 し、筋力・QOL の指標が向上したと報告されています(※3)。
このような組織的支援と計画的アプローチが、継続の鍵となります。
医療現場で透析患者の運動継続支援を実際に設計・運用するにあたり、以下のステップをおすすめします。
1. 運動継続に関する評価
o 新規運動導入前に「継続意欲」「過去の運動経験」「支援を必要とする障壁」をアンケートや面談で把握
2. 段階的プログラム設計
o 初期段階:透析中の軽〜中強度運動(エルゴメータ、レジスタンスバンド等)
o 継続段階:透析外でも実施可能な自主運動プランを設計
3. モチベーション強化の仕組み構築
o 達成目標の共有(例:「3か月で週80%以上運動継続」)
o 運動記録カード、フィードバックミーティング、称賛や報酬制度の活用
4. サポート体制の整備
o 多職種連携(医師、看護師、理学療法士、運動指導者)で定期的なモニタリングと評価
o 運動中の安全確保(バイタル観察、シャントケア、緊急対応計画)
5. 継続性評価と改善
o 定期的(例3か月ごと)に継続率を測定・評価
o 運動への参加率、自己報告、障壁の変化をモニタリングし、必要に応じてプランを修正
• 個別化介入の必要性
運動継続には個別差が大きいため、一律プログラムではなく、患者のライフスタイル・健康状態に合わせた柔軟な設計が求められます。
• 長期維持の研究不足
多くの研究は数か月〜半年の短期介入にとどまっており、1年以上にわたる運動継続とその臨床アウトカム(QOL、予後など)を検証する研究が必要です。
• デジタル・支援技術の活用
運動アプリ、モバイル通知、リモートコーチングなどのテクノロジーを活用し、モチベーションを高める仕組みを構築する可能性があります。
• 制度的支援
運動を継続させるために、透析施設内で運動プログラムを制度化(リハビリスタッフ配置、報酬制度など)する体制整備が望まれます。
• 透析患者における運動の 継続 は、筋力維持、QOL 向上、健康行動定着に非常に重要です。
• 運動継続を阻む障壁には、疲労、時間制約、心理的要因などがありますが、これらを理解し支援することで継続性を高められます。
• 教育、環境整備、社会的支援、定期的なモニタリングなど多面的なアプローチが必要です。
• 実践現場では、段階的なプログラム設計と多職種連携、記録・目標設定、報酬制度などを通じて運動継続を支える体制を構築しましょう。
透析医療において、運動を継続できる文化を育てることは、患者の健康寿命と QOL を支える重要な資産となります。
医療従事者として、この継続支援を設計・実践することで、透析患者の健やかな生活に貢献できるでしょう。
1. Hemodialysis patients perceived exercise benefits and barriers: the association with health related quality of life. BMC Nephrology. 2021;22:373. https://doi.org/10.1186/s12882-021-02292-3
2. Implementing a resistance training programme for patients on short daily haemodialysis: A feasibility study. J Ren Care. 2023 Jun;49(2):125-133 https://doi.org/10.1111/jorc.12423
3. Evidence based practice of exercise during dialysis in maintenance hemodialysis patients. International Urology and Nephrology Volume 57, pages 3851–3865, (2025) https://doi.org/10.1007/s11255-025-04624-w
掲載日:2026/3/6

