拘縮は、長期臥床や麻痺、神経・筋疾患、整形外科的手術後などに伴って関節の可動域が制限され、日常生活動作(ADL)の低下を引き起こす原因となる病態です。特に高齢者や脳血管障害後の患者に多く見られ、治療とリハビリが重要な介入手段となります。本コラムでは、「拘縮」「治療」「リハビリ」というキーワードを軸に、部位別の罹患状況と最新の治療戦略、エビデンスに基づくリハビリ方法について解説します。
拘縮(contracture)は、筋肉・腱・靱帯・皮膚・関節包などの軟部組織の短縮または硬化により、関節の正常な可動範囲が制限される状態を指します。発症要因には以下のようなものがあります。
・長期臥床や不動化
・脳血管障害(脳梗塞・脳出血)
・外傷や手術後の瘢痕形成
・神経障害(末梢神経損傷など)
・筋ジストロフィーなどの筋疾患
これらの原因が複合して進行すると、可動域制限が固定化し、生活の質を著しく低下させます。
・肩関節の拘縮:肩関節は可動域が広いため、拘縮が生じやすく、肩関節周囲炎や脳卒中後の麻痺によるものが多く見られます。特に肩甲上腕関節における外転や屈曲制限が顕著です。
・肘関節・手関節の拘縮:上肢の神経損傷や長期ギプス固定後に発症しやすく、日常生活での整容・食事・更衣動作に影響を与えます。
・股関節の拘縮:長期間の臥床や大腿骨近位部骨折後の固定により発生しやすく、移動能力の低下に直結します。特に屈曲拘縮が多く報告されています。
・膝関節の拘縮:人工関節置換術後や骨折後の長期固定によって発症するケースが多く、歩行能力への影響が顕著です。
・足関節の拘縮:脳卒中後の尖足(足関節底屈位固定)や長期臥床によって起こり、立位や歩行の安定性を大きく損ないます。
拘縮に対する治療は、早期介入と多職種連携による継続的な評価が重要です。主な治療法には以下が含まれます。
・可動域訓練(ROM訓練):関節をゆっくりと動かすことで、軟部組織の柔軟性を維持・改善します。
・ストレッチ:筋・腱の持続的な伸張が有効で、毎日の実施が推奨されます。
・物理療法:温熱療法や超音波療法は、軟部組織の柔軟性向上に寄与します。
・装具療法:夜間装具やダイナミックスプリントを用いた持続的な牽引による関節の伸展保持。
・薬物療法:痙縮がある場合はボツリヌス毒素(ボツリヌス療法)や筋弛緩薬の併用が考慮されます。
・手術療法:重度の拘縮や保存療法無効例には、腱延長術や関節授動術が検討されます。
拘縮の改善には、個別性の高いリハビリ計画と実践が求められます。リハビリでは、関節の他動的運動から始め、徐々に自動運動や筋力トレーニングに移行していきます。
・他動的運動(PROM):他者の介助で関節を動かし、関節構造の可動性を維持します。
・自動運動(AROM)・筋力トレーニング:筋活動を通じて拘縮予防と機能維持を図ります。
・日常生活動作訓練(ADL訓練):実生活に近い場面での訓練が、QOL向上につながります。
近年では、持続的な関節牽引装置(CPM)の使用や、リハビリ支援ロボットの導入により、効果的な拘縮治療が進められています。
拘縮は、早期に適切な治療とリハビリを行うことで、進行を防ぎ、生活機能を回復させることが可能です。医療従事者として、部位別の特性を理解し、根拠に基づいた治療戦略を実践することが、患者のADLとQOL向上に直結します。
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