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透析患者の筋力低下を防ぐには?
“動かない時間”を減らすチーム医療の工夫

1.なぜ今、「動かない時間」が問題なのか

透析患者では、日常生活の中で座っている時間や横になっている時間が長くなりやすいことが知られています。特に高齢患者では、透析日には疲労感が強く、活動量が大きく低下する傾向があります。
こうした“動かない時間”の増加は、単なる運動不足ではなく、筋力低下や身体機能低下、さらにはフレイルやサルコペニアの進行につながる重要な問題です。
実際に、透析患者では健常者と比較して身体活動量が低く、歩行速度や下肢筋力の低下がみられることが報告されています(※1)。また、身体活動量が少ない患者ほど予後不良となる可能性も示されています。
透析医療の現場では、これまで「安全な透析管理」が中心でした。しかし近年では、“透析患者の生活機能をどう維持するか”という視点が強く求められるようになっています。
その中で重要になるのが、「運動を増やす」だけでなく、“動かない時間を減らす”という考え方です。

2.透析患者に筋力低下が起こりやすい理由

透析患者で筋力低下が進みやすい背景には、複数の要因があります。

尿毒症や慢性炎症の影響

透析患者では慢性炎症や代謝異常が持続しやすく、筋蛋白の分解が進みやすい状態にあります。加えて、食欲低下による低栄養も筋肉量減少の一因となります。

透析日に活動量が低下しやすい

透析後には血圧低下や疲労感を訴える患者も多く、帰宅後に長時間横になって過ごすケースも少なくありません。
特に週3回の透析を受ける患者では、「透析→休む」という生活サイクルが定着しやすく、結果として身体活動量が慢性的に低下します。

入院や安静による廃用

感染症やシャントトラブルなどで入院した場合、短期間でも筋力低下が進行することがあります。
高齢透析患者では、数日間の安静だけでも歩行能力が低下し、その後ADLが戻りにくくなるケースもあります。

つまり、透析患者における筋力低下は、“病態”と“生活習慣”の両方が関係しているのです。

3.“運動指導”だけでは活動量は増えにくい

透析患者への運動療法は重要ですが、「運動してください」と伝えるだけでは継続が難しいことも多くあります。

その理由として、
・疲労感が強い
・運動への不安がある
・何をすればよいかわからない
・一人では続かない
・転倒が怖い
といった心理的・身体的ハードルがあります。

そのため近年では、「特別な運動」だけではなく、日常生活の中で少しでも身体を動かす工夫が重要視されています。

たとえば、
・待ち時間に立位を増やす
・エレベーターではなく階段を使う
・自宅内で座りっぱなしを避ける
・テレビ視聴中に足踏みをする
など、小さな活動の積み重ねがポイントになります。

透析患者では、“ゼロを一気に十にする”のではなく、“ゼロを一にする”支援が非常に重要です。

4.透析室でできる“動かない時間”を減らす工夫

透析患者の活動量向上には、透析室全体で取り組むことが重要です。

透析中運動の導入

近年では、透析中にエルゴメーターを利用して、下肢運動を実施する施設も増えています。
透析中運動は、患者が通院済みであることから継続しやすく、運動習慣化につながりやすい利点があります。

近年のメタアナリシスでは、透析中運動が身体機能や健康関連QOLの改善に関連することが報告されています(※2)。ただし、すべての患者が積極的に運動を行えるわけではありません。

そのため、
・ベッド上での足関節運動
・下肢挙上
・軽いゴムバンド運動
・座位保持時間の延長
・電気刺激を利用した他動運動
など、患者の状態に合わせた段階的介入が重要です。

「今日はどれだけ動けたか」を共有する

スタッフ間で活動量を共有することも効果的です。

たとえば、
・透析室まで歩いて来られた
・待合室で長く座らず過ごせた
・杖なし歩行が可能だった
といった小さな変化をチームで共有することで、患者のモチベーション向上につながります。

また、「できなかったこと」ではなく「できたこと」に注目する声かけは、継続支援において重要です。

5.チーム医療だからこそできる支援

透析患者の筋力低下対策は、一職種だけでは限界があります。

看護師の役割

看護師は患者と接する時間が長く、活動量低下のサインに最も早く気づきやすい存在です。
・最近歩行速度が低下した
・更衣動作に時間がかかる
・透析後すぐ横になる
など、日常の変化を把握しやすいため、早期介入の起点となります。

理学療法士・作業療法士の役割

身体機能評価や運動処方だけでなく、
・転倒リスク評価
・日常生活動作指導
・自宅環境調整
・活動量向上支援
など、多面的な介入が可能です。

特に「安全に動く方法」を提案できる点は大きな強みです。

管理栄養士の役割

筋力維持には栄養管理も欠かせません。
低栄養状態では、運動だけでは十分な筋力改善が得られにくいため、
・タンパク質摂取状況
・食欲低下
・エネルギー不足
などを含めた総合的な支援が必要になります。

医師の役割

運動制限の必要性だけでなく、「どこまで動いてよいか」を明確に示すことも重要です。
患者によっては、「動くと危険」と過度に思い込んでいるケースもあります。
安全性を担保しながら活動を促すメッセージは、患者の安心感につながります。

6.“生活を支える透析医療”へ

透析患者では、筋力低下や身体機能低下が進行しやすく、“動かない時間”の増加がその一因となります。

しかし、活動量向上は「運動療法」だけで実現するものではありません。

・日常の小さな活動を増やす
・長時間座り続けない
・透析室で身体を動かす習慣をつくる
・多職種で患者を支える
こうした積み重ねが、透析患者の生活機能維持につながります。

今後の透析医療では、“生命維持”だけでなく、“その人らしい生活を維持すること”がさらに重要になるでしょう。
透析患者の筋力低下を防ぐためにも、「どれだけ運動したか」だけではなく、“どれだけ動かない時間を減らせたか”という視点を、チーム全体で共有していくことが求められます。

参考文献

(※1)Physical activity levels in patients on hemodialysis and healthy sedentary controls, K L Johansen, et al.
Kidney International, 2000 Jun;57(6):2564-70.
https://doi.org/10.1046/j.1523-1755.2000.00116.x

(※2)Intradialytic exercise training modalities on physical functioning and health-related quality of life in patients undergoing maintenance hemodialysis: systematic review and meta-analysis, Mansueto Gomes Neto, et al.
Clinical Rehabilitation, 2018 Sep;32(9):1189-1202.
https://doi.org/10.1177/0269215518760380

掲載日:2026/6/10

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