集中治療室(ICU)では、重篤な患者の救命率は年々向上しています。しかし、治療を乗り越えた後も、身体機能・認知機能の低下、精神的ストレスなどを含む「集中治療後症候群(PICS)」に悩む患者は少なくありません。このPICSは退院後のQOL(生活の質)を大きく低下させるため、ICU期からの体系的なリハビリ介入が重要視されています。
本コラムでは、ICUにおけるリハビリのエビデンスを紹介しながら、医療従事者が押さえておくべきポイントを整理します。
ICUでは安静管理が長期化しやすく、筋力低下(特に四肢・呼吸筋)やADL能力の大幅な低下が生じやすいことが知られています。人工呼吸器管理や鎮静の影響も加わり、動けない期間が延びるほどICU‐acquired weakness(ICUAW)が発症しやすくなります(※1)。
ICUAWは退院後も長期間にわたりQOLを制限し、職場復帰率低下や社会参加の遅れと関連することが報告されています(※2)。
そのため「救命だけでなく、救命後の生活の質を守る医療」が求められ、ICUリハビリは国際的にも標準ケアとして位置づけられつつあります。
ICUリハビリの特徴は、人工呼吸器装着中でも可能な範囲での早期介入にあります。離床のプロセスは一般的に下記のステップで組み立てられます。
1. ベッド上での関節可動域練習
2. 端座位保持
3. 立位練習
4. 歩行練習
安全性チェックを行ったうえで、段階的に活動量を増やすことで、筋力低下の抑制、呼吸機能改善、デリリウム予防に寄与するとされています。
人工呼吸器装着患者に対し、早期リハビリ+早期離床を実施したランダム化比較試験では、
・機能的自立度の改善
・ICU滞在日数の短縮
などのメリットが示されています(※3)。
また、別の研究では、早期離床プログラムを導入した群は、従来ケア群と比べて退院時の歩行自立度が有意に高かったことが報告されており、身体機能保持に強い効果が期待できます。
早期リハビリはICUAWの発症を抑え、退院後のADL制限を軽減します。特に歩行・立位といった基本動作が早期から再獲得しやすくなります。
ICU患者に多いデリリウムを減少させることが示されており、退院後の不安・抑うつリスクの低減にも寄与する可能性があります。
退院後のADL能力が高いほど、社会復帰・在宅生活の安定が期待できるため、ICU期の介入が長期的なQOLの基盤となります。
医師・看護師・理学療法士(PT)・作業療法士(OT)などがリアルタイムで情報を共有し、活動許容量を判断します。患者の循環動態・呼吸状態を踏まえた可否判断が極めて重要です。
酸素化、循環動態、人工呼吸器の設定など安全指標を明確化し、無理のない範囲で離床を進めます。ガイドラインでも、安全指標の明確化が推奨されています。
急な血圧変動、心拍数の異常上昇、呼吸困難、鎮静レベルの変化などが見られれば即時中断します。
ICUでの介入後、一般病棟・回復期・外来/訪問リハビリへと連続的に支援することで、最終的なQOL改善がより確実になります。
PICS予防の観点では、
・運動機能リハビリ
・認知トレーニング
・精神的サポート(不安・PTSD対策)
などを組み合わせた包括的支援が推奨されています。
ICUリハビリは、単に機能回復のためだけでなく、救命後の患者の人生を支えるための重要な医療的介入です。
エビデンスが積み重ねられた現在、ICU期からの早期離床・早期リハビリは「救命率向上のその先」を支える標準的アプローチとして位置づけられています。
医療従事者が適切なタイミングと方法でリハビリを導入することが、患者のQOL改善、社会復帰促進、そして長期的な健康維持につながります。
Stevens RD, et al. “Neuromuscular dysfunction acquired in critical illness.” Intensive Care Med. 2007 Nov;33(11):1876-91.
https://doi.org/10.1007/s00134-007-0772-2
Herridge MS, et al. “Functional disability 5 years after acute respiratory distress syndrome.” N Engl J Med. 2011 Apr 7;364(14):1293-304
https://doi.org/10.1056/NEJMoa1011802
Schweickert WD, et al. “Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated patients.” Lancet.Volume 373, Issue 9678p1874-1882
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(09)60658-9
掲載日:2026/2/5

