医療現場は、日々、緊張感と責任感を伴う環境です。命を預かる医療従事者は、精神的・身体的に大きな負担を抱えやすく、ストレスによる健康問題や離職リスクも高い職種の一つとされています。
そこで近年注目されているのが、レジリエンス(回復力)の重要性です。
レジリエンスとは、逆境や困難に直面しても、しなやかに適応し、回復する力を指します。
本コラムでは、医療従事者に求められるレジリエンス(回復力)の意味と、健康を維持しながらその力を高めるための方法について、エビデンスに基づきご紹介します。
レジリエンス(Resilience)は、心理学的には「心のしなやかさ」とも表現され、
・ストレスやプレッシャーを受けたときに心身のバランスを保つ力
・困難を乗り越える適応力
・逆境から立ち直る力
を意味します。
医療従事者にとっては、患者対応・緊急時対応・同僚との協働・長時間勤務など、多様なストレス要因が日常的に存在します。
そのため、レジリエンスは健康管理や職場適応力を高める上で、極めて重要な能力といえます。
レジリエンスが高い人ほど、ストレスに伴う不安・抑うつ・バーンアウトの発症率が低いことが報告されています。
また、レジリエンスは身体的健康にも良好な影響を与えるとされ、免疫機能や睡眠の質の向上とも関連しています。
1. 感情労働との向き合い方
医療従事者は、患者や家族とのコミュニケーションを通じて感情労働に従事する場面が多く、
・共感疲労
・感情の切り替え困難
・精神的消耗
などが起きやすいといわれています。
このような感情労働に対しても、レジリエンスが高い人ほどネガティブな影響を受けにくく、自己コントロールや共感的対応が可能になると報告されています。
2. チーム医療におけるストレス耐性
多職種連携の場では、意見の違いや価値観の相違も生じやすく、
・対人関係ストレス
・役割葛藤
が医療従事者の離職要因となることがあります。
レジリエンスが高い医療従事者は、建設的なコミュニケーションができ、問題解決型の対話が促進されることが示されています。
3. 感染症対応などの緊急事態での適応力
感染症流行時や災害医療などの緊急事態では、過度なストレス環境下での迅速な対応が求められます。
こうした状況でも、レジリエンスが高い医療従事者は冷静な判断力と持続的なパフォーマンスを発揮できるとされます。
1. ストレスマネジメントの実践
・マインドフルネス
呼吸法や瞑想を通じたストレス低減法は、心の回復力を高める効果が確認されています。
・セルフケア習慣の確立
良質な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動など、健康的な生活習慣がレジリエンス向上に寄与します。
・ポジティブ心理学の活用
感謝の気持ちを意識したり、ポジティブな出来事を振り返る習慣が、心の柔軟性を高めることが知られています。
2. ソーシャルサポートの活用
・チーム内の信頼関係構築
同僚との信頼関係は、ストレス耐性を高める要素となります。オープンな対話や定期的なミーティングが有効です。
・相談・カウンセリングの活用
職場内外での相談機会を持ち、感情を吐き出せる環境を整えることが、心の安定に役立ちます。
3. 継続的な学びと成長
・自己効力感の向上
自身の成長を実感できる学びは、レジリエンス強化に直結します。定期的な研修参加やスキルアップを意識しましょう。
・振り返りとリフレクション
日々の業務を振り返り、成功体験と失敗体験の両方から学びを得ることで、困難に立ち向かう力が培われます。
医療従事者自身が健康を維持し、レジリエンスを高めるためには、以下のような生活管理が推奨されます。
・定期的な運動(ウォーキング・ストレッチ)
・規則正しい食事と十分な水分摂取
・質の良い睡眠
・適度な休息とリラックス時間の確保
これらの基本的な健康管理は、身体的健康だけでなく、精神的なレジリエンスにも直結します。
医療従事者にとって、レジリエンス(回復力)は業務継続と心身の健康維持に欠かせない重要な資質です。
ストレスの多い医療現場において、レジリエンスを高めるためには、ストレスマネジメント・ソーシャルサポート・自己成長の促進が効果的です。
自身の健康を大切にし、周囲と協力しながらしなやかに成長することで、医療従事者としての持続可能なキャリア形成につなげていきましょう。
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