近年、急性期医療の現場で「サルコペニア」が重要なテーマとなっています。
従来、サルコペニアは加齢によって生じる筋肉量の減少として認識されることが多く、高齢者領域で注目されてきました。しかし現在では、急性疾患や入院によって短期間で進行する“急性期サルコペニア”の概念が広く知られるようになっています。
急性期では、
・炎症
・安静
・栄養不足
・活動量低下
などが複合的に影響し、短期間で筋力低下や身体機能低下が進行します。
特に高齢患者では、わずか数日の臥床でも下肢筋力低下が起こりやすく、その後のADL低下や転倒リスクの増加、在院日数の延長につながる可能性があります。
近年では、「疾患を治療すること」だけでなく、“退院後の生活機能をどう維持するか”が急性期医療において重要視されています。
その中で、サルコペニア予防は重要なテーマとなっているのです。
急性期では、通常の加齢性サルコペニアとは異なり、“急速な筋肉量の減少”が起こりやすい特徴があります。
急性疾患では炎症性サイトカインが増加し、筋蛋白分解が促進されます。
特に感染症、外傷、術後などでは異化亢進状態となり、筋肉量の減少が加速します。
これは単なる「動かないこと」だけではなく、“病態そのもの”が筋力低下を引き起こしている状態ともいえます。
急性期では、安全管理上、安静が必要になる場面もあります。
しかし長時間の臥床は、
・下肢筋力低下
・持久力低下
・起立性低血圧
・バランス能力低下
などを招きます。
特にICU入室患者では、ICU-acquired weakness(ICU-AW)が問題となることもあります。
また、高齢患者では、数日間の活動量低下がそのままADL低下につながるケースも少なくありません。
急性期では、
・食欲低下
・絶食
・嚥下機能低下
・消化器症状
などによってエネルギー・タンパク質摂取不足が生じやすくなります。
筋肉維持には運動だけでなく栄養管理も不可欠であり、急性期サルコペニアでは「リハビリだけ」では十分ではありません。
急性期におけるサルコペニア予防では、「悪化してから対応する」のではなく、“早期から介入すること”が重要です。
近年、急性期医療では早期離床の重要性が広く認識されています。
研究では、早期リハビリテーションが身体機能の維持や在院日数の短縮に関連する可能性が報告されています(※1)。
ただし、重要なのは単に「起こすこと」ではありません。
・座位時間を増やす
・ベッド外活動を増やす
・トイレ歩行を促す
・日常動作を維持する
など、“活動量全体を増やす”視点が必要です。
急性期では、安全性を重視するあまり、「とりあえず安静」が選択されることもあります。
しかし、過度な安静はサルコペニア進行の大きな要因になります。
そのため現在では、「どこまで安全に動けるか」を評価しながら活動を維持する考え方が重視されています。
つまり、
・完全安静か
・積極的運動か
の二択ではなく、“患者ごとに適切な活動量を探る”ことが重要なのです。
急性期サルコペニア予防では、運動療法と栄養管理の両立が不可欠です。
近年では、「リハビリテーション栄養(リハ栄養)」の考え方が広がっています。
これは、
・栄養状態評価
・サルコペニア評価
・運動療法
・栄養介入
を組み合わせて機能の改善を目指す考え方です。
サルコペニア患者では、運動のみでは十分な筋合成が得られないこともあり、タンパク質摂取やエネルギー確保が重要になります。
急性期では、低栄養リスクの早期把握も重要です。
例えば、
・体重減少
・食事摂取量低下
・アルブミン低下
・筋肉量減少
などを総合的に評価する必要があります。
また、嚥下障害を伴う患者では、摂食嚥下支援との連携も重要になります。
医師には、
・安静度設定
・疾患管理
・炎症コントロール
などが求められます。
また、「どこまで活動してよいか」を明確に示すことは、チーム全体の活動促進につながります。
看護師は患者の日常活動を最も近くで観察しています。
・離床状況
・食事摂取量
・ADL変化
・倦怠感
などを把握しやすく、早期異変の察知に重要な役割を担います。
また、「できることを患者自身に行ってもらう」支援も重要です。
理学療法士・作業療法士は、
・身体機能評価
・活動量向上
・起居動作練習
・歩行練習
などを通じて、廃用予防を支援します。
また、“安全に活動を増やす方法”を提案できることが大きな役割です。
管理栄養士は、
・必要エネルギー量算定
・タンパク質管理
・栄養補助食品提案
などを担当します。
急性期では、「食べられる時期を逃さない」視点も重要になります。
急性期医療では、これまで「命を救うこと」が最優先でした。
もちろんその重要性は変わりません。
しかし今後は、“退院後の生活機能を守ること”も同じくらい重要になると考えられます。
急性期サルコペニアは、
・ADL低下
・フレイル進行
・再入院
・要介護化
などにつながる可能性があります。
だからこそ、急性期の段階から、
・動かない時間を減らす
・栄養状態を維持する
・多職種で活動を支える
という視点が重要です。
サルコペニア予防は、単なる筋力維持ではありません。
それは、“患者が退院後もその人らしい生活を続けるための支援”につながっているのです。
(※1)Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated, critically ill patients: a randomised controlled trial, William D Schweickert, et al.
The Lancet, 2009 May 30;373(9678):1874-82.
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(09)60658-9
(※2)Acute skeletal muscle wasting in critical illness, Zudin A Puthucheary, et al.
JAMA, 2013 Oct 16;310(15):1591-600
https://doi.org/10.1001/jama.2013.278481
掲載日:2026/6/17

