脳血管障害は、急性期治療の成否が生命予後だけでなく、その後の機能回復や生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす疾患です。近年、集中治療室(ICU)での全身管理技術は進歩し救命率は向上していますが、その一方で長期臥床や鎮静、人工呼吸管理に伴う廃用症候群やICU-acquired weakness(ICU-AW)が新たな課題として浮上しています。
こうした背景から、ICU在室中からリハビリテーションを開始するICUリハが注目されています。本コラムでは、急性期脳血管障害患者に対するICUリハの実際について、安全性と効果をエビデンスに基づいて解説します。
脳血管障害患者は、発症直後に血圧管理や呼吸管理、脳浮腫対策など厳密な全身管理を要するため、ICUまたはSCUに入室するケースが多くみられます。この期間に安静が長期化すると、筋力低下、関節拘縮、起立耐性低下などが急速に進行します。
ICUリハは、こうした廃用を最小限に抑えることを目的に、超急性期から段階的に身体活動を導入する介入です。脳血管障害では発症早期ほど神経可塑性が高いことが知られており、早期からの介入が機能予後改善につながる可能性が示唆されています(※2)。
急性期脳血管障害患者にICUリハを実施する際、多くの医療従事者が懸念するのが「安全性」です。特に、人工呼吸管理中や循環動態が不安定な患者に対する離床介入には慎重な判断が求められます。
この点に関して、Schweickertらは、人工呼吸管理下の重症患者を対象に、ICU在室中から理学療法・作業療法を開始した無作為化比較試験を報告しています。その結果、早期リハ介入群では重篤な有害事象の増加は認められず、機能的自立度が有意に改善したことが示されました(※1)。
この研究は、脳血管障害患者を含むICU患者に対して、適切なリスク管理のもとで行うICUリハは安全に実施可能であることを示す重要なエビデンスといえます(※1)。
① 廃用症候群・ICU-AWの予防
ICUリハの最大の効果は、筋力低下や関節拘縮といった廃用症候群の予防です。脳血管障害患者では麻痺側だけでなく非麻痺側にも筋力低下が生じやすく、早期介入の重要性が高いとされています。
ICUでの早期離床や活動量確保が、身体機能低下を抑制し、機能的自立度の改善につながることが報告されています(※1)。
② 覚醒レベル・せん妄予防への効果
ICUリハでは、ベッド上運動だけでなく、端座位や立位といった抗重力位への介入を段階的に行います。これにより、感覚入力が増加し、覚醒レベルの改善やICUせん妄の予防につながる可能性があります。
Schweickertらの研究でも、早期リハ介入群でせん妄期間が短縮したことが示されており、神経学的観点からもICUリハの有効性が示唆されています(※1)。
③ ADL改善と回復期リハへの円滑な移行
脳血管障害患者において、急性期からリハビリ介入を行うことは、その後のADL能力に影響を及ぼします。Langhorneらによるシステマティックレビューでは、早期からリハビリテーションを導入することで、ADL能力の改善や自宅退院率が向上することが示されています(※2)。
ICUリハによって早期から活動量を確保することは、回復期リハへのスムーズな移行を支える重要な要素となります(※2)。
ICUリハは、患者の全身状態と神経学的所見を踏まえ、段階的に実施されます。
・超急性期:ポジショニング、関節可動域運動、呼吸理学療法
・全身状態安定後:端座位保持、座位バランス訓練
・可能な場合:立位、足踏み、簡易歩行練習
実施にあたっては、血圧変動、頭蓋内圧、再出血リスクに注意し、医師・看護師・理学療法士が常に情報共有しながら進めることが不可欠です。
ICUリハを安全かつ効果的に実施するためには、多職種連携が欠かせません。医師、看護師、理学療法士を中心に、患者の状態や当日のリスクを共有し、「どこまで動かせるか」をチームで判断する体制が求められます。
このような体制構築が、ICUリハの質を高め、急性期脳血管障害患者の機能回復を支える基盤となります(※1、※2)。
急性期脳血管障害患者に対するICUリハは、廃用予防、覚醒促進、ADL改善、回復期リハへの円滑な移行といった多面的な効果が期待される介入です。エビデンスに基づいた安全管理と多職種連携のもとで実施することで、その効果を最大限に引き出すことが可能となります(※1、※2)。
ICU在室中からのリハビリ介入は、脳血管障害診療の質を高める重要な鍵といえるでしょう。
※1)Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients, William D Schweickert, MD, et al.The Lancet;2009 ,Volume 373, Issue 9678p1874-188.
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(09)60658-9
※2)Early supported discharge services for people with acute stroke,Peter Langhorne, et al.Cochrane Database of Systematic Reviews; 2017 Jul 13;7(7):CD000443.
https://doi.org/10.1002/14651858.CD000443.pub4
掲載日:2026/03/24

